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幻想世界  作者: 安月勇
第一部
3/3

通学


家を出て暫くは人気のない道が続く。そこを2人は他愛もない話をしながら進んでいた。


「朝陽と樹、何時に起きるかな?」


「さぁな……まぁ、ギリギリで無い事は祈っておくか」


通学路は徒歩で片道30分程かかる。叶のギリギリは校門が閉められる25分前に起こす事だから、其処から着替えや準備を考えると結構キツイのだ。因みに朝食に関しては食べずに叶が用意してくれるお握りを持って来る事が殆どだ。


「走って来た時の2人の顔は……結構凄いよね」


「クラスの奴が鬼の形相とか言ってた位だからな」


身体能力が高くても其れなりの距離を全力で走ればやっぱり辛く、それに伴って表情も結構凄い事になってしまう。最初の頃は教室に飛び込んだ瞬間一部から悲鳴が起こった事もあった程だ。だがクラスメイトにも徐々に耐性がついて、今ではどちらが速いかちょっとした賭け事になっているらしい。


「そう言えば2人ってクラス違う……どうやって判断するの?」


「どうも其々のクラスにタイムをチェックする係を作ってるらしくて、HRの後に確認するらしい」


「へぇ……何だが不思議」


その言葉に魅陰はそうだなと返す。契約者と言う自分達をその様に競争させたりと言うのは、不思議で面白い感覚だ。


本来、契約者である魅陰達は学校で学ぶ事は義務化されていない。契約者であって頭脳的特化は無く普通とは変わらないのだが、これは<命の危険・・・・>を理由に定められていないのだ。そして大半の契約者は学校には通わない。理由は単純で、特別扱いを嫌うからだ。


特別扱いをどれ程拒んでも、自分達の命の一端を背負う者達を一般の者達が特別扱い出来ない訳がない。普通に接しようとしても絶対に言葉や行動の何処かに其れは出て来る。契約者達はそれを煩わしく思い、学校には通わない。


そして通わない者の為に、通信を使った勉強法や其々の中心意識が様々な方法を使って勉強する機会を作っている。


そして魅陰達も最初はその様にするつもりだった。中心意識の守護を受け最低限の事を学んでおけば良いと考えていた。けれど幼いアイーシャが学校に行ってみたいと言った。その時の言葉が好奇心からなのか、何かを見極める為なのかは知らない。けれど当時のアイーシャは幼い自分達が心配する程に自分の意見を言わず、流される子供だった。


そんな子供の自分の意思に中心意識も魅陰達もじゃあ入学しようかとすぐに決めて、小学2年生から通い始めた。年上の叶は最初の1年のみ同じ2年だったが、1つ上がってからは本来の年齢に合った6年に移動した。勉強に関しては元からヒヨリに教わっていたので問題はなかった。


そして以降他と同じ様に中学へ上がり、受験をしてこの桜塚さくらづか高校に入学した。叶は先に高校を卒業し、今は大学に通っている。


「3年も経てば、クラスメイトも慣れるからな」


最初こそ特別扱いは出ていた。けれど、小学の時も中学の時も、高校の時も時が経てばそれは消えて馴染める様になった。最初を思うと自分達をそうやって面白く捉えるのは本当に面白く、不思議だった。


「悪意とかはないし」


「そうだな」


朝陽と樹の競争騒ぎに関しても、悪意からではないから2人とも放置している。むしろその結果を楽しんでいる。


「今日もギリギリだったならタイム測定が在る筈だ。興味があるなら聞いておこうか?」


「別に良い。気になった時に2人に聞くし」


きっと速かった方はドヤ顔で勝った事を伝えて、負けた方はそんなドヤ顔をする方に喧嘩を吹っかけるだろう。先が容易に想像出来たので、アイーシャは少し笑みを浮かべた。そんなアイーシャを見て、魅影も笑みを浮かべる。


