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創世機神ガインスレイザー  作者: きし
プロローグ〜世界と約束の始まり〜
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プロローグ②『くーやとれいん』

 これは何年前の記憶だろうか。子供の頃のことだ。まだ、小学校低学年ぐらい時のことだろう。


 ある日、近所の公園に向かっていた。別に友達と約束をしていたわけではなく、公園に行けばいつも誰かが遊んでいたから、いつ行っても誰かがいると思っていた。どうやらその時ばかりは誰も遊びに来ていなかったようで、しばらく一人で遊んで誰も来なかったら帰ろうかな、とブランコの隣の砂場まで歩いて行った時のことだ。


 ポツン、と一人の少女がブランコに腰かけていた。

 まるで人形のような顔をしていた為か、パッと見た時は外国の女の子かと思うほど計算されたような綺麗な顔立ちをしていたが、真っ黒い長い長い髪の毛は紛れもなく少女は俺と同じ二ホン国の国民である証明だった。彼女の格好も絵本に出てくるお姫様のような、フリルの付いたスカートをしていたからだろう。余計に俺は彼女を異国からやってきたように誤解したのかもしれない。子供だった俺ですらそう思ってしまうほどに、その少女は絵本から逃げ出してきた時に間違ってこの現実にやってきてしまったかのような不釣り合いな光景だった。


 初めて見る女の子だった。

 ブランコを漕ごうと思っていたのに、隣に見知らぬ女の子がいたら一人だということもあって遊び辛い。だからといって、二人きりの公園で女の子を無視して歩けるほど俺は成長していない。それに、ブランコを漕ぎもせずにただじっとブランコの前の柵を見つめる女の子が気になったのだ。

 妙な気まずさを感じつつ、俺は女の子に声をかけた。



 「どうしたの?」


 「どうしよう?」


 互いに首を傾げる。

 普段なら、どうしたのかと相手に聞けば大体の人間はその答えをくれる。でも、この子は質問を質問で返してきたのだ。初めての経験に戸惑う。


 「こっちが聞いているんだけど?」


 「むしろ、こっちが聞きたいんだけど?」


 会話が一歩も進んでいない。しょうがないから、答えてやることにする。


 「俺の名前は、空也くうや。キミの名前は?」


 「わたし……? 私は澪音れいん。聞きたいのは、名前じゃない」


 ブランコの左右のチェーンを両手で握り、ガチャガチャと不満そうに見てくる澪音。そこでようやく、俺は納得するのだ。


 「キミ、ブランコ乗ったことないの?」


 小さく澪音は頷いた。

 俺は爆笑すれば、恥ずかしそうに顔を赤くする澪音の背中を押してやる。


 「ぁ――!」


 「しっかり握っておくんだよ! 手を離しちゃダメだからね!」


 言われるがままにブランコのチェーンを握る澪音を見て、また爆笑をすれば俺は力一杯にその小さな背中を押す。



 俺と澪音はそうやって知り合い、つまらなくなるはずだった午後の時間が楽しいものに変わっていく。

 ブランコを互いに押し合って楽しめば、次は滑り台、その次はシーソー。いずれも澪音からしてみれば初めての遊びだったようで、遊具の説明をする俺の話をしっかり聞いてくれる澪音を前にすることいつも以上に遊具を楽しく感じることができた。誰かに何かを教えることが、楽しさの再発見だということを学んだ瞬間かもしれない。


 日も暮れだした頃、俺達は泥だらけになりながら砂場で砂のお城を作っていた。俺も澪音もまだまだ、遊び足りない気分だった。



 「くーやは、すごいね!」


 空也を間延びした声で言う澪音には、最初の頃のような警戒心は一切感じられない。もちろん、それは俺も一緒だ。


 「だろ? もうすぐしたら、砂の城の完成だ!」


 砂の城と呼ぶには、あまりにも丸みが多く、むしろ城ではなく砂の山といった方が正しいだろう。それでも、俺達からしてみれば、それは間違いなく砂の城だった。

 城の表面を固めた後、城の入り口を作っていた澪音とハイタッチをした。


 「「やったぁ!」」


 無邪気な二人の声が重なる。

 最後に俺は城のてっぺんに窪みを作ると青と赤色が半分ずつ入れ分けされたビー玉を砂の城の上に置いた。


 「これで、完成だよ。世界に一つだけの俺たちの城だ」


 「……世界で一つだけ」


 澪音は小さく呟けば、はにかみ顔を赤くした。


 ――その時、五時を知らせる音楽が街中に鳴り渡る。スローテンポな曲が、俺の物悲しい気持ちに拍車をかけた。


 この近くに住んでいるわけではない澪音も察したのか、子供の自由時間の終わりを知らせる音楽を聞き、呑気に音楽に合わせて鼻歌まで歌っている。この国に住んでいる人間なら誰しも一度は耳にしたことがある曲だが、俺はこの日からこの曲を嫌いになるような気がしていた。

 砂の城をさらに増設しようとする澪音だったが、立ち上がったままで動こうとしない俺を不思議そうに見た。その目が俺に問いかける。

 もっと遊ぼうよ、と。

 それは俺だって同じ気持ちだったが、最優先で頭に思い浮かぶのは怒った両親の顔だった。


 「ごめん……。もう帰らないとお母さんに怒られちゃうんだ……」


 俺の言葉を聞き、急激に少女の顔から表情が消える。澪音なりに、自分の中で折り合いをつける時間のために、数十秒の静かな時間が流れた。そして、ようやくという様子で澪音は頷いた。


 「……うん、帰らないと心配しちゃうからね」


 子供ながらに俺はこの時ショックを受けていた。澪音はまるで、自分の帰りを待っている人間なんていないかのように口調で言ったのだ。だから、俺は無理だろうが何だろうが、それ以上澪音にそんな顔をさせてはいけないと考えた。


 「それなら! それなら、さ……また遊ぼうよ。明日も俺、ここに遊びに来るから」


 澪音は少しだけ表情を取り戻すが、再びその顔を暗くさせる。 


 「今日はたまたまここにいるだけだから……。明日なったら、帰っちゃうの」


 「そんなぁ……」


 二人の間に沈黙が流れ、つい数分前までの明るい雰囲気がどこにいってしまったのか空が暗くなるようにその場の空気も暗くなっていく。

 こんな悲しい気持ちになるなら、出会わなければよかった……。そこまで考えてしまった後に、思い返す澪音の顔は楽しそうだった。俺は楽しそうな澪音のその表情を信じてみたい、もう一度その笑顔をみたいと強く願った。今しかチャンスがないなら、俺はこのチャンスを無駄にしたくない。

 俺は少女に小指を立てて見せた。


 「約束する、また澪音と会おう。ううん、必ず澪音に会いに行く」


 思いもよらない俺の行動に目を丸くする少女だが、すぐさま飛びつくように小指を絡めた。

 指先から澪音の仄かな温もりを感じる。


 「もう一つ約束してほしいの、くーやには私のパートナーになってほしい。……エノスである私と一緒になってほしい」


 「パートナー? エノス? いいよ、澪音が楽しいなら俺はパートナーになる」


 きっと遊び相手的な意味だろうと簡単に俺は答えた。そして、今日一番のその笑顔はとても俺を愛おしそうに見つめていた。


 「――ありがとう、必ず迎えにいくね」


 そうして、俺と澪音は小指をさらに強く絡めた。




 これが何年も前の俺の記憶。


 ――現在、俺は十五歳になった。

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