ある自信過剰な女の子の話
ある日、奥様が凄い形相で帰ってきた。みんな怖がって遠巻きに見ていたので、私が率先して出迎える。こういう時に出迎えてこそ取り入るためには重要だ。
「どうしました? 奥様怖い顔をして? 怒ってませんか?」
努めて心配げな表情を出して聞いてみる。この人って、目がつり上がって怖げな雰囲気を醸し出しているけれど、実際は見た目ほど怖くない。
「何でもないですわ」
案の定、私に怒りをぶつけることもない。さらには、魅力的な提案をしてきた。
「今度からの売買をやってもみようと思うのだけれど、どうかしら? 商売とか興味ある子いるかしら?」
あの商店を潰すんですね。分かります。
あそこの店主って買い物に行くと、上から目線で気に食わなかったんだよね。他に大きな店が無いからって殿様商売してるんだよね。
「いいですね。私やってみたいです!」
一番最初に私に腹案を告げるってことは、もちろん私ご指名ですね。奥様の期待通り、いの一番に名乗りを上げる。
毎日畑の周りを歩き回って土にまみれて仕事するなんてあたしのガラじゃない。
もっとスタイリッシュな仕事がしてみたい。
こういう仕事の方があたし好みだ。
「何時からですか? 明日からですか?」
見てなさい。あの店主なんてけちょんけちょんにしてあげるからね!
更にある時、奥様がまるでお姫さまみたいな一日を過ごさせてくれるってことになった。その出来事に屋敷の女の子たちが色めき立つ。
私としては綺麗な格好をするのが嫌いじゃないけれど、毎日着たいとは思わない。『過ぎたるは及ばざるがごとし』って言うでしょ。
みんなはキャーキャー言っていたけど過剰なオシャレしようとは思わない。
ただし、優秀な娘が優遇されるっていうのなら、その娘は私に決まっている。
懸念を一つ言えば、下僕がボンクラで使えないってことくらい。
三角測量の説明をした時だって、イマイチ理解していないっぽかった。もう、単純作業だけをしてなさいよ。
私だから仕方なく使ってあげてるけれど、他の人だったら見捨ててるわよ。
けれども、それにめげずに本気を出せば、当然の様に連続で奥様に賞される。私の優秀さなら当然ね。
同僚や先輩たちにかしずかれるのも、偶には良い経験ね。
さすがに口には出さないけれど、アンタら、自分の身の丈を知りなさいよ。頭一つ抜き出た私の有能さは追随を許さない。
ぶっちゃけ、もうちょっと経験を積めば奥様だって越えちゃうんじゃない?
だが、優秀過ぎるのがアダになってしまった。他の子たちの妬みを受けてしまう。そのため、奥様は私のへのサービスを中止するという。
「え~、せっかくあたし頑張ったのに」
ちょっと拗ねて文句を言えば、その服をくれるという。
大盤振る舞いじゃない? その服っていくらするんだろ? 絶対滅茶苦茶高いわよね。もしかして、奥様ってチョロイいかも?
どれでも良いと言われて、私が選んだのはシンプルな服だ。
だって、一点ものの服なんか転売したときにバレバレでしょ。後生大事に持っているつもりも無く、転売する気満々だ。
もし、こんな小娘が貴族が着るような豪華な服を下手なところに下取りに出したとしたら、怪しまれて売ることができないと思う。
それに、どこにでもあるようなデザインじゃないと売った時足がつくんだよね。
正直、もらった物をどうしようと私の勝手なはずだけど、売り払ったら印象は良くない。
商業に携わるなら今後王都に行く機会もあるだろう。その時転売てやるんだからね。
気分が良くなったので下僕に見せびらかす。
「どう? 綺麗でしょ」
「うん。綺麗だ」
その感想に気を良くする。コイツにも分かるくらい上等な生地を使っているようだ。
あ~、今から楽しみ!




