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創世機神ガインスレイザー  作者: きし
第一章『サバイバル入学式』
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 気が付けば、俺は暗闇の中にいた。

 椅子のようなものに座っているようだが周囲には何もなく、両手足を縛られているのか身動きがとれない。

 急な展開に悲鳴の一つでも上げたくなるが、そう自覚している時点で俺自身はかなり落ち着いているという事実に気付いた。非常事態にうまく頭が回らないのか、それともイマイチ現実味がないからなのか、今のところ動揺はない。


 「落ち着け……落ち着いて考えてみるんだ」


 記憶を失う前の出来事を思い出すことに散らばった意識を集中させる。

 たっぷり時間をかけて自分のクラスを確認した俺は、同じクラスになるであろう生徒達と生徒会の生徒に案内されて教室へ向かっていた。そうして、案内された教室に入った瞬間――暗転。眠る前に何か強い刺激を感じた気がするが、覚えていないからにはどうしようもない。


 「今何時だ……。くそ、暗くて何もわからない」


 独り言を言ってみれば、逆に俺の鼓膜に返ってくる様子はない。次に音に耳を傾ければ、外からは何か小さな音が聞こえる。そして、俺が外とあっさり認識したということは、この空間はそれほど広い場所ではないということだ。

 だったら、これは何だ。サプライズにしては、少し大げさだろ。ふと、前に聞いた噂話を思い出した。

 箱舟学園は昔から、国の最重要機密に関わっていると言わている。もしかして、機密を狙うテロリストによって拉致監禁されたのかもしれない。突拍子もない話だが、全くありえないわけではない。入学式というのは、入口が広くなる。新しい人間を組織に入れるということは、それだけ危険に晒すことになる。


 急に前方に淡い光を感じ、目を向けた。

 そこには、男性が一人立っていた。高級そうなスーツを着こなす壮年の男性からは実体が感じられないところを見ると、おそらくは立体映像ホログラムの一種だろう。暗がりに現れた存在に目が慣れる頃には、その男性の正体にようやく気付く。


 「……藤堂学園長」


 この学園のトップに君臨する藤堂大吾。耳の下から顎にかけて生えている髭は、まぎれもなく学園長しか似合わないであろう個性ファッション


 「やあ、こんにちは。火桜空也くん。入学おめでとう。……乱暴な出会い方で申し訳ないね」


 「……少しでも申し訳ないと思うなら拘束を外してくれませんか?」


 「なんだい、いきなり怖い声を出して。反抗期かい?」


 「いきなりはこっちのセリフです。それに、この状況で世間一般の目上の人間としての扱いを期待している方が間違いですよ」


 それもそうか、と学園長はへらへら笑いながら言えば、俺を中心に周囲を歩き出す。


 「さて、本題に入ろうか。……入試に合格したということはキミは適性者だ。これから先、もしかしたら起こるであろう神による災害、『神災』から人類を守り、多くの危険から人々を救う力を手に入れるためにここにやってきたことに間違いはないね」


 大袈裟なことを言われているが、俺の始まりは幼い頃のあの少女との出会いだ。イヴや創機と呼ばれる言葉を深く知るよりもずっと前から、単なる約束が俺をここまで突き動かしたのだが、正直に言えば、この状況で何をされるか分からない。


 「間違いは……ないです……」


 「だが、創機という力はイヴと……操縦者ことアダムと呼ばれているパートナーが必要になる。そして、キミはアダム候補生だ。この学園での日々を過ごす内にきっとキミにとって一番のパートナーが見つかることだろう」


 そこで一度、言葉を切った学園長は、しかし――。と、声を発する。


 「いつだって、災いというものは急に訪れる。創機に乗れば、人災や天災などの緊急事態にも対処が必要になる。キミも知っているだろうが、創機乗りは警察や政府軍、救急隊、未開拓地への調査にも使われ、卒業後は、常に危険な現場で過ごすことになる。キミ達だって、入学して創機を操ることができるようになれば、学生といえど有事があれば戦力として協力してもらわなかればならない。……そこで、私はいつだってキミ達に心の準備ができるように、あえて最初からキミ達を試すことにしたよ」


 「は? 試すって一体――」


 俺の返答を待たずして、足元が小刻みに振動するしているのが分かる。ただ振動するだけではない、周囲の壁も揺れている。慌てて学園長の顔を見れば、その青白いホログラムにも少しずつノイズが混ざり始めていた。


 「キミがうちの生徒にふさわしいかどうかの試験だ。今からサバイバルテストを行ってもらう。そのために、火桜くんと同じ新入生達はある無人島に強制的に連行させてもらったよ。この無人島から脱出する方法はただ一つ――他の生徒と戦い、その生徒の生徒手帳を奪えば勝利だ。そのためなら、創機を使おうが直接襲おうが方法は問わない。脱出の条件は時間切れになる前に他の新入生の生徒手帳を奪うことだけだ」


 「ちょ、ちょっと、待ってください! 俺まだ相棒のイヴすらいないんですよ!?」


 学園長は鼻で笑う。


 「それもテストさ。危機的状況をどのように脱出し、真のパートナーと出会うことができるのか。……無理に出会わなくてもいい、それよりも覚悟をみせてくれ。自分の目標のために、他の学友を蹴落とす覚悟を」


 俺を囲んでいた壁が外側へと倒れ、暗闇が減っていくのと比例して太陽の光が頭上から降り注げば、急な強い光に目を細める。ずっと暗闇を見つめていたせいか、まともに目を開けられないでいる内にホログラムは消えたようだが、学園長の声が耳へと届く。


 「手に入れたいものがあるなら、抗え。信じるものがあるあるなら、貫け。叫びたい想いがあるなら、咆哮せよ。私達はキミ達の入学を歓迎しよう、人間の未来を守るために聖母イヴに祝福されしキミ達の未来が輝かしいものを願おう。――さあ、神を見下す為の最初の一歩を始めるんだ」


 それが学園長の最後の声。

 少しずつ、目が慣れてくる頃にもう一つ声が周囲一帯に響き渡った。


 『創機防衛科に入学した新入生の皆様、ただいまより最初に試験を行います。――生徒手帳争奪、バトルロワイヤル始め』


 事務的な音声を耳にしながら、視界いっぱいに広がった異常事態に目を奪われていた。


 「冗談だろ……?」


 手足の拘束が外れ、立ち上がれば、周囲は見たこともない木々。コンテナ一つ入りそうなスペースに、俺は居るようで、コンテナが広がるのを確保したスペース以外は、太い木の根っこが地面から飛び出し、一度も聞いたこともない変わった声で野鳥が鳴きながら空を舞う。

 じっと制服のシャツに滲む汗は、二ホン国の春にしては随分と熱い。梅雨の時期の湿気を帯びた熱さによく似ていた。

 足元に咲いたカラフルな花を見れば、ようやく学園長の言葉が嘘ではないことを実感できた。

 確かめるように、どこか現実逃避混じりに再び呟いた。


 「冗談だろ?」


 人間の返事がない代わりのように、ここが現実だというのを知らせるかのごとく野鳥が奇声を発した。

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