プロローグ 『デウサエグザとマザーイヴ』
――その昔、この世界には神がいた。
神の名前はデウサエグゼと呼ばれた。それは神が名乗った名前なのか、それとも人間が神を作り出す際に付けた名前なのかは、誰も知らない。
まずデウサエグゼは世界を作った。大地を産み、空を描き、海を放出した。
まだ何か足りない。この世界のことを知る為には、情報を報告する何かがいる。今の大地と空と海水しかない世界も嫌いではなかったが、デウサエグザは生み出した世界との対話を望み、知性を求めて、神にも等しい何かを作り出すことにした。
ーーイヴを誕生させた。
後の歴史が語るのだが、これだけは、間違いない。最初のイヴは女性の姿をしていた。
デウサエグザはイヴに世界を旅をさせ、必要と判断したら報告をし新しい何かを作る。
途方もない時間をかけて、世界は様々な生命に溢れるようになっていた。そこには、イヴを模した存在――人間の男女の姿もあった。
この星は順調に進化を続けているのだと思っていたが、イヴを模して作ったはずの人間達にある違和感を感じるようになる。
何百年経過しても、何故人は進化しないのだろう。
野を駆け回り、動物を狩り、暗くなれば裸同然の格好で眠る。
己を模したイヴをさらにコピーした存在であるはずの人間が、どうしていつになっても自分達に追いつかないのだろうとデウサエグザは考えた。そして、ある結論に至った。
彼らは知識を持たない。ならば、知識を持つ者達を生み出して新たなる存在に人間を委ねてみてはどうだろうか。
その結果、デウサエグザは人間達の進化を促すために特殊な能力を持つ少女達を地上に放った。
神にいくつかの知識を与えられた少女達は人間達から産まれ、神から与えられた才能を存分に活用して世界の中枢で活躍するようになる。――彼女達はイヴを真似た存在、その故に、イヴと呼ばれた。
そんな少女達の前には必ずといっていいほど、彼らの母なるイヴが現れる。彼女こそ、神と共にこの世界を旅した本来のイヴ、いわば地球に生まれた少女達のオリジナルだ。人々を導く指導者になりえる少女達のさらなる指導者として、オリジナルのイヴ、マザーイヴにその役目を担わせた。
イヴ達はマザーイヴの与える指示に従い、人でありながら人知を超えた力を発揮して人間達の進化を促し続けたのだ。
イヴ達の出現から千年ほど経過したある時、神はある惨状を目にした。
人がイヴの生み出した知識を元に、一方的に同じ種族である人類を虐殺する光景だった。
神は人間達の進化を促したことを激しく後悔し、いつか世界を破滅へ導く存在になるだろうと判断した人間達を世界から消滅させることを決めた。
愛を教え、導く存在であるマザーイヴの対になるものとして――リリトを破滅の使者として送った。
人類は三日の内に滅ぶ予定だった。しかし、人は滅ばなかった。
マザーイヴが人間の味方をしたのだ。
長年人の中で生き続けたマザーイヴは、人の愚かしいところを知りながら情の湧いてしまった人間を愛してしまった。
いくら強大な力の持ち主といえど、もともと闘うための存在ではないマザーイヴ単体ではリリトには勝てない。
それでも、マザーイヴは人間と共に戦うことを決めた。
力はあるが戦うことを知らないマザーイヴ、力を持たないが他者を守るために戦うことを知る人間。その彼ら人間とイヴが心身を一つにすることで、機械仕掛けの巨人である創機を召喚し、共にリリトを神の世界へ追い返すことに成功したのだ。
結果、神は反乱を起こしたイヴに激怒し、神の世界から追放されることになったが、神はマザーイヴを滅ぼすには情を感じ過ぎていた。共に神の世界で過ごしていたいと思っていたが、イヴは決別の道を選択した。
神はイヴが人間の中で生きていくことを条件に、人間の破滅を止めることを決めたのだ。
そうやって、この世界はイヴに生かされることで、人間とイヴは共に生きる道を選択した。
そして、今なおイヴの力を受け継ぐ少女達は生まれ続けている――。