ある新妻の話
あれ? なんで? いつの間に、あたし細マッチョと結婚したんだろ?
「今頃気づいたのですか? この鈍感娘は」
姐様が呆れたように言うけれど、何でこんなことになったの?
驚くべきことに細マッチョが領主を継ぐ式典だと思ってたのが結婚式だったようだ。
何て巧妙なワナなんだろう!? さすがのあたしも全く気付かなかった。恐ろしい。母様と姐様にハメられた。
「ハメるのはあなたの方なんですけどね」
??? どういう意味?
あたしの疑問を無視して姐様は言葉を続ける。
「地元ではあなたのアホぶりが露見してしまっているので、嫁の成り手がないんですよ。今回、お義父様の妄言を鵜呑みにした脳筋に押し付けられて、お義母さま共々胸を撫で下ろしているんですからね。くれぐれも、猫をかぶって本性が勘付かれない様に気をつけなさい」
え~~っ。あたしの勇敢さはもうバレてるけど?
「あなたのアホさ加減に決まってるでしょ」
え~。決まってるの? あたしそんなにアホじゃないよ。特別賢いとまでは言わないけど、平均くらいらいだよ。
結婚祝いとして、一杯豪華な服をもらったけど、こんなのもらうんだったら剣の一振りでももらった方がうれしいよね。
こんなの売り払うしか使い道ないよ。
「それらを売るなんて馬鹿なことは考えてないですよね?」
何でバレたんだろ?
「いえいえ。みんなからの祝いの品を売っちゃうなんて、そんなこと考えもしなかったよ」
怒られそうな雰囲気なので、きちんと否定しておく。
「言っておきますが、お嬢様に贈られたものと同様にああいう贈答品の服には家紋の透かしが入っています。光に透かさないと気がつきにくいですが、あの類を変なところに売るとマズイ事になりますからね」
そうなの!? 知らなかったよ。でも、まだ売ってないからセーフだ。
「嫌だなぁ、姐様。あたしがそんなことする訳ないよ。カワイイ義妹を信じられないの?」
「あなたはお義父様から頂いた短剣の前科がありますからね」
あの時はあの時。フツーの短剣なのに飾りひとつ付いただけで、そんな重要なモノだったなんて思わないって。父様が教えてくれなかったのが悪いんだよ。
寝たら悪夢を見るくらいこんこんと道具の取り扱いについて姐様に説教された。
また蒸し返すの? 過ぎたことは忘れようよ。今度は大丈夫だよ、ホントに。
王都での生活は相変わらず、面白くない。王都に住んでいる奥様方にお茶会なんかに誘われるけど、どこが面白いんだろ?
話題は知らない人の悪口と噂話だよ。笑いを取ろうとして、小っちゃい頃修練時に血まみれになった話をしてたら、ロコツに遮られて話題転換された。
一緒に付き合てくれた姐様にお尻をつねられなかったら、寝てたね。
結婚相手である細マッチョはスッゴイ強い。付き合ってみると、武芸に関しては色々知ってるので話は合う。
兄様と親友だっていってるけど、兄様の口から今まで細マッチョの話を聞いたことはない。知り合いではあるんだろうけど、親友ってのは思い込みだと思う。
彼は王都で軍の仕事に就いていて、生活基盤もこっちなんだって。こんなんが出世頭だっていうんだから世も末だね。
軍の訓練に連れて行ってもらいたいとお願いしたんだけど、ダメだって。
そもそも女性で軍役に就いてる人がほとんどいないらしい。いるのは偉い人にコネがある女性だけだって。だから訓練に混じることはNGだって諭された。細マッチョはあたしを軍にねじ込むほどは偉くないらしい。
致し方ないので屋敷にいる人たちと訓練しようとしたけど、あたしにケガさせるのが怖いからって、彼らは模擬戦に付き合ってくれない。なので最近は庭で自主練しかできてない。
ずっと待ってるのに、未だに武闘会出場の案内状来てないし・・・ いつ来るんだろ?
あぁ~。王都って、都会だけどつまんない所なんだなぁ。




