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創世機神ガインスレイザー  作者: きし
第四章『暴走する力、破滅で救う何か』
33/65

 その頃、二体の創機は剣撃と拳撃をぶつけ合わせていた。

 ガインスレイザーはエグゼノヴァクの剣を回避し、蹴りを放つ。その蹴りすら、エグゼノヴァクは刀でいなすともう片方の剣で襲う。体を大きくひねり、ガインスレイザーは距離をとる。足を止めることなく刀が振り下ろされるよりも早く懐に飛び込み、手首を掴んで動きを止めた。


 「俺とお前が戦う理由なんてないはずだろ! そんなの、お前の身勝手な理屈じゃないか!」


 『確かに、俺の身勝手な理屈かもしれないが、俺はその身勝手さで多くのものを救う。それが、義務であり責任だ! お前はそれを妨げるんだよ!』


 エグゼノヴァクの力に押し負け、ガインスレイザーをバックステップさせる。呼吸を落ち着ける暇もなく、神経をすり減らしながら続くこの戦いに俺自身疲れを感じていた。今までの戦いの激しさを物語るようにして、周囲は穴が開いた地面があったり、切り落とされた柱などが辺りに散らばっていた。

 逃げつつ攻撃に出てみるが、相手は手に刀を握っているのに対して、こちらの武器は腕と足しかない。下手な攻撃では、逆にこちらを不利にさせ、だからといって腰の入っていない一発一発のダメージはさほど高くないので、どれもが勝ちに繋がらない。

 今もまた、構えた拳を引いて、大きく後退したところだった。


 『すばしっこい創機だな……。このまま続けていれば、いつ決着がつくか分からんな。こっちは、まだまだやることがあるってのに』


 「……そんなこと言うなら、さっさと帰ってくれてもいいんだぜ」


 まさか、とエグゼノヴァクは肩をすくませるような動作をすれば、刀の構え方を変えた。右手を頭の上に、左手を膝の辺りに下げるように構え、こちらを見据える。


 『そうさせてもらう。ここからが、本番だ。……いや、ここで終わりだ』


 エグゼノヴァクが、構えたままで音もなく前方に出現した。

 驚くよりも早く、ガインスレイザーの拳を振るう。右ストレートはエグゼノヴァクの顔面に直撃し、その姿が煙のように消えた。


 「なっ――!」


 迂闊だった。驚いた俺は、右腕を伸ばしたままにしていた。音が聞こえ、右横を見れば、そこにはいつの間にかエグゼノヴァクがいた。そして、気付くと同時にその刀はガインスレイザーの右腕を切り落とす。


 『今度は右腕をいただいたぞ』


 真っ白になった頭で大きくバックステップ。屋上から落ちるんじゃないかと思うほど後退すれば、失われた右腕に触れる。


 「右が……!?」


 顔を上げると、俺はまた驚愕した。

 エグゼノヴァクが二体に増えていた。


 『分身……した……?』


 言ったのは澪音だ。だが、そうとしか思えない。澪音の言った言葉の答え合わせに付き合うように、エグゼノヴァクはさらに一体増えた。


 『そうだ、『分身』。これが俺の、いや、俺のパートナーの能力だ。分かりやすいだろ? ただ、増えるだけの能力だよ』


 そう言った後に、さも見せびらかすようにエグゼノヴァクはさらに増える。――エグゼノヴァクは計四体となっていた。


 『お前は弱くない。だが、お前は負ける。……ただそれだけのことだ』


 四体のエグゼノヴァクは、同時に地面を蹴り向かってきた――。



                 ※



 アキトはある存在を探してた。

 いろいろ忘れてしまい、自分がどんな形をしていたのかも思い出すことはできないが、一人の少女を捕獲しなければいけないことだけは覚えていた。


 『エリカァ……』


 ビルの上を走り回る黒い獣は、ただ目的の人物の名前を呼び探し歩く。

 どうやって見つければいいのか? と考えたアキトは、そうだ臭いを探せばいいのだと考え、二足歩行の恐竜のような姿に大きな鼻を作った。そうして、アキトは進化を続け、今は既に二十メートルを超えていた。そのため、アキトの姿を見つけた人達は悲鳴を上げて逃げ回り、一部の安全な場所からの恐怖しか知らない人間達は写真を撮ったりなどしていた。しかし、それも今だけ、今はまだ標的がいるからこの程度で済んでいるのだ。

