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創世機神ガインスレイザー  作者: きし
第六章『宿命による絶望 終わる日常』
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 流歌達と別れ、澪音と二人での帰り道。

 居候が一人いることを忘れファミレスで食事をしてしまったため、俺の手にはコンビニの弁当が入った袋が握られていた。

 英里佳には学園から一切の学費の免除と多少の小遣いが渡されているが、基本的に食事は俺の仕送りを利用している。英里佳を我が家に招くと決めたなら、一緒に住む以上は食事は俺から出したいと考えるのが人情というものだろう。何よりもまともに料理を作ったことのない英里佳に金を握らせて料理でもさせたら、後がどうなるか分からない。

 一応、遅くなることを連絡したが、腹を空かせて待っている英里佳の為に急がないといけない。

 我が家のあるマンションの入り口に入ろうとしたら、澪音が足を止める。含みのある表情で俺のことを見ていた。


 「どうかしたか、澪音」


 「……空也、怒らないで聞いてほしいんだけど」


 半分ほど開いた扉から手を離し澪音を見返す。澪音は私生活だとあまり大きな声を出すタイプではないが、割と思ったことは素直に口にする。そんな澪音が言いにくそうにすることに珍しく思う。


 「いいから言ってみろよ」


 「うん……。私、あの流歌て人のことが怖い」


 「流歌が……怖い……?」


 続けて珍しいと思った。流歌は異性はもちろん同性からも好かれるような顔つきをしている。異性である澪音なら、なおさら流歌に好意的な印象を受けるのではないかと考えていたが、出て来たのは思いもよらぬ意見だ。


 「じっと流歌君が、私の顔を見ていたの……。たったそれだけのことなんだけど、それが……怖い……。あの目が、怖いの……」


 「怖いって……。で、でも、流歌は悪い奴じゃないぞ。人が嫌がることも積極的にやる人の好さだってあるぞ」


 澪音は俺の話を聞いても首を大きく横に振る。友人の誤解を解きたい俺は、なおも言葉を続けた。


 「そんなの勘違いだよ、クラスに転校生が来た時もアイツが真っ先に話かけてクラスに溶け込めるように頑張ってたんだ。そりゃ、アイツがイケメン過ぎてびっくりしたかもしんねえけど、怖いはちょっと違うと思うぜ」


 言葉の最後に発した作った笑い声は夜の闇に溶ける。俺達の周囲に重たく静寂が訪れた。


 「……転入生の話も積極的に頑張る話も全部昔のことだよね……。時間が経てば、人は変わってしまうんだよ」


 澪音の最後の言葉を聞いて、俺の頭の奥が急にひんやりと熱を失った。

 自分の意見を聞いてほしいだけのとっさに出た言葉かもしれないが、積み重ねた俺達の過去を否定するような言葉を澪音の口から聞きたくはなかった。


 「俺達は、変わらなかっただろ!」


 急な大声に澪音は肩を震わせた。


 「空也……?」

 

 「澪音が……澪音がそんなことを言っちまったら、俺達の今まではどうなるんだよ! 互いが昔と変わらないことを信じ続けたからこそ、今があるんじゃないのか!?」


 「そ、そうだけど、あの人の場合は私達と違うよ!」


 「違うなんてあるか! アイツの方が俺と過ごした時間は長いんだ! 例え澪音でも、俺のダチのことを悪く言ったら怒るぞ!」


 「もう怒ってるよ……!」


 今日は絵恋達に勝利して最高の気分で一緒に家に帰るんじゃなかったのかよ。なんで、こんな嫌な気持ちにならなくちゃいけないんだ。渦巻く嫌な感情が、それこそ幸せな気持ちすらも巻き込んでいこうとする。分かっているのに、歯止めがきこうとしない。

 互いに次の言葉を探している澪音が先に口を開いた。


 「セクトトールの件だって思い出してよ。龍介達を本当にあそこまで傷つける必要があったの? きっと嘘だよ。龍介や亜里沙は互いがあそこまで傷つくのを無視して戦うほど愚かじゃない。きっと亜里沙が助けを求めたし、龍介だって降参したはずだよ!」


 「なんだよ……。じゃあ、流歌が白旗上げた龍介達を攻撃し続けたって言いたいのか!? アイツが、そんなクズに見えるのかよ!?」


 「空也には、そう見えなくても……私にはいい人になんて見えないよ!」


 それで終わりだった。

 そこまで言ってしまえば、これ以上言葉を探し続けたら互いを傷つけ続けるだけだということに俺達は気付いた。


 「……帰るよ、ごめん」


 澪音はそれだけ言うと、俺の隣を通り過ぎて先程閉めたばかりの扉を開けてマンションへと入って行った。

 追いかけることも離れることもできない俺は、冷えたコンビニ弁当を握ったままその場に立ち尽くすしかできないでいた。




                  ※



 ギスギスした空気のままで、俺達は闘技場に立つ。

 観客席は、昨日よりも数が少なくなっているところを見ると、優先する学業の方に一部の生徒達は向かったのだろう。また昨日とは違うことがもう一つある。観客席の一か所に設けられた教職員用の席の先頭には学園長も座っていた。どこで仕入れてきたのか呑気にポップコーンなぞ食べている。

