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創世機神ガインスレイザー  作者: きし
第一章『サバイバル入学式』
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7

 火桜空也、海凪澪音の両名がサバイバルの終わりを耳にすること、同時刻に他の勝利者達も同じアナウンスを聞いていた。


 『――試験を終了とします』


 ある新入生の少女は、創機の操縦席にいた。

 胸ポケットから大粒の飴玉を取り出し、紙袋を開けて口に放り込む。

 ラムネ味をたっぷりと堪能していれば、


 『わわわっ! いいなあ! いいなあ! あたちにもちょうだい!』


 また少女の声が聞こえれば、質量を持っていたはずの存在である創機が光の粒子に散り、少女の隣にまた別の少女が並ぶ。

 口の中に飴玉を転がす少女は、おかっぱの髪に長身、どこか気だるそうにしているのはこの試験に疲れたからというより、そもそもこういう顔や雰囲気をしているのだろう。

 そして、その少女の隣には今さっきまで創機だった少女が立つ。同じく新入生なのだろうが、長身の少女よりの肩よりも頭一つ低い身長で、高校生に上がったというよりも中学生になったばかりといった方が正しいような幼い顔立ちと姿をしていた。二つの結んだ髪、ツインテールをうさぎの飾りが付いた髪留めを揺らせば、隣の長身の少女に抱き付いた。


 「ちょうだい! ちょうだい! ちょうだいよおぉぉぉ!」


 「うるさいな。……はいはい、コレでも食べとくんだ」


 「なにそれ、凄い綺麗な赤色だね! かわいいー! あーん、もぐもぐ……――て、辛あぁぁぁぁぁぁい!!!」


 「フッ」


 「何笑ってんのさ!? ひーひー! お水ないの!? ヒカリの舌まっかかかかだよぉ!?」


 ヒカリと名乗る少女が既に膨らみ始めた唇でぎゃんぎゅん喚く。じろりとそれを見れば、再び飴玉を取り出す。これまたカラフルなイエローカラー。


 「だったら、これでも食べとけ。黄色だ」


 「なんでもいいから、早く甘いのを! あーん、ぱくぱくころころ……――て、すっぱああぁぁぁぁぁい!!!」


 「ビタミンC凝縮だぞ」


 「いらないお節介だよ!?」


 ドヤ顔で親指を立てる飴玉の少女に半泣きになりながら、訴えかけるヒカリだが、訴えかけられた側は満足そうにその顔を見るだけだ。


 「他の人間に恵んでもらえばいいだろ?」


 そのまま空を飛んでいく風船のようになるんじゃないかと思うほど、ヒカリは頬を膨らませた。


 「いじわるは、めっだよ! だってだって……――みんなやられちゃってるから、誰もいないよ!」


 二人の少女の後方、そこには十数体の創機の破片が散らばっていた。

 おそらくイヴと操縦者は無事だろうが、あまりに突然の出来事で、うまく頭が動かず創機の力が解除されずにそのままになっていた。

 スカートのポケットから溢れるぐらいの生徒手帳が落ちていないか探せば、そっと口の中の飴玉を転がす。


 「ラムネ味だ」


 「あたちは、すっぱ辛いよ!?」


 本来ならありえるはずのない少女と少女のイヴとアダムは、学園への迎えを待つ。



                   ※



 岩山の上、ピラミッドのように大量の生徒手帳を積み上げる少年もアナウンスを聞いていた。


 「もう終わりか」


 呟き立ち上がれば、積み立てた生徒手帳の山を足で吹き飛ばした。

 少年はツリ目を動かせば、背後に立つ人物に目をやる。


 「それでは参りましょう、統矢とうや様」


 後ろに立つのはメイド服姿の少女。

 長いポニーテルに太めの眉は真面目な印象を与え、大きなレンズのメガネは少女に優等生的なイメージを多くの者に印象付ける。また、人が美人と呼ばれる人間に相応しいパーツを一つ一つ取捨選択したような顔が、真面目、優等生なイメージに、さらにデキる女という要素も第一印象から連想させてしまう。

