候補者選び
旦那様の好みはわたくしのような女性ということが判明しました。まあ、少しくらいはお世辞が混じっているかもしれませんが、そう外れていることもないでしょう。
自分の容姿を評価するのは恥ずかしいですが、客観的に見て不美人ではない、と思います。けれど、わたくしよりも屋敷で働いている女の子たちの方がもっと可愛らしくて、モテそうです。
つまるところ、自分のことをグイグイ引っ張っていってくれる自立した女性が好きなのでしょう。
古くからお屋敷で旦那様のお世話をしていたという女性も正にこのタイプに当てはまります。
殿方はすべからくマザコンだと小耳にはさんだこともあります。やはり、幼い頃から慣れ親しんだ身近な女性が好きになってしまうのでしょう。
しかしながら、そんな女性が身近にいるかしら? 心当たりは残念ながらほとんどいません。
試しに、ダメ元で屋敷のお年頃な娘たちにそれとなく探りを入れてみます。
今すぐお相手を決めなければならない、という訳でもありませんので目星だけつけておきましょう。
丁度、当たらずとも遠からずな気質の娘が仕事の報告に来ていたので、合間を見計らって世間話がてら聞いてみます。
そろそろお年頃ですけれど、その、結婚とか考えていないのかしら?
「はぁ? アイツとはそんなんじゃないです。単なる下働きですからね」
いえ、お相手が誰とまでは尋ねていないのですけれど? 下働きって、噂の幼馴染みの彼のこと?
「だから、カレじゃないです!」
じゃあ、別の人なら如何かしら?
「いえいえ。今は仕事に専念しているので結婚なんて考えていません」
そんなに力強く否定しなくても良いですわ。
元々望み薄なのは分かっていましたわよ。
旦那様のお菓子が大好きな娘に水を向けてみます。
「奥様を押しのけるなんて!? とても、とても無理です」
大げさな程、首を振ります。
そこまで言っていないのですけど?
更には洗濯かごを抱えてちょうど通りがかった娘にも聞いてみます。
「先輩に悪いので、ちょと・・・」
目ぼしい娘は誰も色好い返答はもらえません。
旦那様は、悪い人ではないはずなのですけれども・・・何故人望が無いのでしょう?
皆楽しそうに仕事しているように見えましたが、実は嫌々仕えていたのでしょうか。
ある幼馴染みな男女の会話
「以前、領主様を籠絡すれば好き勝手できそう、って言ってたじゃないか?」
「バカね。第二夫人以下なんて何の権力もないじゃない。結婚する前なら、それもアリだったけれど・・・。今籠絡に成功しても、確実に奥様に抑えつけられるのは確実でしょ。労力のムダよ」
「ふ~ん」
「それだけよっ。他意はないんだからね。・・・何よ、その顔は? ぶん殴るわよ」
「あ痛っ。もうぶん殴ってるじゃないか。その顔って、オイラいつもの顔だよ」
「うるさいわねっ! ムカついたのよ」




