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創世機神ガインスレイザー  作者: きし
第六章『宿命による絶望 終わる日常』
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 ――ほんの数分の出来事だった。


 次から次に起こる展開に、俺の頭の中は全くついてこうとしていない。ただ目を逸らしたくなるような現実が、視界のあらゆるところに転がっている。

 まず最初にアベルヤハターを倒すために、東先輩の創機がマシンガンを雨のようにばらまいた。威嚇でありながら掠りでもすれば進行不能になるほどの弾丸の嵐。あまり戦闘向きじゃないと謙遜していたが、東先輩の力はとっくに俺達を凌駕していた。

 それは、椿先輩だって例外じゃない。

 偃月刀をまるで鞭のようにしならせて戦う姿は、創機を超えた、あえて言うなら人とも思わせる軽やかな動きだ。これが、椿先輩から発揮された力なのか、それとも、操るパートナーの実力によるもなのかは分からないが、接近戦の動きの素早さは俺達を苦しめたハイソリギアにも匹敵するかそれ以上にも見えた。

 剣会長にいたっては、三種の武器をまるで無数の腕があるように巧みに使っていた。もし本気を出したアマツミノオウに対して俺が相手なら、何十回も破壊されているだろう。

 最強とも呼べる義勇会の三機の共演。これは、確実な勝利を呼ぶための破壊の盾の戦い。きっと戦いは収縮し、全てが解決すると俺は安易に考えていた。


 ――現実は残酷だった。


 『これで、もう終わりかい?』


 崩壊した闘技場に立っていたのは、義勇会のメンバーではない。アベルウヤハターだけだ。いや、正確にはアベルヤハターの前方にアマツミノオウもいた。――胸にアベルヤハターの槍を貫通させた姿で。


 『おーい、会長ー。……あーあ、気を失ったのか……』


 まるでゴミでも払うように、槍を振るえばアマツミノオウは崩落した観客席の瓦礫に埋まった。

 俺は目だけをゆっくりと動かす。

 東先輩は、弾丸を一発も当てることができず、恐ろしいスピードで上空から飛びかかったアベルヤハターに一突き。

 椿先輩は、接近戦でハイレベルな攻防を繰り広げていたが、アベルヤハターの槍は椿先輩の創機の刀を砕き本体を貫かれた。

 そして、最後の砦である剣会長でさえもアベルヤハターの暴力の前になす術もなく倒れた。

 確実に誰かが勝利を手にしていたはずの戦いだった。しかし、アベルヤハタ―はまるで目に見えないエノスの力でも使ったかのように、義勇会の三人を倒していた。ただ一つ言えることは、いつエノスの力を使ったのか、いつ力量の差が出たのか、それすらも分からないほどのハイレベルな戦いは、俺と澪音の戦意を奪っていった。


 『空也……。早く逃げよう……』


 呻くような澪音の声にガインスレイザーを動かそうとするが、思ったように動かない。まるで、操縦桿に何十キロもするような錘でもぶら下げたようだ。

 自分が奴を怖がっているのか。いや、違う。

 もし自分がここで倒れてしまえば、この学園が終わってしまうという予感があった。そして、アベルヤハターは自分では手も足もでないほどの最悪の敵。今、体を重くさせているのはプレッシャーだった。


 『空也、キミは芋虫のようにじっとしているといい。ほら、よく見ておくんだよ』


 素振りでもするような気軽さでアベルヤハターは槍を引いた。


 『――空也の日常が壊れ行くのを。――マガツキノヒカリ


 槍を前に動かす。それだけで、槍の先からは全てを焼き尽くすマナのエネルギーの塊が発射される。禍ツキノ光、きっとこれが奴が槍から放ったマナ技の名前。

 特別狙いはないといった感じで、再び槍を引けば、また別方向にマナの光を放つ。

 放つ。

 放つ。

 放つ。

 乱射。

 一撃が撃ち込まれると同時に、悲鳴が聞こえ、また一撃が同じ方向に聞こえれば悲鳴すら聞こえなくなる。俺達や義勇会を助けに来ようとしていた創機達も、アベルヤハターの手によって消し炭に変えられた。

