領主を継いだので噂話に耳を傾けてみた
ムカつく商店だが、最近の噂だと経営が桃色吐息? 青息吐息だっけ? ・・・まあ、そんな感じらしい。
オレがちょっと文句を言っただけなのに、レイさまは店をぶっ潰すために暗躍しているっぽい。
まあ、主な取引先ってオレんトコロだったんだから、取引をストップして、切られたら窮するのは当然だ。しかも、新たに店を起ち上げて商売敵になったっていうんだから恐れ入る。
オレには絶対真似できない。
恐ろしい女だ。ーーまさに鬼の所業。
他にも色々しているらしいが、スルーしておく。深入りするとヤケドしそうだ。
オレも、より一層逆らわないように気をつけよう。自分の身が可愛いからな。
弱点を探るのは、諦めた。・・・怖いからな!
しかし、オレの地位はもうちょっと向上しても良いと思うんだよ。嫌々ながらも結構働いてる気がするんだよ。
この間だって・・・
「可愛らしい女の子を追っかけるお暇があるようですし、当然これくらいは朝飯前ですわよね」
レイさまはにこやかに一枚の書類を渡してきた。
何コレ? 何か、凄く細かい数字がびっしり書かれてるんだけど?
「あら? 少なかったかしら?」
さらに紙束を積み上げてくる。
この計算をしやがれ、と?
笑ってるのに、滅茶苦茶威圧を感じるんですけどぉ!? これが殺気ってやつなのか!?
一体、何をお怒りになっていらっしゃるんでしょうか?
その発言の原因に全くこれっぽっちも身に覚えがないんだけどぉ?
レイさまを始め、皆オレのこともっと甘やかしても罰は当たんないと思う。
しかし、現実は非情だ。どうも、あの女が何かやるに従って、屋敷内でのオレの株が相対的に下がっている気がする。
当のレイさまは最近村を回ってなんかやっているらしい。
鬼の居ぬ間に何とかしたい。渡された計算書はまだ終わる気配はないけどなっ。
「領主様、そういう時は気晴らしをするといいっス。屋敷の女の子とイチャつくなんてどうっスか?」
何で、お前は最近浮気を勧めるんだよ? そんなに良いモノなら、まずお前がやれよ。人間関係がガタガタになるから、オレは嫌だぞ。
「残念ながら、俺には既に心に決めたマイハニーがいるっス」
時々やけにテンションの高く突撃している変な娘のことか? 普通の時は普通なのに、どこにスイッチがあるのか不明だ。
あんな変な奴の何処がいいのかサッパリ分からん。
っていうか、心に決めた奴以外とイチャつくから浮気なんじゃないのか?
そいつも含めてせっかく、せっかく食い物を恵んでやってオレの忠実な手駒になるように洗脳してやっはずたのに、レイさま恐怖政治により上書きされてしまっている。
どうにか、オレ派へ再洗脳できないものだろうか?
「何スか? 領主様。自分の評判が気になるお年頃っスか? 俺に任せるっス」
「デキる自立した女って感じでカッコイイよね。美人だし」
「えぇ~、奥様って冷たそうじゃない?」
「そんなことないよ。この間、頭撫でてくれたよ~」
「わたしは、その、・・・」
「先輩には聞かないよ。どうせ、領主様一択でしょ」
「いえ、お二人ともそれぞれ素晴らしいと思います」
「えぇ~、領主様って最近お菓子作ってくれないじゃん」
「あ~。確かに」
「あたし、甘~い焼き菓子が食べたい」
三人寄れば姦しいというが、それ以上の下女たちが集まっておしゃべいをしている。
何でこんな盗み聞きスポット知ってんだ? このヘンタイは。
あいつら、言いたいこと好き勝手に言ってやがんな。それにしても、卑しい奴らだ。
菓子を作ってないのはレイさまが仕事を押し付けてくるからだ。納得いかん! 異議を申し立て・・・られないよな。盗み聞きしている立場だし。
「奥様って必死すぎて、空回りしてる時ない? 自分が美人なのを鼻にかけている感じだし~」
「こんな田舎領地頑張ったって、たかが知れてるのに必死になって、バカみたい」
あの女が貶されているのは願ったりかなったりのはずだが、ちょっとムカつく。あの女が何と言われようと、オレには関係ないもんな。
いや、ムカつくのは朝食を食い過ぎたせいなだけかもしれないなぁ、うん。
「奥様カッコいいじゃない。剣でビシッと凄いんだよ」
「アンタ、どっから入って来るのよ!? それとその格好! 下着が見えちゃうでしょ!!」
「大丈夫? 万一見えたとしても、たぶん・・・大丈夫」
「服も汚れるでしょ。それに破れたらどうするの!?」
「え? 服なんて洗えばいいでしょ。(あたし以外の人が)破れたら縫えばいいだけでしょ。何で目くじら立ててんの?」
「奥様のお気に入りだからって生意気じゃない」
「何? やる気? 力ずくなら相手になるわよ」
「ちょっ、ヤメなさいよ」
「領主様。女の子に夢を見るのはイケないことっスか」
何でお前が悲しそうなんだよ?
陰口を叩いている女の子は屋敷のちょっと気になっている男の子達がレイさまを誉めているので、面白くないだけです。本心で馬鹿にしている訳ではありません。
なお、レイさまのお怒りの原因は、ある女の子が有る事無い事吹き込んだためです。




