表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世機神ガインスレイザー  作者: きし
第八章『叶う約束 叶わぬ希求』
52/65

 英里佳に連れられて向かった場所は半壊した政府軍の基地だった。一度は奪われた施設だったが、基地への被害を度外視にした奪還作戦で取り返したそうだ。半壊というのは英里佳の言い方であって、俺からしてみれば半壊どころか瓦礫の中に立ってる建物を借りているようにしか見えない。

 損傷の激しい建物が多くて室内に長時間いるのは危険が伴うのか、英里佳の後ろを追いかけて行った場所は厚めのシートによって全方向を覆われたテントだった。テントの中から見える薄明りに照らされた影から、数名の人間がいるのが窺える。


 「失礼します」


 先に英里佳が言い、俺と亜里沙は無言でテントに入った。


 「やあ、二人とも久しぶりだね」


 聞き覚えのある声に顔を上げれば、そこには藤堂学園長がいた。いや、それだけではない、隣には猛巳兄妹も絵恋とヒカリもいる。空間の中央に置かれた机を囲うようにしているのは、数名の大人と俺と年齢の変わらない少年少女達。


 「これは、どういうことなんですか……」


 「私達は、テロ組織『新世界人』を倒すために集まった政府軍と学園の合同部隊なんだ。各学園の学園長達とその学園で最も創機の操縦に優れた生徒達、それから政府軍のお偉いさんだ」


 政府軍の軍服を着ていない大人は藤堂学園長を抜いて、二人だけだ。まだ二十代に見える女生と杖を手にした老年の男性。彼らが、他の学園の学園長なのだろう。

 一通り、藤堂学園長による集まった人間の紹介が終わり、入れ替わるようにして一番奥に座っていた軍服の男性――荒谷敬三あらやけいぞうが立ち上がる。

 荒谷氏の年齢は五十代後半。切れ長の目、細見ながら胸元や腕は筋肉で服が盛り上がっている。腕や胸元にはいくつもの勲章が付いていた。


 「ここからは私が話を代わろう。……それなりに偉い地位にはついていたが、今は階級なんて意味がない。未来を担う若者達の手を借りる時点で、既に軍なんて存在しないようなものだ。ある程度の規律さえ守っていただければ、好きに呼んで構わんよ」


 最初に見た時は、少しドキッとするような威圧感を与えるような人だった。しかし、考えていたよりも声色は優しいものだった。


 「話を戻そう。これから我らが向かうのは、この二ホン国でも有数の研究施設。非合法な実験をしていたとも聞くが、今優先すべきは法で彼らを裁くことではない。……そこには、新世界人のリーダーであるアンチイヴの右腕とされるクラウンがいる」


 クラウン、俺は生唾を飲み込んだ。

 その名前には聞き覚えがあるし、プロパガンダ放送でも頻繁に仮面を付けて登場した。まず間違いなく、奴が流歌だ。アイツも見間違えるわけなんてない。

 周囲を見回し、説明が不要だということに気付いた荒谷氏は言葉を続けた。


 「度重なる攻撃によってクラウン達は消耗し、戦力も多くは残されていない。ならばこそ、今が勝機。新世界人もアンチイヴに近しい人間が敗北したとなれば、相手の士気を大きく下げることに繋がる。戦略的拠点としては大きな意味はないが、それ以上の価値があるのが今回の作戦だ。……その作戦こそ、クラウンの捕縛もしくは始末だ」


 低い声で始末の二文字を告げる荒谷氏の人柄を感じた。俺は僅かでも流歌に情けをかける彼の人格者としての部分に感謝するが、きっと流歌は捕縛されても生きていける世界じゃない。新世界人に世界をめちゃくちゃにされて殺意を感じている者達は何万といる。きっと、それがトップの右腕となるならどんな形であれ死を迎えることは確実だろう。

 俺は、英里佳に流歌を救うと言ったが、それには明確な方法なんてない。流歌は俺を否定した。だが、龍介は俺の生き方の異常性を指摘し信じてくれた。だったら、俺は龍介の信じてくれた俺で流歌に立ち向かいたい。

 一拍置いて、荒谷氏は続ける。

 

 「クラウンの操るアベルヤハターは単機で基地を壊滅させるほどの力を持っている。ここからは、かなり厳しい戦いになると思うが、集まった精鋭達には心して挑んでほしい。……では、作戦だが――」


 荒谷氏の作戦とは、いたって単純なものだった。

 部隊を三隊に分けて、攻撃を行う。正面咆哮からまず政府軍と一部の学園生だけの大部隊を投入し衝突、続いて後方から第二部隊、こちらに主力を集める形になる。最後に別方向からの学園生だけで集められた第三部隊。彼らには追撃、もしアベルヤハターが現存していた時にダメ押しとして扱われる。

