ある迷惑な顔をする職人の話
「いいか? 女ってのは魔物らしいぞ。ワガママ放題で欲望は果てしないもんなんだ」
小太りな男がそう熱弁する。
「えぇ~、そうっスか。それって結局は人によるんじゃないっスか? きっとマイハニーはそんなことないっスよ」
頭の軽そうな男が否定する。
「何で、わざわざこんなところにまで来てグチってるんだ。自分の家でやってくれ」
帰ってくれないものか? はっきり言って仕事の邪魔だ。今注文が立て込んでいて相手をするほど暇じゃないんだが。
まあ、立て込んでなくとも他人の愚痴なんて聞いていて気分の良い物ではない。
しかし、こちらの抗議はきれいに聞き流され、その後も男二人で漫才へと移行したお喋りを繰り広げている。
工房自体は広いのだが、作りかけの部品が積み重なって狭く感じる。そもそも、自分一人が仕事するための空間だから客を入れる想定はしていない。商談などの必要が生じた時は隣接している住居の方で行っている。
「黙ってないでお前も話に混ざれよ」
極力無視して、木片をヤスリで削っていると、馬鹿話に飽きたのか、小太りな男が話しかけてくる。
偉そうな口調であるこの小太りな男はこの地の領主だと言う。昔作った工芸品を見せたところ、気に入ったのか何度か訪れるようになった。
口調だけは偉そうだが、邪険にしても手を出してくることもない。部品を触る時も、一応気を使ってくれている。
これに比べれば時たま訪れるよっぽど街の商人の方が横柄だ。
そもそも、忙しいのは貴様が注文してるからだろ。
「えっ? そんなん知らん。そんなの作るの止めてもっと面白そうなモン作れよ」
そこの馬鹿が領主の名で注文書を持ってきたんだが? 何で発注主が知らないんだ?
最近作っているのは水を川からくみ上げる水車だ。粉をひく動力元となるタイプの水車は実績があるが、今回は新たに設計したものだ。
試行錯誤の上、十分の一サイズで模型を作り上げたので実寸サイズで作りなおしている最中だ。
部品も多いし、これだけ手間暇かけたのに「要りません」なんて言われたら泣けるぞ。
「それって奥様からの注文っスよ」
「はぁ? あの女の件ならオレの管外だ」
何だ? 知ってるじゃないか。言うとおり灌漑用の水車だ。
「何で水車が寒害の役に立つんっスか?」
ああ、馬鹿は灌漑の意味を知らないのか。後で自分で調べてくれ。
その後、小腹がすいたという領主の言葉にやっと静かになると思ったのだが・・・しょっ引かれた。
「イイじゃないっスか。きっと領主様が奢ってくれるっスよ。どうせ、一人暮らしでロクな物食べてないんじゃないっスか。
領主様! こいつが贔屓にしている可愛い子ちゃんの食堂に行くっスよ~」
下心があるような言い方は止せ。こんな他に店がない農村では選択肢がないだけだ。お前の下種な想像とは違うからな。
「またまた~。自炊せずにあの店に通うってことは、あの可愛い子ちゃん目当てっスよね。照れなくてイイっスよ」
だから違うと言ってるだろ。
「まさか!? おばちゃんの方っスか? いくら老け顔だからって熟女好きとは知らなかったっス」
そんな訳あるか! あと老け顔で悪かったな。周囲より大人びた顔なだけだ。
さて、着いて早々だが、何故か領主は店主のおばちゃんに連れてかれてしまった。
どう言う訳か厨房でこの馬鹿が可愛い子ちゃんと言っていた女給に料理を教える流れになっている。
何だろう。あれって本当に領主なのか? どう考えても偉い人に対するの扱いではない。
「止めさせた方が良いんじゃないのか」
下手すると彼女が無礼討ちとかされるんじゃないのか?
「領主様は料理大好きっスから気にすることないっス」
厨房から文句こそ聞こえてきたものの、確かに本人も断る様子はなかった。
しかし、他人事ながら心配になる。無礼討ちされるとかされないとか関係なく、領主への扱いがぞんざいすぎないか?
あれじゃ、領主の威厳も何もあったもんじゃない。
一応、この土地のトップのはずだろ。いや、もしかして・・・
「街ではちゃんとした扱いされているのか?」
「街でもおおむね、あの通りっスけど?」
何で不思議そうな顔してんだ。
「自分も手伝おうか?」
見かねて口を出したが、断られた。
「だから気にすることないって言ったじゃないっスか」
笑顔でドヤ顔するこいつは元から何もする気がないようだ。
食欲ないから、もう帰っていいか?