 すべてを忘れたアキトは、英里佳を見つけてもきっと手にかけて、そして次の標的を永遠に探し続ける。

 そうやって、アキトはよく分かる破滅を抱えて――英里佳を見つけた。



                ※



 英里佳と玲愛は街の中を走っていた。

 何故この二人が行動を共にしているのかというと、もともと英里佳を匿っていた空也と澪音に加えて玲愛も協力者になってくれていた。

 空也から連絡を受けた玲愛は、英里佳を連れて隣の空也の部屋で身を潜めていた。しかし、隣から聞こえてきた騒ぎに危機感を感じ、慌てて逃げ出してきたのだ。

 行くあてなんてないが、とにかく駅まで行って遠くに逃げようと考えつつ玲愛は呼吸の間隔が短くなる英里佳の手を引いた。未だに記憶は回復していないようだが、今の自分が危険な状況に立たされていることは自覚しているようだった。


 「もう少しで駅に着くから! 頑張って!」


 自分も苦しいはずなのに玲愛は英里佳を励ます。


 「は、はい!」


 英里佳も必死に頷けば、僅かに足の動きが早くなる。

 駅前は多くの人でごった返していたが、どれだけ奇異な目で見られても大急ぎで突っ切るしかない。

 足を止めることなく走っていた玲愛は、急に英里佳を引いていた手が重たくなるのを感じた。


 「うわっ!? ど、どうしたんですか!?」


 そこまできて、ようやく気づいた。

 つい数秒前まで騒がしかったはずの駅前がしんと静まりかえっていた。全員がある一点を見つめている。英里佳は繋いでいない方の手で、百メートルほど先の駅の屋根を指さしていた。玲愛は、指先を辿りその方向を見た。――そこには、二十メートル近い黒い怪物、アキトがいた。


 『エリガアァ!!!』


 そう甲高い声で鳴いた瞬間、駅前は一瞬にしてパニックに陥った。

 逃げ惑う人、取り残されて泣く人、我先にと他者を押しのける人、警察に連絡でもしているのか携帯電話でどこかに連絡を取ろうとしている人もいる。だが、奴の狙いはただ一人。

 玲愛は庇うようにして英里佳の前に出れば、手をかざした。


 「私はもう屈しません! ――出てきてください、クロウディアーネ!」


 光の粒子が花弁のように舞い、ずんと重量を感じさせる音と共に出現したのは玲愛の創機クロウディアーネ。その手の中ではショッキングな怪物を前にしたからなのか、英里佳が小刻みに震えている。


 『ごめんなさい、英里佳ちゃん。貴女は必ず私が守るから』


 背中のジェットブースターが動けば、クロウディアーネは上空へと飛ぶ。そのまま、駅の屋根も越えて高く飛んでいけば、ぐるんと旋回して空を飛んでその場から離れていく。

 だらりと垂らした腕で、飛んでいくクロウディアーネを黙って見ていたアキトは、大きく咆哮を上げれば、そうすることが当たり前のように駅の屋根から跳躍すれば落下することはない。背中には、巨大な黒い翼が生えていた。翼が大きく羽ばたけば、クロウディアーネの後を追いかけるために飛翔した。



                ※



 ガインスレイザーは一体でも厄介なエグゼノヴァクが四体になったことで、完全に防戦一方となる。

 避けて、動いて、足を止めずに、再び動いて、その繰り返しで、攻撃をするチャンスなんて回ってこない。むしろ、回避が成功し続けていることが幸運だと思った。

 それもきっと、澪音のおかげだろう。

 操縦桿を操作しながらでも、僅かな修正が感じられた。それは決して不快なものではなく、ただしい方向へ持っていこうとする働き。俺が見えるのは前方だけだが、澪音は左右を見れるのだろう。同時に迫ってくる攻撃を、澪音なりに修正しながら共に戦ってくれているようだ。

