ある第二夫人候補の話
ーー奥様に呼び出されました。
私は奥様付きの侍女のため、朝に顔を合わせます。その際に奥様のご予定を確認するので、いきなり呼び出されることはほとんどありません。
朝は何も言っていませんでした。
一体なんでしょう。何か失敗してしまったでしょうか。
呼び出される理由が思い当たりません。
部屋へ向かうと、仲の良い後輩の娘がちょうど出てきたところで、すれ違いざまに小声で「頑張って」と言ってくれました。
何を頑張るのでしょう。首をかしげながら部屋へ入ります。
奥様は興奮した様子で、領主様へ向けている思慕の情を聞いてきました。
とうとう領主様への秘めた想いを知られてしまいました。
「本当ですの?」
怒っていらっしゃるのか、さらに強い口調で追及してこられます。やはり愛する自分の夫を横恋慕されて、良い気はしないでしょう。
うつむいてしまいます。
恐々な口調になってしまいましたが、こうなっては隠さずに答えます。
「奥様のご存じのとおり、領主様のお優しい人柄に惹かれてしまいました」
「もちろん、気づいていましたわよ。繊細な話題なので口にしなかっただけですわよ」
以前から知られていたようです。さすが、慧眼な奥様です。
「貴女にはもっと素敵な殿方が現れると思いますが、後悔しませんか?」
叶わぬ恋でも後悔はありません。
「じゃあ、良いですわ。貴女を第二夫人に決めましたわ」
えぇっ!? そんな簡単でいいんですか・・・?
「やっぱり嫌かしら? でも、貴女くらいしか相応しい女性がいなくて」
奥様はそう言ってため息をつきますが、私を安心させるための方便でしょう。
そんなはずはありません。
優しい領主様にはもっと好意を寄せている女性がいる?・・・いたかな? いえ、いたはずです。
けれども、次に領主様と顔を合わせた時、どんな表情を浮かべれば良いのでしょう。平気な顔をしている自信がありません。
部屋を出た後、うんうん唸って悩みます。
そもそも、第二夫人って具体的にどうすればよいのでしょう。奥様のような行いをすればよいのでしょうか。
ーー無理です。自信がありません。
旦那様に対してはしばらくは直接顔を合わせない仕事をするしかありません。他の娘にお願いすれば難しくはありません。
第二夫人としての振る舞いは・・・追々です。今日明日と言うお話ではないでしょう。
そう考えれば、 幸いにして猶予期間があるはずです。
少し落ち着いて考えをまとめましょう。
考え事をしながら歩いていたのが悪かったのでしょう。前から来た人にぶつかりそうになってしまいました。幸い衝突は防げましたが、不注意で前を見ていなかった私が悪いのです。
しかし、その人は「申し訳ありません」と、謝ろうとする間もなくつかみ掛かってきます。
「おい、お前。オレのことどう思ってる? 嫌ってないよな? 好きだよな!」
当の本人である領主様が何故か詰め寄ってきます。
何故ここに?
心の準備ができていないのに、直球な質問です。
ーー思わず逃げてしまいました。
何故先程の奥様とのお話を知っているのでしょう。
いえ、思いつきで急に決まることなんてありません。きっと既にご夫婦で事前に示し合わせていたのでしょう。
だからといって、面と向かって好意を伝えられる心構えはついていません。もう少しお時間を頂かないと無理です!