 既に周囲の景色は炎の海に包まれ、人間を瞬く間に焼き尽くす地獄の業火の中で俺の全方位が見覚えのない景色になっていることに気付いた。

 一面の焼け野原、それから、既にどこを壊しているのかも分かっていない様子のアベルヤハター。世界にアベルヤハターという破壊者と二人だけになったような絶望感。


 『……怖がってちゃだめだよね……。――空也! 早くアイツを止めよう!』


 逼迫した声の澪音に言われて、やっと何かをしようという気持ちになる。

 そうだ、俺はいつだって絶対に勝てない相手にも向かって行ったんだ。誰が勝つとか負けるとかそういうことを考えることもなく、ただ傷ついた人を守るために何度も立ち上がって戦い続けたんだ。


 「そうだ……。俺達が負けちゃいけないんだ……」


 今度はあっさりと操縦桿が動いた。まだ、立てた。まだ、他者を守るための存在でいることができた。

 アベルヤハターは手を止めて、ガインスレイザーを見た。


 『やる気かい?』


 笑い混じりの声が、俺に怒りという名前の活力をくれる。

 ガインスレイザーは拳を強く握った。


 「流歌! なんで、こんなことをやってんだよ!? 俺は、お前を信じていたんだぞ!」


 『信じて……? はは、どこに信じる要素なんてあったのさ。まさか、友達なんて不明確なものが理由てだけ?』


 「そんな……! お前は、ずっと……」


 いつもなら、きっとガインスレイザーを突進させている頃だろう。いつものようにいかない、俺の心が粉々にされたパズルのピースのようにまとまろうとしない。例え砕けたピースでもそれを探せば、いつかは応えを生み出すことができる。だが、今回はそれどころか、割れたピースがどこにも見当たらないのだ。

 アベルヤハターはぐっと槍を持ち上げて前に、ガインスレイザーへ向けた。


 『今度は狙いを外さない。ちゃんと操縦席だけを貫いてあげるよ』


 アベルヤハタ―は槍を前に押す。


 『空也っ!』


 悲鳴のような澪音の声をバックに、操縦席を傾けば禍ツキノ光が今まで立っていた場所を掠める。


 『おお、すごい反射神経だね』


 「くっ……! うおおおぉぉぉ――!」


 反転し拳を構えてガインスレイザーを走らせる。さほど距離が離れていなかったことと回避の際に反転したことで、思った以上にアベルヤハターと距離を詰めることができた。

 立ち上がって一歩前進するだけで、アベルヤハターの懐だ。

 普段なら、アベルヤハタ―ほどの強敵がこんな簡単に接近を許すわけがないと警戒するところだが、今の俺にはそんなことを考える余裕もなく、澪音がガインスレイザーをその場から遠ざけようとしていることなんて気付くこともなく、思いのままに拳を振り回した。


 『空也、キミは……僕が考えていたよりも』


 ガインスレイザーの拳が空振りする。腕を止めることなく、アベルヤハタ―をジャブを放つ。


 『ずっと』


 再び空を切る。アベルヤハターは僅か半歩しか動いていないにもかかわらず、二発もパンチを避けてみせた。


 『ずっと』


 さらにパンチのスピードを上げた。右ストレート、左からフェイントを入れての右フック、焦った俺は飛び蹴りまで疲労する。だが、ことごとく、アベルヤハターは最小限の動きで攻撃を回避する。