 時間切れなんてあるのか分からないが、俺は少しずつ解決の糸口を探していた。

 ふとエグゼノヴァクは分身を含めて動きを停止していた。


 「どういうことだ……」


 『ねえ、空也。あれ、なに……?』


 ガインスレイザーの腕が澪音の操作によって動いた。戦闘中だというのに、持ちあがった左腕から人差し指が立てば、その先には何やら黒い物体が見えた。


 「カラス? それにしては、でかいよな……」


 創機? それにしては、奴は大きすぎるし、どんどんと近づいて来るその黒い何かはまるで恐竜のような姿をしている。

 ――いや、まだ恐竜の方が良かった。

 近づいて来たそれを見て、俺はその存在がどれほど異常なのかを知る。

 炎とはまた違ったゆらゆらと揺らめくオーラのようなものが形を持ち、両手両足、さらには大きな口は、一見すると特撮に出てくるような怪獣をヘドロで作ったような醜悪さ。それだけではない、背中らしきところから生えた翼のせいで、その存在はさらに奇妙なものに見える。例えようもないが、それはまるで神話やファンタジーの世界に出てくるキメラのようにも見える。


 『真登意、あれが何かわかるか?』


 潜ってきた修羅場が違うのか、統矢は冷静に自分のエノスに聞いている。


 『……いいえ、思い当たるところはありません。ただ、あの声は聞き覚えがあります』


 『声? 男の声に聞こえたが……』


 『はい、男の声です。確証はありませんが――』


 黒い怪物は、上空で大きく翼を広げて吠えた。


 『――アァァァァ! グズリ、グズリ、ホシィ! グレェ! エリガァ! エリイィィィィガアァァァァァ!!!』


 奇妙な声を荒げる黒い怪物の声を聞き、統矢は、ああ、と納得した声を漏らす。


 『奴か……。あちら側では、思わぬイレギュラーが出たようだな』


 『統矢様』


 『分かっている、奴を始末するぞ』


 ガインスレイザーの方を一度も見ることなく、エグゼノヴァクは軽く地面を蹴ればボールが宙を飛ぶように怪物の元まで飛んでいった。

 空也は、緊張の糸が切れたのか操縦席の背もたれに体を預ける。


 「なんなんだよ……アイツ……」


 『嵐のような人だった……。優先順位が変わったんだろうね』


 喋るのも辛いほど全身に疲労が蓄積されているようで、声を出して頷いたつもりが、掠れたような声が出るだけで、俺はただ頷いた形になった。


 『……空也はどうする?』


 気遣うように問いかける澪音の声に、今度ははっきりとした返事で頷いた。


 「あの怪物を止める」


 『大丈夫?』


 「いいや、大丈夫じゃない。怖くて怖くて、今なら澪音にしがみいて離れなくなりそうだ」


 『……そ、創機、解除しようか?』


 「……よく考えてみたら、今の発言は恥ずかしいから忘れてくれ。……あの怪物をそのままにしていたら、とんでもないことが起きそうな気がするんだ。……だから、力を貸してくれるか?」


 ガインスレイザーは前へと歩を進める。空也はまだ操縦桿を握っていない。ということは、澪音の意思で動いているということだ。


 「当たり前、空也のやりたいことが私のやりたいことだよ」


 「怖くないか?」


 質問に対しても、歩みを止めない澪音に問いかける。


 「空也が傷つく方がもっと怖いよ。私の知らないところで、空也が傷つくぐらいなら、私も一緒に傷をつくつもりだから」


 「迷惑かける」


 「……迷惑もっとかけてよ」


 目指すは、俺達の平穏を壊す黒い怪物。操縦桿を強く握れば、右腕を無くし傷ついたガインスレイザーは大きく跳躍した。

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