八章 She have an audition―――入団試験
ガタゴトガタゴトガタゴト……。
「あいててて……おい。まだ首が戻らないぞ、ゴンザレス。帰ったら慰謝料払えよな」
「自業自得だ!こちとら運転もさせずに寝かせてやってるんだぞ!?捻挫ぐれえとっとと治しやがれ!!」
「アンタレスさん、流石にそれはちょっと無理じゃあ……」
船着場の街で借りた廃車寸前のレンタカーを運転しつつ、ヘルン大学一行はアウトバーンをひたすら北上していた。ハンドルを団長が握り、依頼者は車に積まれていた地図片手にナビゲート中だ。
一方、墜落時に頸部が左に傾いた副団長はと言えば、後部座席で重力を頼みに元へと戻そうとしていた(つまりはしっかり熟睡していた)。
欠伸をしながら上半身を起こしたキムは休憩の甲斐もあり、無事首が真っ直ぐなっていた。しかも他には傷一つ無く、奇跡的軽傷だ。
「帰りは手前一人で運転しろよ。さっきまでずーっとスピカが運転してたんだからな。にしても、まだ学生でしかも女の子なのに、よく免許なんて持ってたな」
「お母さんに勧められて、入学前の夏休みに取ったんです。私の家、車四台もあるから」
「確かに親が医者と売れっ子物書きなら、維持費を払ってもまだたんまり残ってるだろうな」
「そんな……そう言うお二人も免許を?」
「ああ。公演するようになったら、運搬手段は必要不可欠だからな」
「成程、それもそうですね。ところで出発前から気になっていたんですが、他の団員さん達は」
「「………」」
「あ……す、済みません……」
事情を悟り、赤面して謝罪する同級生。いや、俺達の勧誘力不足が原因だ、部外者のスピカが謝るような事じゃない、慌ててアンタレスがフォローを入れる。
「因みに園芸科にいないか、役者に向いていそうな子?出来ればまずは、目の覚めるような看板女優が一人欲しいんだが」
質問に、ええと、やや気後れ気味に地味な娘は考え込んだ。
「済みません。特に心当たりは」「何言ってるんだ、アンタレス。もうここにいるじゃないか」
突然上がった意味不明な返答。助手席は首を捻り、ドライバーはミラー越しに発言者を睨み付ける。
「何だと、キム?」
「スピカは百年に一度の名女優だ。俺が保証する」
「えっ!?で、でも私、お芝居なんて生まれてから一度も……」
「ならテストしよう」
盛大な欠伸を掻き、頭をボリボリ。
「もうすぐミストレイクの入口だ。そこで最初に会う奴に色っぽいキャラで応対する事、以上」
「っな!?おいキム!役作りも無しにぶっつけ本番とか、手前無茶苦茶だぞ!?」
「そ、そうですよ!?大体私、色気なんて全然」
動揺の間にも、オンボロレンタカーは林道を無事通過。程無く湖の真ん中に浮かぶ都市、ミストレイクの手前へと到達した。
湖岸と市を繋ぐコンクリート製の橋を渡りながら、やらなくていいからなスピカ、アンタレスは真っ青な同級生に言い聞かせる。
「こいつのいつもの戯言だ。ったく、親父さんの事で一杯一杯だってのに」
「………」
「止まれってよ、アンタレス」
「おう」
橋の終点で手を振る衛兵に促され、ガタガタッ、車は厭な軋みを発しながら停止した。