 少数の敵に対しての数で押す攻撃。ただし、奴らはほとんどの創機達がエノスであり、歴戦のイヴだ。操縦者でさえも何らかの実験で肉体を強化されており、きっとマナの力にも通じているに違いない。政府軍にも正規の創機部隊がいるが、彼らのほとんどはエノス能力もマナの力すら使えないらしい。荒谷氏は口にはしないものの完全な囮になる。だからこそ、第二部隊がここで活きてくるのだ。

 そんな時、剣会長はあくまで真っ直ぐに荒谷氏に問いかける。


 「これでは、第一部隊が一番危険な目に合うことになるぞ」


 荒谷氏はそこで初めて笑った。


 「ハリボテは大きい方が良い」


 それは剣会長の質問に対して回答と呼べる答えではなかったかもしれなかった。だが、剣会長は一度顔を歪めれば、それ以上聞くことはなかった。そんな剣会長の様子を見て、もう一度荒谷氏はしわを深くさせて笑った。


 「全てを壊した責任は大人にあるんだ。大人達の願いは一つさ。……失う犠牲に顔を歪ませるような若者が胸を張って生きていける世界にしていきたいだけだ」


 呆れるほどに荒谷氏は真っ直ぐに言う。年齢も性別も違うのに、荒谷氏と剣会長はよく似ているなと思った。



                   ※



 基地から迷彩柄の軍用トラックの荷台に乗り込み、俺と亜里沙、それから英里佳は山道を進む。車道だった道は、度重なる戦闘のせいでクレーターが作られ、穴だらけになっている。そのため、車で普通に道路を走ろうと思っても、平坦な道を走ることはできずに、何度も車内で体を打ち付けられながら進む。


 「ここまでですね。この先は、奴らに気付かれます」


 若い軍人の男性に運的席から言われれば、素直にそこから降りる。

 研究所まで今から歩き出せば、着くのは作戦決行時間である十八時。ただ普通に道路を歩いても間に合わないし、敵に見つかればそこで終わりだ。

 そのため、俺達は過去に政府軍の人達が残してくれた目印を頼りに、道なき山道を登っていくしかない。靴をスパイクブーツに履き替えた、動きやすいように政府軍の歩兵の服に着替えた俺達は望まずして木々が削れて道のようになった山道を進む。

 第一部隊の交戦は、研究施設から離れた場所で行われる。ただし、第二部隊が突入してからは研究所を中心に戦いが行われる。その時こそ、俺は行動し研究施設に乗り込んで澪音を探し出すのだ。戦いが長引けば、研究施設だってまともじゃない。戦場の中心を歩くことになる。それでも、真っ向から行ってもどうしようもない俺達はこの戦いに紛れるしかないのだ。

 第一部隊との交戦が始まるよりも早く目的地に到着し、俺達はしばしの休憩をとるために木の下に座り込む。

 視界の中には、拉致された澪音のいる研究施設。話には聞いていたが研究施設はかなり大きく、子供の頃に連れて行かれた野球場を彷彿とさせた。施設そのものも大きいが、敷地も広く、ちょっとした遊園地ぐらいなら作れてしまいそうだ。


 「でかい施設だよな……」


 独り言のような俺の呟きに、携帯食をかじっていた英里佳が反応する。


 「大きければ大きいほど、事故や口外できない実験は隠しやすいですし、逃げられたとしても敷地内ならカメラもあるから見つけやすいんですよ……」


 同じく研究所出身の英里佳は、暗い顔で言う。隣に座る亜里沙も沈痛な面持ちで聞いていた。

 自分の失言に反省し、俺達は息を潜めて作戦決行時間まで待った。



                 ※



 陽が沈みかける時間に、遠くの方で炎が上がった。

 少し前から、頭の上を創機が行き来するようになったなと思っていたが、とうとう政府軍が動き出したらしい。

 最初の炎を始まりに、次から次に周囲を明るく照らし始まる。


 「始まりましたね……。二人とも、準備を」


 頷き、俺は政府軍で渡された拳銃を確認する。今までこんなもの撃ったことなんてないが、持っているだけで脅しぐらいには使えるだろう。

 英里佳や亜里沙は拳銃は持っていないが、本来の威力を何倍にも高めたピストル型のスタンガンを持っていた。二人に実弾を持たせないのは、何かあった時に銃を奪われる数が増えれば、逆に俺達を危険な目に合わせるからだ。そして、俺だけが持っている理由は、この作戦で俺が死んでしまうことになれば、失敗になる。どちらにしても、この銃が奪われてしまえばおしまいだ。

 命を奪うつもりもないまま、人を殺すための道具を腰のホルダーに戻した。

 焦らずに少しずつ研究施設へと近づく。白色の高い壁の周辺には、カメラがあり忙しくぐるりぐるりと往復している。


 「人は出払っているだろうけど、誰もいないとは限らないです。まだ、辛抱してください」


 一分一秒が、長く感じる。じっとしているだけで、自分が木の一部分になっているようなおかしな錯覚に陥る。遠くの方からドーンドーンという花火に近いが、明らかに違う大きな爆発音を耳にし、随分と遠くまで来たものだとおかしなことを考え出していた――。


