失考
部屋で決済書類の確認を終え、顔を上げると、賑やかな声が聞こえてきました。気がつくと既に食事の時間の様です。
旦那様は隣村へ出かけていて不在です。
「何かあったのかしら?」
ひとりごちて、食堂となっている部屋へ入ります。
騒ぎの中心にひとりの女の子を見つけます。いえ、既婚ですから女の子という呼び方は不適かもしれません。
でも、何でここに居ますの!?
居るはずのない人間を目にしてしまったため思わず、天を仰ぎます。しかし、そこに見えたのは木の枠組みの天井のみです。
・・・・・
見間違いを祈念して、もう一度その女性を見つめ直しますが、祈りは届かなかったようです。
「何なんですの? 貴女は」
王都にいるはずでしょ? 貴女の義姉から、そう聞いていましたわよ。
まあ、ここにいるのは百歩譲って、・・・いえっ。やっぱり譲りたくないですわ。しかも、何で皆に混じって食事しているの!?
ここは既に貴方のいる場所ではないですわよ。
ーーまさか、もう離縁されたの!?
まだ新婚ほやほやと言っても良いくらいなのに・・・何故?
「奥様~。手を貸して」
わたくしの戸惑いに気づいていないのか、能天気な声を上げます。
何を口走っていますの!?
手を貸すって、離婚した夫への復讐には手を貸しませんわよ。
そ・れ・よ・り! 本当の本当に離婚したんですの!?
詳細を聞くために急いで皆から隔離し、自分の部屋に連れ込みます。
「ちょっ! 奥様、頭イタイ!」
ええ、貴女は頭イタイ女ですわ。
やっと、落ち着いて話しできますわね。
「オッホン。一体何があったの? いえ、言いたくないのなら、言わなくても良いですわ。貴女にも言いたくないこともあるでしょう」
まず、肝心なことから確認しますわよ。
ズバリ、貴女離婚した・・・の?
「えっ? してないよ」
どうやら、幸いにして離縁されてはいないようです。ほっと胸を撫で下ろしましたが、彼女の性格では今後その可能性が無いとは言えません。
ここは賢妻としての心構えを年長者として諭してあげて、より良い方向に導いてあげなくてはなりませんわね。
まず、第一に不出来な旦那様でも耐えなければなりませんわよ。どんな方でも良い所の一つくらいはあるはずです。
少し付き合ったくらいで全てを知ったつもりになってはいけませんわよ。
自分の夫と仲良くするためには相互理解が重要ですわよ。
自分で言うのも少々恥ずかしいですが、わたくし夫婦は巷で言うラブラブ夫婦と言っても過言ではありません。
まあ、旦那様がわたくしにベタ惚れなのですから、わたくしがつれない態度をしない限り不仲になりようがありません。
それを踏まえて、訊きますわよ。
何でここに居たんですの? 貴方の夫はどうしたんですの?
いえ。余計な事は何も言わなくて良いですわ。わたくしが聞いたことのみ答えなさい。
彼女は恐る恐る答えます。
「う~ん。何か、あたし、誤解されてるみたいなんだよね。どうしよう、奥様」
貴方も既に奥様でしょ。
聞いてみると、彼女の夫は王都へ居を構え、彼女のみ領地へやってきたそうです。
これはきっと態の良い、厄介払いに違いありません。
「えっ? 細マッチョは好きにしてイイって言ったよ?」
新婚の新妻を遠くにやる男性がどこにいるでしょうか。いいえ、いるはずありません。
世間体を気にするばかりに、愛のない仮面夫婦を演じる方々なんて物語の中だけだと思っていましたが、こんな所にいるなんて!?
恐ろしいですわね。
「それでね。奥様にあっちの領地運営を手伝って欲しいんだけど?」
嫌ですわよ。わたくしだって予定というものがあります。
「え~~っ。あたし、領地を切り回す方法なんて分からないんだよ。イイじゃん」
それに他人様の領地まで口を出すなんて越権行為ですわよ。
「細マッチョのせいで、何故かあたし大変なんだよ。失敗できない雰囲気になっちゃって」
彼女はそう不満を熱弁します。
夫のせいで、失敗できない?
別居している夫を見返すために、領地を繁盛させるるもりなの?
見かけによらず、健気な一面もあるのですね。平気な振りで強がっていたのですね。
「へっ? そんなことは・・・いいや、それで。 だから、どうか、お願いですから面倒見てください」
土下座でもせんばかりの勢いです。
はぁ~。分かりましたわ。そこまで懇願されては是非もありません。
手が空いたらお手伝いしてあげますわ。
「ありがとう! さすが、奥様。来るとき見たんだけど、店番してるあの子なんかヒマそうじゃん。あの子賢いからちょうだいよ。あっ、セットのウルサイ娘はいらないよ」
さっきまで下手な態度だったのに、一転図々しいですわね。




