領主を継いだので愚痴ってみた
「いいか? 女ってのは魔物らしいぞ。ワガママ放題で欲望は果てしないもんなんだ」
「えぇ~、そうっスか。それって結局は人によるんじゃないっスか? きっとマイハニーはそんなことないっスよ」
オレの言葉にバカが否定する。マイハニーって・・・あの変な女はむしろ積極的に言いそうだぞ?
あの女は以前はまともだったはずなのに。何が原因で狂っちまったんだろう。
屋敷の女共には言いたいことが盛りだくさんだ。
「・・・何で、わざわざこんなところにまで来てグチってるんだ。自分の家でやってくれ」
呆れたように家の主がつぶやいた。
馬鹿野郎! 屋敷でこんなこと喋ったら、レイさまを筆頭に女たちの耳に入るだろ?
いやっ、あの女だけならまだ良い。おばちゃんの耳に届いたら酷い目に合されるだろ。--こいつが。
「え~~!? 俺っスか? 何故っスか~」
「当然だ。主を庇うのは部下の役目だろ? 馬鹿なお前はオレの肉壁くらいしか使い道ないだろ」
「いやいや、俺って見かけ通り優秀っスよ! 今までだって役に・・・役に立ってたっスよ・・・ね?」
オレではなくもう一人の男に首を向ける。オレに確認しないってことは役に立たないって自覚してんじゃねえか!
「知らん」
そいつはうっとおしそうに突き放す。
オレも同意見なのだが、お前ら友達じゃないのか?
馬鹿はこの男とマブダチだって主張してたけど、どうやら一方通行の様だ。
この男は木工職人だ。おっさん顔で老けて見えるが、オレと同年代らしい。
少し前にこの馬鹿の紹介で知り合ったのだが、今日はそいつの工房に暇つぶしにやってきている。
倉庫のような建物の中に用途の分からない色々な部品や工具が所狭しと並んでいる。秘密基地みたいで面白い。
まあ、グチっていても仕方ない。どうせ改善されないんだろうしな。
興味の赴くままに工房の中を物色する。一応、壊したり位置を変えない様には気をつけている。
「何なんスか? このガラクタ群は?」
歯車のひとつを無造作に掴んで首をかしげる。
「お前には分からない価値があるんだよ」
職人がボソッと言うか、全くその通りだ。役に立つ立たないは関係ないんだよ。
こういうのは男心をくすぐるだろ。ロマンだよ。漢のロマン。・・・あっ、栗が食いたくなった。
小腹がすいたので、この職人が贔屓にしているという食堂に向かう。
ここの店主は以前屋敷に勤めていたおばちゃんズの一人だ。ガキどもが自分らで面倒を見られるようになったので暇を出した。その後、ヒマを持て余したので、食堂を始めたらしい。
食事時から外れた時間帯なので、オレ等の他に客がいなかった。
何を食うかな? 外食するのは久しぶりだ。自分で作った方が美味いのに、わざわざ美味くもない食い物を食べになんか出かけないからな。
しかし、屋敷へ戻るのは面倒だ。
「おばちゃん。何か旨そうなモノを適当に見繕ってくれ」
何が名物なのか分からないので適当に頼む。しかし、出てきたのは食い物ではなく言葉だった。
「坊ちゃん。どうせ、暇なんだろ? この娘に料理を教えてあげてくれよ」
「オレは仮にも客だぞ」
その前に領主だぞ。忘れてないよな?
「はいはい。分かってるって。食材は好きに使って良いからね」
そう言って引っ張り込まれる。レイさまより多分年下であろう娘が、この人誰です?って顔してるぞ。
「拒否権を申し出る」
「何だって?」
そのおばちゃんは包丁を手に持ったまま聞き返してくる。
危ないじゃないか。刃物をこっちに向けんなよ。
その包丁って、オレを脅すためじゃないよな? 単に道具を渡すだけだよな。
ナメやがって。いつか、ギャフンと言わせられたら・・・良いよな?
当然、文句は口に出さない。
ほら、やっぱり女ってワガママだろ。しかも女って年を取ると、おばちゃんていう無敵の超越人種にクラスアップするんだぞ。
領主たる者、下賤な領民の言葉に怒るなんて無駄な事はしないのだ。
で、この娘にだっけか? 何教えれば、良いんだ?
「ここで一番売れてる料理は何だ?」
「え~と、一番出るのは、青豆の塩茹でです」
てめえ、ナメてんのか? 何だよ、それ? 手抜き料理じゃねえか。
「領主様。グダグダしていないで、早く何か作って欲しいっス」
文句が聞こえたので厨房から顔を出すと、のんびり茶を飲んでいやがった。
お前ら、寛いでるんじゃねぇ! この馬鹿野郎ども!
「自分も手伝おうか?」
職人が殊勝に補助を申し出てきた。この殊勝さをお前も見習いやがれ。
しかし、元々小さな食堂なので厨房はスペースがない。おばちゃん、娘、オレの3人で一杯だ。狭いのが悪いんだ。
「坊ちゃんの屋敷みたいにデカくなくて悪かったね」
うん? 悪くないよ。アットホームで良いんじゃないかなぁ。
うるさい! この馬鹿。笑ってんじゃねえ。黙って待ってやがれ。