 「――来ました」


 遠くない、研究施設の敷地内で爆発が上がった。続いて、地震のような震動。何体ものの創機が研究施設に現れたのだ。つまり、第二部隊の到着。

 英里佳は立ち上がり、走り出す。すぐさまカメラは俺達を捉えたが、構わず英里佳は手を伸ばした。


 「消滅しろっ――!」


 監視カメラが壁ごと消えた。壁のあった場所から飛び込んだ先は研究施設近くの花壇だった。どうやら、正面の入り口から反対側に位置しているらしい。


 「どうする、英里佳っ」


 「裏口があるはずです。そこから、施設内に飛び込んで澪音さんを探し出します」


 金属の音が大きくなり、光が周囲にチラつく。戦闘が大きくなり、マナの力も使われ始めているようだ。

 彼らの勝利を祈りつつ、俺達は見つけた裏口から飛び込んだ。

 一見すると病院のような清潔感のある内装の研究施設の通路を走った。


 「空也さん!」


 英里佳に言われて頷くと、俺は意識を集中させる。――『同調』だ。

 前の時は違う、はっきりと澪音の存在を感じられる。弱々しくも消えることのない光が、すぐ近くにいるんだ。


 「この先に、たぶん……階段がある……。上がってから、すぐの場所だっ」


 澪音、澪音、澪音! 心の中で何度も名前を呼ぶ。俺はここにいる、澪音を迎えに来たよ、と。




                 ※



 海凪澪音も、同じく光を感じていた。

 泥の沼に沈められたような最低最悪の感情の中で、ただいつかこの地獄に終わりが来ることを望んでいた。

 研究施設の近くで戦闘音らしきものが聞こえた時は驚いたが、もうどうでもいいと思った。閉じ込めらたカゴの鳥でしかない自分は、ただ外の景色を眺めるしかない。カゴごと水の中に沈められてしまえば、そこで死んでしまう。弱く、愚かな、鳥なのだ。


 ――澪音!


 あの日のように、暗い船の中から助けてくれた時のように、力強い空也の声が聞こえた。

 聞きたくて、聞きたくて、他のどんな音よりも聞きたかった空也の声。最初は幻聴だと思い込んだ、今まで何度も空也がやってくる幻覚や、優しく語りかける幻聴を聞いて来た。これはまた妙にリアリティのある幻だと自分を呪った。


 ――澪音! 


 声は大きくなり、心の暗闇に光が差す。

 いるのだ、空也がすぐ近くまでやってきているのだ。


 「くう……や……!」


 扉に駆け寄る。先程、急いで流歌が飛び出していったので、もしかしたら閉め忘れているんじゃなかと思ったが、扉の鍵は閉まっていた。

 こんな時、英里佳の能力があればいいのにと忌々しげに思う澪音は、今度は何か開けられそうな道具がないかと探す。

 目についたのは椅子だ。しかし、扉は金属と機械でできた頑丈な素材だ。誤作動でもするのではないかと何度も 何度も椅子で殴りつけるが、手が痛むだけで、どうしようもない。

 汗をびっしょりとかきながら、椅子を下ろせば、扉を拳で叩く。


 「空也! 空也! 空也ぁ――!」


 私はここにる、ここにいるよ、力強く澪音は空也の名前を呼んだ。



                 ※



 中央エントランスの階段を上がって行けば、すぐにでも澪音のもとへ辿り着けるはずだった。

 そのはずが……。


 「――待っていたよ、空也」


 「無視して、澪音に会えるとは思えなかったが……。最悪なタイミングで出てきやがって……」


 俺達の前に立ちはだかるのは、クラウンこと――木鼓流歌だ。そして、その隣には千鶴もいる。

 後少しで辿り着けそうなのに、俺の前に立ちはだかる流歌を睨みつける。


 「せっかく命を助けてやっのに、また捨てにきたのかい?」


 「てめえが救った命じゃねえよ、澪音が救ってくれた命だ!」


 「少しは感謝してほしいものだけどね。僕が一番殺したいのは、空也なんだよ?」


 流歌の冷たい目を俺は真っ向から受け止める。


 「良かったな、今度はおもいっきりヤれよ。……そんじゃ、澪音を返してもらうぞ」


 「やれるものなら、やってみろ。――舞うぞ、アベルヤハター」


 光の粒子がエントランスを照らし、近くの壁を突き破り、アベルヤハターが中庭に降り立つ。


 「英里佳、澪音のことを頼むぞ」


 英里佳が疑問を投げかける前に、俺は亜里沙と突き破った壁から外に飛び出した。


 「亜里沙、準備はいいか! 今だけは、俺に力を貸してもらうぞ!」


 「分かっているよ、私はこのためにきたんだ。龍介ちゃん以外にこんなことを言うなんて思ってもみなかったけど……――空也くん、信じているよ」


 「サンキュー、亜里沙。――力を貸せっ、セクトトール!」


 久しぶりの感覚、それから懐かしい操縦席。俺は今、セクトトールの操縦者としてアベルヤハターと向き合っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