「明日の持ちこまれると大変だから、今日は仲介に入った方が良いか?」


「かもね。今日も喧嘩してると叶が怒りそうだし……」


「となると、帰るまでに収束させないとダメだな」


そんな事を話しているうちに歩く人が増え、同じ制服に身を包んだ者達が多くなってきた。学校まではもうそんなに距離は無いと言う所だ。


「アイーーシャーー!!!」


突然後ろから大声で呼ばれるがアイーシャは振り返らず、足を止めた。アイーシャが止まったので同じ様に止まった魅影が変わりに振り返ると、すぐ至近距離を1人の少女が駆け抜けアイーシャに勢いをころす事無く飛びついた。


勢いが良かったのでアイーシャは少し前のめりになるがそのまま倒れる事はなく踏みとどまり、飛びついた人物に顔を向ける。


「おはよう、のどか


それに抱きついた相手、のどかは人懐っこそうな笑みを見せる。


「おはようアイーシャ!! 魅影もおはよ!!」


茶髪のふわりとしたショートボブに、少しつり上がった目、そこにある瞳は活発さを体現したかのようにキラキラと輝いている。顔つきはアイーシャの様な可愛らしい女の子と言うより、何処かボーイッシュな感じだ。彼女は朝月和あさつきのどかと言い中学からの付き合いのあるアイーシャの親友である。


「おはよう」


「おぉ! ってか、昨日は大変だったな。怪我とかしてないか?」


体を離した和はアイーシャの全身を見る。其処にあるのは純粋な心配で、アイーシャは柔らかな笑みを浮かべた。


「大丈夫。昨日は難しくなかった」


「そうか!!」


嬉しそうな顔をする和。彼女は今時には珍しい程純粋な者であり、アイーシャと仲が良いのも私欲の為に利用する事がないからだ。契約者と言う身分を気にせずに、普通と同じ接し方をしてくれる。アイーシャを最優先として置かない、そしてその思考は時を得て形成されたモノでは無く最初からそうであった、だからアイーシャの親友として長く付き合っている。


「って、あたし課題終ってないんだった。じゃ、また後で」


そう言うなり和は駆け出し、その姿はすぐに見えなくなった。2人も歩く事を開始する。


「やっぱ和は元気だね」


「そうだな。確か今の所休んだ事ないんだったな」


「うん、中学から休んでない。ついでに怪我以外では保健室に行った事無いって」


「健康優良児だな」


和の健康ぶりは身体的に強固な契約者を越える程だ。どんな生活を送ってるんだろうか、規則正しいでも病気にかかる時はあるのだからこれは生活云々より本人の体が凄すぎるのではと本人がいない所で話しあっている内に学校についた。


4人が通う<桜塚高校>。<好きこそものの上手なれ>を信念で掲げており、合わせられる範囲で生徒に合わせてくれる高校である。そしてその結果が突出的に現れるので、其れなりに名の知れた高校でもある。


登校する生徒が一番多い時間なので人はかなりの数だ。すれ違い際に挨拶したり、そのまま話したりとしている者が多いため結構騒がしい。


2人はそんな中を進む。すると3人の男子生徒が駆け寄ってきた。


「おっす魅陰!! 朝陽と樹遅刻か!?」


「あぁ。恐らく遅刻寸前だ」


「OK! サンキューな!!」


「今日のタイマーに連絡しとけよ! チャイム5分前から測定すんぞー!!!」


「じゃ後でな! アイーシャちゃんも!」


そう言うと3人は走って行く。本当に測定しているんだとアイーシャが思っていると、小さく声が聞こえてきた。


「魅陰先輩と、アイーシャ先輩だ」


「やっぱ今日もカッコいいね魅陰先輩」


「アイーシャ先輩も可愛いね」


「アイーシャ先輩いいなーあんなカッコいい魅影さんと一緒なんて」


「朝日先輩や樹先輩もカッコいいよね。今日は遅刻かぁ」


「叶さんもカッコいいわ。滅多に見られないけど」


話しているのは1年生で聞こえない様に声を潜めている様だが、残念な事に2人の耳にはしっかりと聞こえている。

1年生はまだ契約者と言う存在に慣れておらずこういった事は結構あるのだ。下手に近くにいるとちょっとした夢を持ってしまったり、本来なら抱かない嫉妬を持ったりと。だが8月にもなれば契約者と言う存在慣れ改めて物事を考える様になるので、こういった事もなくなる。


そしてそれが判っているので、2人は視線を気にする事無く教室に向かった。


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