 反対に、統矢と呼ばれた少年は龍介などの不良風の少年達とは違う乱暴さのようなものを感じさせた。

 特徴的なツリ目は、どこかどんよりとした濁り瞳に宿し、猫背に丸まった体は弱さといより、内側に凶暴さを押さえつけているようにも見える。毛先が自然とカールになっている髪を野暮ったさそうに搔けば、少女の横に並ぶ。


 「仕事服メイドはやめろ」


 「いいえ、やめません。学生生活以外では、この格好が基本ですから」


 「試験が終わったからといって、すぐに服を変える時間が無駄だ」


 「無駄というのは、無意味に他の創機乗り達を倒してしまうことを言うのではないのでしょうか?」


 フン、と鼻を鳴らせば、統矢は歩調を早める。


 「それはいい、この試験どうだ」


 「はい、最初の用意から、この試験の流れまで、どうやら学園長のお遊びのようですね」


 「……だろうな、たぶんいくつか無人島を用意して、適合しやすい者と能力関係が等しい者同士を引き合わせて競わせる。かなり荒っぽい方法だが、性格も能力も見極めることができるし、『クラス分け』てのには役立つだろうな」


 「おそらく。……なかなか寝たフリも疲れましたが、運ばれる際の物音や盗み聞きした会話を照らし合わせるとそれで間違いないでしょう。運ぶ際には、ちゃんと女子生徒は女性に運ばせたのは、私的には評価高いです」


 右手を開き、再び関節に力を入れれば、片手でパキパキと指を鳴らした。


 「『出戻り』はどう扱ってくれんのかねえ? ちゃんと、壊れねえクラスメイトじゃないと知らないぜ」


 メイド服の少女は一度目を細めれば、統矢と歩幅を合わせるようにして同じく歩調を早めた。




                  ※


 『――もう嫌です! もう誰も傷つけたくないんです!』


 ある創機が必死に叫んだ。

 不運にもその島は突然の雨風に襲われていた。だが、少年にとってはそれは幸運。少年は、試験を行い、生徒手帳を奪うなんて行儀の良いことはできない。ただ壊すのみ、ただ障害となるものを喜びと共に迎え撃つだけだ。

 強烈な雨と風の中、一体の創機がその手に銃を握っていた。人間からしてみれば体よりも大きいが、創機の手にはすっぽりと納まるハンドガンタイプのものだった。


 「つまんねえ冗談だな……。黙って、言うことを聞け」


 雨風がさらに激しさを増す。ハンドガンを構えた創機の先には、腕は吹き飛び、頭は裂け、操縦席にぱっくりと穴の開いた創機。乗っている操縦者もイヴも既に意識をはなくなっているようで、操縦席に雨が水たまりのようにたまっていっているというのに動く気配はない。


 『ここで引き金を引いたら、この人達は、し、死ぬかもしれないんですよ!? 生徒手帳を奪えばいいからって、そういう話じゃなかったんですか!?』


 操縦席の少年は赤く染めた自分の髪を搔き上げ、激しく呼吸を乱れさせながら右の二の腕に触れた。


 「早くぶっ放したくてさぁ……あぢぃ……あぢぃ……あちいぃんだよ!? 逆らうな、口答えするな、てめえをまだ人として扱ってやってんだ! 今がまだ人だ! 次はどんな扱いが待ち受けていると思ってんだよ!? クソアマが!」


 少年は水をいっぱいに溜め込んだバケツを浴びたような汗を搔けば、剥ぎ取るように上半身の服を脱ぐ。

 その右腕には、何匹ものの蛇が蠢くような刺青が描かれていた。少年の感じる熱さはそこから来ており、理性が欠けた影響からか片方の手で何度も擦るが、その腕が赤くなるばかりで熱さは引かない。それどころか、刺青はグロテスクに生々しく蠢けば長さを変えて肘より下に肩より上に伸びる。