 槍の先が光ったのは、飛び蹴りから着地した直後のことだ。


 『――弱いな』


 光が視界を覆った。まるでミキサーの中でかき回されたような、吐き気を感じさせる振動と、どこをぶつけたかもわからないほどの痛み。

 少しずつ体が崩壊していくような錯覚の中で、俺の意識は不深い闇の中に落ちていった――。



                  ※



 胸の辺りから、頭、左肩を完全に光にのまれて消滅したガインスレイザーをアベルヤハターは見下ろしていた。

 しばらくすればガインスレイザーは光の粒子に変わり、その場には意識を失った空也と無傷のまま眠ったようにうずまくっている澪音の姿が残された。

 アベルヤハターは特別何かを言うわけでもなく、槍の先を生身の空也に向けた。ほんの一、二メートル腕を伸ばせば空也はただの肉の塊へと変わってしまうほどの距離。


 『――呆けてるんじゃねえ! マヌケが!』


 アベルヤハター操縦者の流歌は、不意に聞こえたその声に創機を大きく後退させた。代わりに、アベルヤハターと空也の間に飛び込んだのは――セクトトールだ。

 二本のチェンソーをギターのように金属音を響かせ、セクトトールはチェンソーをアベルヤハターへ向けた。


 『悪いが、ここからは俺の喧嘩だ! 俺を倒すまで、こいつらには指一本触れさせねえぞ!』


 外見だけ見れば、完全に復活したようにも見えるセクトトールだったが、内側は完全にボロボロだった。創機を出現させてない間は、マナの力で修復が進んでいるといっても、先日、破壊さればかりだ。そのダメージはいまだにセクトトールを苦しめている。

 さらには、龍介も亜里沙も本来の肉体がまだ本調子ではない。いいや、龍介にいたっては、頭や腕や足、服の見えないところまで包帯で埋め尽くされていた。実際のところ、意識を取り戻したのはつい数十分前の話。偶然にも騒ぎの中で目覚め、急いで避難する生徒達から空也達の危機を知った。それだけが、龍介と亜里沙が今最も危険な戦場に飛び込んだ理由だった。


 『誰かと思えば、僕に完敗した創機か。……僕が待ち望んだ瞬間を邪魔するなよ』


 一種の流れ作業のように槍を振るえば、再び放たれる禍ツキノ光。

 セクトトールは逃げるでもなく、右手のチェンソーを横に振るう。


 『亜里沙! ぶった切れえええぇぇぇ――!』


 『チェンソーハッピーの時間だよ!』


 チェンソーの刃が光を火花の代わりのようにマナの光を放出すれば、すぐさま禍ツキの光とぶつかり合う。今までの創機だと例え武器で受け止めても、武器ごと溶かされていた。しかし、セクトトールはその禍々しいほどの強烈な光を――半分に叩き切った。


 『なにぃ……!?』


 初めて流歌の顔が歪んだ。それもそのはずだった。先日、セクトトールと戦った時は奴らは手も足も出ることはなく、ましてやマナの力を使う暇なんてないほど圧倒的に蹂躙したはずだった。

 へっ、と龍介が誇らしそうに笑った。


 『昨日はこんなことしなかっただろ? そりゃそうさ、俺のマナの力はあまりに強すぎて剣会長から許可が下りなかったんだ。でも、今はいいよな! 俺の全力を発揮してもいいんだよな! 亜里沙っ!』


 『もちろんだよ! 龍介ちゃん! 全力でフルパワーで暴れまくろうよ!』


 セクトトールは両腕のチェンソーを空へ伸ばすと、刃の先からマナによる光の粒子を放ち始める。


 『『チェンソー・ハッピー! セカンド!』』


 両腕を勢いよく下ろしたセクトトールの脇腹のところから、最初は蜃気楼のようにぼんやりと浮かんだ何かが形を手に入れていく。そして、脇から完全にチェンソーと呼べる物体を出現させた。

 セクトトールは左に三本、右に三本、合計六本のチェンソーをその体から生やしていた。


 『小賢しい男だ……!』


 有無を言わさず放たれた禍ツキノ光をセクトトールはそのうち一本のチェンソーによって切り裂いた。そのまま距離を落とすことなく、六本のチェンソーを叩き付けるようにアベルヤハターへぶつけた。


 『おらっ!』


 そこで初めて、アベルヤハターは防御の体制をとっていた。

 セクトトールの手によって、戦いの流れが変わろうとしていた――。

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