五章 He can fly
「ふぅん」「へえ、綺麗に撮れているな」
おずおずと差し出された写真にはワンピース姿のナナと、シンプルなシャツにジーンズ姿のペテルギウス。そして鼻筋と頬骨の辺りが少女に似た、母娘に劣らず美形の男性。つまりナナの父親の三人が写っていた。
写真の背景は雲一つ無い青空の草原で、日付は二週間前。どうやら春休み中、ピクニックへ行った際に撮影された物のようだ。
「お父さんはプロキオン、あ、こっちは本名です。ややこしくて済みません。死んだ父方のお爺ちゃんが天文学者で、誕生星からそのまま付けたらしいです。―――え、私の誕生星ですか?おとめ座のスピカですけど……あ、はい。じゃあ、これからはそれで宜しくお願いします」
ペコリ。
「で、えっとその………依頼って言うのが……」
再びもじもじし出したナナ改めスピカに対し、俺が説明するよ、キムが軽く手を振った。
「もし間違ってたら教えてくれ―――お父さんはここ数年、新聞を新聞を賑わせている男色専門の連続死姦魔だ。で、次の獲物は今後ろで曲の掛かっているB・G氏。それだけならいつもの悪癖だが、君はかつて彼の大ファンだった。幼い頃の思い出と故人の貞操を穢されたくない君は、藁をも掴む思いでここの扉を叩いた―――こんな所か?」
畳み掛けるような推理に絶句し、蒼褪めるスピカ。次の瞬間、その控えめだが整った顔立ちがクシャッ、と歪む。
「ま、全くその通りで、一個も間違ってませんけど、う、う―――うわーん!!!」
突き付けられた悪夢に、堪え切れず両手で顔を覆う女子大生。愁嘆場の中、最初に動いたのは部屋の責任者だった。神速で友人の首根っこを掴み、有無を言わさず部屋の端まで引き摺っていく。そしてバンッ!片手で窓を押し開け、
「手っ前、毎度毎度もう少し言葉を考えろや!このデリカシーナッシング野郎が!!」「うわっ!?」
成人間近の男一人を軽々と投げ飛ばし、綺麗な放物線を描いて三階分落下させたのだった。