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創世機神ガインスレイザー  作者: きし
第五章『激突!修行!!学年一位を倒せ!!!』
41/65

 時間は飛んで、クラス対抗模擬戦当日。

 午前の授業も午後の授業も、全て模擬戦に使われることになるため、ちょっとした祭りのような雰囲気がある。闘技場の入り口横では、食堂のおばちゃんが臨時出張で出店なんかも出しているほどだ。

 さて、大勢の学生を一斉に戦わせるのか? と聞かれれば、それは違う。そんなことをしてしまえば、丸一日経っても模擬戦が終わらない。

 そのため、事前にクラス内で模擬戦を行い、その中から上位三名を選抜してトーナメントが行われるのだ。そんなところで躓くわけにはいかない俺達は、難なくクラスの模擬戦を突破し、このトーナメントへの切符を手にしている。

 俺達は、この日の為に『必殺技』を用意してきたのだ。ようやくここからが、本番というとこだろう。

 学生でごった返す闘技場に入り、エントランスに書かれた対戦表から名前を探す。学生と言っても、一年生だけなのだが、大勢の学生を抱える箱舟学園だけあって、一学年だけだとしても、一般的な高校の全校生徒ぐらいの人数はいそうだ。


 「空也、あそこ」


 珍しさのあまり生徒達をぼんやりと見ていた俺の服を引っ張り、澪音が対戦表のある部分を指した。


 「えーと……。絵恋達と戦うためには、準決勝までいかないといけないのか……。お、龍介は決勝まで進めば俺達と戦えるな」


 「その時は、負けないようにしないとね」


 俺と澪音で互いに微笑み合っていると、


 「まだ戦ってもないのに、あたち達に勝つつもりなのかな?」


 ロりボイスに反応して振り返れば、やってきたのヒカリと絵恋だ。絵恋と目が合えば、何故か恥ずかしそうに目を逸らした。


 「……俺、何かしたかな?」


 「空也は下手に口を開かないで、会話が多ければ多いほど空也のフラグは強固なものになるんだから」


 澪音の言っていることはよく分からないが、黙っていた方が良さそうなので大人しく口を閉じておくことにする。

 ヒカリは腕を組んで、俺達を値踏みするように見る。


 「剣ちゃんから、鍛えてもらってるんだって? 話は聞いているよー。まあ、それでも、あたち達には勝てないだろうけどさ」


 澪音が一歩前に出れば、自分よりも僅かばかり身長の低いヒカリを見下ろした。


 「……それはどうかな、私も空也も強くなった。この間と同じと思ったら、痛い目みるよ」


 「へへへ、そいつは楽しみだねー。絵恋、何か言ってあげなよ!」


 「い、いや、別に言うことは……」


 「絵恋! 練習したでしょ! できる! 絵恋はできるよ!」


 ヒカリから背中を撫でられたり肩を叩かれたりしながら、絵恋は顔は下を見たままで俺を指した。ちょっと震えている姿は、なんだかこっちがいじめているような気持ちになって罪悪感が湧いてくる。