 「いいのか!? 俺が終われば、お前もを終わるぞ!? 選択肢なんてねえからさ、お前は俺に使われていろよ!」


 極限状態の中、そこまでが限界だった。

 創機を操るイヴの少女は涙を流すこともできず引き金を引くことしかできない。


 『いやあああぁぁぁぁぁぁぁ――!!!』


 銃声が微かに鳴るが、嵐の森へと溶けるように音は消えた。



                 ※



 もう一人の少年は内側に凶器と強い憎悪を抱えていた。


 一人の男子生徒が森の中を駆けていた。

 新しい制服は破れ、ところどころ血が滲み、その顔は新入生とは思わないほどに酷くやつれた顔をしていた。木にぶつかろうが石に躓こうが、終われる恐怖からひたすら逃げる。


 「た……たすけ……」


 男子生徒は祈っていた。

 もう入学なんてどうでもいい、創機乗りのためのイヴに出会えなくてもいい、だから、早く家に帰らせてくれ。この地獄をすぐに終わらせてくれ、と。

 創機乗りの操縦者が集まる学園だ。みんなイヴと出会うところから始まるものだ。それなのに、アイツはそれをしようとしなかった。アイツは、それを必要しなかった。アイツは違う、明らかに新入生ではない。

 気が付けば、男子生徒は砂浜にやってきていた。


 「た、助けてくれえぇ!」


 力の限り叫んだ。この声が誰かに届くなら、一生喋れなくなってもいいとすら思っていた。

 男子生徒が砂浜にやってきた時点で、いや、アイツと呼ぶ存在に標的になった段階で全てが終わっていたのかもしれない。


 「――誰も来ませんよ」


 大人びた少年の声に振り返った男子生徒は、腰を抜かし、声が出なくなる。声が出ないのは、現れた少年のせいではない、本能的な恐怖によるものからだった。


 「お教えします。来てすぐにこの砂浜の周辺には通信妨害が入るようにしました。どうやったか不思議でしょう? ……『私達』は、キミが思っている以上に学園に世界にも……浸食してるんですよ」


 追い詰められた状態で男子生徒の中にはこの情報を早く知らせなければいけないという責任感が生まれていた。しかし、それはただの気持ちの中だけの話。現実はどうにも変わらないほど、彼にとっては不条理だった。


 「さぞ理不尽でしょうね。憧れの舞台に立てたと思ったのに、もう退場なんて。でも、安心してください。……貴方以上に貴方の価値を証明させてみせます」


 少年はその手に銃を握っていた。


 「この先の未来で、貴方には私からもたらされた幸せを得られるのです。だからまあ、死ぬのも悪いものじゃありませんよ? ……これからは、どうぞよろしく。――おやすみなさい」


 構えるとほぼ同時にサイレンサー付の銃が音を上げた。そして、波の音の合間に男子生徒が地面に倒れる音が最後の主張をするように別の音を残した。

 潮の香りに混ざる硝煙の臭いに目を細め、銃を服の懐にしまった。とはいっても、後々、島の中で捨てるのだが用心のためだった。


 「今日から、私達は俺で僕らだ」


 そう言い、少年から男子生徒に姿を変えたその人物は大きな声で笑った。


 彼は、そうやって創機に乗ることもなく、入試を突破した。




                  ※



 信念を通す者、力を求める者、愛のために抗う者、居場所を探す者。

 欲望のままに行動する者、大切なもののために利用される者、憎悪で世界を滅ぼそうと思う者。

 善と悪が交錯し、愛憎混じりの試験の後、その門を開く。

 彼らが目指す先は、一つ。本来なら共に過ごすわけがない、過ごしてはいけない彼らが共生する場所。

 そこに、彼らが。


 ――箱舟学園に集結する。

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