 今は学園長よりも重要な問題がある。澪音の顔を窺うが、気まずそうに目を逸らすだけだ。果たして、これで本当に今から戦えるものかと思っていると流歌は悠々と黄色い声援を浴びて手を振り返している。

 聞きなれた事務的アナウンスが互いに創機を呼び出すように指示を出す。


 「澪音、行くぞ」


 無言で頷いた澪音に頷き返すと、俺は手を頭上に伸ばす。


 「来い、ガインスレイザー!」


 光の粒子が視界を覆ったかと思えば、俺はガインスレイザーの中にいた。

 内心ほっとする。このこじれた関係でも、創機を呼べるということは、まだ俺達の中には僅かでも絆が残されている証明でもあるのだ。勝敗はどちらにしても、この戦いが終われば謝罪をしようと俺は決めた。


 「忘れらない時間にしようか、アベルヤハター」


 今まで見たことのないほどの多量のマナの光を受けて、金色の創機が姿を現す。

 手には創機の身長ほどの高さの槍を握り、顔は西洋の騎士を思わせるグレートヘルム。背中から広がる黄金の翼は、一枚一枚の羽がまるでマナの光を物質に変えたような異世界的な光り方ををしていた。あえてある分かりやすい呼び方は避けていたが、アベルヤハターを例えるのに最も相応しい言葉は――機械仕掛けの天使だろう。

 天使は槍を構えた。


 「空也、一つ聞いてくれないか」


 「な、なんだよ」


 落ち着いて流歌の声。そのはずが、どこかその声に熱を感じさせる。


 『空也、嫌な予感がする』


 澪音の声を聞いたが、彼女の意見に耳を傾けるのは流歌の話を聞いてからでも遅くないと判断した。

 流歌はゆっくりとはっきりと口にした。そして、この一瞬は俺が後に何百回も後悔する一瞬になる。


 「――僕は、キミのことが大嫌いだったんだよ」


 アベルヤハターの槍が目を焼くような輝きと共に何かを放った。

 すぐさま澪音が機転を利かせて、地面に転がったのが分かったが、俺はそれでも何が起きたか分からないでいた。その後、激しい爆音が聞こえ、それからたくさんの悲鳴が耳に届いた。

 操縦桿を動かし、俺はガインスレイザーをゆっくりと立ち上がらせて周りの様子を見た。

 そこで、俺は、見た。


 「あ、あ、ああぁぁ……」


 闘技場の四分の一ほどの場所が切り取られたケーキのようにごっそりと無くなっていた。その代わり、無くなった場所は何度も踏み鳴らされた地面のように荒れ地が続いている。

 その荒れ地の出現した方向を辿れば、槍を構えたアベルヤハターがいた。


 『空也、これから長い地獄の始まりだ。今度はキミが絶望の中でもがき苦しみ番だよ』


 そう言い、再び躊躇くなくアベルヤハターは職員たちに連れられて出て行こうとする学園長に狙いを定めた。

 目の前の光景に思考が追いつかない俺は、ただ黙って槍の先に光が集約していくのを見続けていた。


 『空也っ!』


 再び、槍の先からあの破壊的な光りが発射された。――だが、空から降下してきた矢によってその光は宙で弾け散った。

 幸いにも無事な観客席に安堵した俺は、空から急降下してきた創機に気付いた。


 『注意はしていたつもりだったが、まさかこんなに大々的に動くとはな……。この状況は私の判断ミスだ。ミスなんて言葉で許されるとは思っていないがな!』


 俺達を庇うようにして立つのは、アマツミノオウ。声は剣会長だ。

 アマツミノオウは背中に矢を背負いなおすと、右手に刀、左手に斧を出現させた。


 『学園の守り神の登場か。……失敗したね』


 『お前の作戦がか?』


 『いいや、ここで僕が守り神を倒してしまえば、後は雑魚だけだと思ってさ』


 剣会長は頼もしく小馬鹿にするように笑う。


 『そう簡単にいくほど、この学園は甘くないぞ。お前は私を怒らせ、学園のみんなを傷つけた!』


 アベルヤハターを囲むように、他に二機の創機が出現する。

 青色の創機は偃月刀を手にし、緑の創機は大砲のように大きなSFチックな銃を抱えていた。おそらく、青色の方には椿先輩、緑には東先輩が乗り込んでいるに違いない。


 『いいや、甘いね。この学園の生徒は甘い。どれだけキミらが強かろうが、甘さが全てを殺す。今から僕がそれを証明してみせるよ!』


 身構えた義勇会の創機だったが、アベルヤハターはあさっての方向に光の槍を連続で放つのだった――。

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