 「ひ、火桜君は……いただくよ……ます……」


 「よぉし! よく言った! よく言ったよ! 絵恋! それじゃ、またねー!」


 言った後もぷるぷる震える絵恋の背中を押して、俺達から離れていくヒカリ達。


 「嵐のような二人だったな……」


 「……今ほど空也が鈍くて良かったと思ったことないよ」




                    ※



 それからの俺達は危なげなく、準決勝まで勝ち抜いた。それは、龍介も同じこと。

 確かに対戦相手達は強かった。だが、つい前日まで学園では最強クラスの剣会長と手合わせをしていた俺達からしてみれば、特訓前でも十分に倒せる相手だった。

 問題はここからだ。いよいよ、これからの試合が絵恋達との模擬戦になる。

 準決勝まで来ると、一回戦とは違って控え室には俺と澪音と龍介と亜里沙しかいない。地面の舗装があるらしく、俺達は試合の準備が終わるのを待っていた。


 「悪いな、先に奴を倒しちまうぞ」


 俺がそう声をかけると、龍介は首を鳴らして笑った。


 「構わないぞ、結局のところお前を倒せばアイツを倒したことになるんだからな」


 「できるか?」


 「できるさ、お前だって分かってるんだろ? 俺達で模擬戦をしなかった理由ぐらい」


 口を歪ませる龍介、その目は獲物を狙う肉食獣のようにギラギラとしたものだった。

 それに恐れを抱くことはない、むしろ、嬉しく思う。俺は、龍介とこの決勝戦で戦いたいのだ。

 結局、二度の俺と龍介の戦いは常に中途半端に終わっている。そんな結末で満足するほど、俺達の関係は大人ではない。互いに能力を高めていく内に、強く芽生えた感情こそ好敵手と認める龍介と戦い、そして倒したいという気持ちだった。

 今まで勝負事にあまり熱くなったことのない分、自分にもこんな気持ちがあることが驚きだ。部活なんかで競い合い争う同級生を見ても、何でそこまで無理して争うのだろうかなんて疑問に思ってしまうぐらいだった。でも、今ならはっきりと彼らの気持ちが分かる気がする。いるのだ、目の前に。理屈抜きで、戦って勝利したい相手が。

 アナウンスが流れ、俺と澪音の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 「行くか」


 「絶対勝つよ、空也」


 扉を開け、廊下に出る前に俺は龍介と亜里沙を今一度見た。


 「こう見えても、楽しみにしているんだ。お前達と戦うことを」


 廊下に出たばかりの澪音もひょっこりと顔を出す。


 「それは、私も同じ気持ち。決勝戦であの時の借りを返させてもらうよ」


 俺と澪音は互いに目を合わせて、にんまりと笑えば廊下へ出る。

 後ろから思いっきり今出て来たばかりの扉が開けば、そこには龍介と亜里沙がいた。


 「前菜は譲ってやるけど、この後の勝負だけは絶対に譲らなねえからな」


 「二人は友達だから……。今ね……生まれて初めて戦うことを待ち遠しいと思っているんだよ」


 龍介が俺に親指を立たせれば、俺も真似して親指を立てる。

 ――もう一つ、どうしても負けられない理由ができた。



                ※



 火桜空也と海凪澪音の二人が、待ち望んだ戦場へ向かっている頃、そことは近いとも遠いともいえる場所で新たなる戦いの兆しがあった。


 薄暗い通路、天井には剥き出しの水道管にパイプ。足の下の細かい格子状の床には、頭上から落ちて来た水滴によってところどころ濡れている。

 カンカン、と高い音を立てて歩くのは鈴白美湖。箱舟学園の制服ではなく、黒一色のパンツスーツを着ていた。これでは、良くて就活生、悪くて喪服と一緒だなんて言うが、周囲にはまともな常識に疎い連中ばかりなので困ったようにするだけだった。

 通路の先で待っていたのは、最近仲間になったばかりの男性だった。二十代前半だったはずだが、面白いぐらに鈴白にへこへこと頭を下げてくる。


 「鈴白さん! これ、目立つ服が欲しいと言ってましたよね!」


 はい、どうぞと差し出されたのは、外側が黒く内側が赤一色のマント。正直、こんなマントなんてアニメイベントのコスプレ会場でしか見たことない。いや、実際にコスプレ会場には行ったことないので何とも言えないところだが、間違いなく普通に路上を歩けば普通に目立つ代物だ。だが、これでいい。これぐらいの滑稽さが必要なのだ。

 鈴白はマントを受け取ると、それを羽織った。


 「よくお似合いです、鈴白さん!」


 服屋の店員のように、わぁと目を輝かせる彼の肩に手を置く。


 「ありがとう。だけど、この通路を抜ければ、私はもう鈴白ではなくなる。鈴白の最後の瞬間だ、よく目に焼き付けといてほしい」


 長年連れ添った飼い犬のように彼は元気良く返事をすれば、言われた通りに鈴白を見送った。

 ふと鈴白は考える。こんな時、例の彼なら、ここから先は行くなと全力で止めに来るのだろうか。もしも、この瞬間に彼が現れたら、私の未来は大きく変わるだろうし、通路の先に待ち受ける未来よりも僅かながらの幸せの為に生きていくこともできるはずだ。いや、そんなセンチメンタルは捨てよう。とっくの昔に戻れなくなっているのだから。

 しばらく歩くと、どんどん人の声が大きくなり、この先の明かりを感じられるようになる。通路の終わりが近いのだろう。

 出口のほんの手前、一人の男性、いや、鈴白とほとんど年齢の変わらない少年がそこにいた。ただし、長身の彼を少年だと気付くのは、彼の仮面の下を知っている鈴白と一部の者だけだ。

 少年はその顔にピエロの面をはめていた。両目とも三日月型の歪んだ笑みに、右目からは黒い涙を流し、左目からは赤い涙を流していた。


 「準備できたようね。……貴方にも何か名前が必要?」


 「そうだね、僕は……『クラウン』なんて言うのはどうだろ?」


 「道化師クラウン……。ピエロじゃなくて良かった?」


 「クラウンとピエロは違うさ、僕はピエロのように他人を笑顔にできる才能はないよ」


 それもそうかと鈴白は多くを考えることもなく納得する。

 このまま歩いていこうとした鈴白の前に、クラウンは立つ。


 「僕からプレゼントだ、親愛なる君にね」


 「気色の悪いこと言わないでよ」


 言いながら受け取れば、それは銀色のマスク。表はマネキン顔のようにのっぺりとし、目と口のところだけが穴を開けてあるものだった。

 我ながら不気味な仮面だ。しかし、自分の幼い外見には、マントに異常なほど黒いスーツに武器な仮面、ようやく大きな舞台に立てるだろう。

 銀の仮面を顔に装着することで、やっともう戻れな場所まできたことに鈴白は気付かされた。


 「さあ、行こうか」


 先に仮面の少年が出て行けば、それに鈴白も続いた。


 ――ワァァという歓声がその狭い空間から襲い掛かってきた。


 人、人、人。ネズミは走り回り、害虫がそこら中で巣を作る決して広くはない陰湿で手狭な空間に人がひしめき合っていた。彼らの頭よりも高い位置に、フェンスが立てられ、そこから動物のように叫ぶ彼らを見下ろす鈴白と仮面の少年。

 怖いとは微塵も思わない、そこにあるのは単なる感謝。だが、その感謝すらかなぐり捨てて彼らに死を通告する。


 「――聞け」


 自分でも驚くほどの低い声で鈴白が言えば、しん、と空間が静かになった。


 「多くの言葉はいらないが、少しだけ時間を私にくれ。ここには……生まれた瞬間から幸せを強奪された者、幸せを廃棄物扱いされた者、ただ一握りの幸せや時間すら許されなかった者、もっと単純に……奪われた者。この世界による、多くの被害者がここにいる」


 一歩前に出れば、薄暗闇の中で浮かぶ一人一人の顔がよく見える。目に涙を溜めている者もいた。全員が年齢はバラバラだが、その瞳に闇を抱えていた。


 「そうだ、我らは被害者なんだ。世界に、イヴのルールに、愛を剥奪されたんだ。誰にも救われることなく、誰かに助けを求めることもできず、誰も救うことはできない。こんな我らに誰がしたんだ。私達じゃない、私達の世界を作り出してしまったこの世界の在り方だ」


 鈴白はフェンスの金網を強く握った。


 「……待たせた、同士達よ。ようやく、本当の戦いが始まるぞ。これから起きることに後悔するなよ、懺悔するな。破壊からしか再生は生まれない。こういうことを言いながらも、誰も実行に移すことはなかった。それは権利がないからだ」


 強く、強く、強く、鈴白は金網を揺らす。


 「だが、我らには権利がある。その権利が実行されれば、すぐに義務に変わる。そうだ、私達は再びこの世を再生するために、破壊を犯すのだ。ありとあらゆるものを破壊し崩壊させ、悲劇を知る我らの手でこの世を再生させる。……行くぞ、破壊と再生が待っている」


 鈴白は、その手を金網から離せば、一回転して金網を全力で蹴りつけた。


 「――行こう、新世界へ!」


 歓喜と感涙と嗚咽と咆哮の入り混じる空間で、鈴白の自身の手で悲劇の扉を開いた――。


                                                                                   

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