領主を継いだので手料理を食べてみた
「わたくしの手料理が食べてみたいですって?」
唐突なオレの策略にきょとんとするレイさま。
企みがバレないよう、慌てて褒め言葉で言いつくろう。
「いや~、美人な妻の手料理を食べるってのは男の夢の一つだからなぁ~」
「まあ、そこまで言うのなら、作って差し上げるのはやぶさかではありませんわ」
我ながら白々しいセリフだったが、効果はあったようだ。
心なし、機嫌が良さそうに厨房に向かって行くレイさま。ニヤリを笑みを浮かべるオレ。
ーー引っかかったな。出来上がった無様な料理を思いっきりこきおろしてやるぜ!
「坊ちゃん。お嫁さんの料理が食べたいなんて、仲が良くて何よりさね」
レイさまに怒られない程度に仕事していると、何故かニヤついたおばちゃんが背後からボソッと声を掛けてきた。
何で知ってるんだよ?
「そりゃ、お嫁さんがひとり厨房に籠って、うんうん唸ってるんだから気になるさね。でも、実のところお嫁さんお料理の腕はどうなんだい?」
知らん。でも、今まで披露してないってことは上手いとは思えない。。自信があれば今までに自慢してきてるだろ。
「でも、坊ちゃんがあそこまで言ったからには、どんな不味い料理が出てきても完食しなければ駄目だよ。男の見せ所だよ。しっかりやんな」
・・・それは考えていなかった。どうしよう?
って、『あそこまで言ったからには』って、おばちゃん。・・・いつから見てたんだよ?
◇◇◇◇◇
「お待たせしましたわ」
内心戦々恐々としていると、下女とレイさまが大皿を持って登場した。
「ここの厨房で料理するなんて初めてですから、お口に合うかどうか分かりませんが、ご賞味ください」
笑みを浮かべている。これって、一体どっちなんだ?
料理を持ってきた下女にこっそり聞いてみる。
「お前も手伝ったんだよな。味見はちゃんとしてるんだよな? 美味いか?」
「いいえ。奥様がおひとりで作るとおっしゃったので、手を出しませんでした。私は見ていただけですので、ご自分で味わってみてください」
煮込み料理のようだが、汁が煮詰まって少ない。
茶色い汁に芋、人参、玉葱、豚肉、茹で玉子が入っている。大きさも均一で煮崩れもしていない。醤油ベースに味醂と砂糖か?
匂いはで美味そうだ。しかし、重要なのは実際口にする味だ。
恐る恐る口に含む。
食材が生煮えということもない。芋はほっこりとした食感で、人参は噛むたびに甘みが広がる。
「・・・まあまあの味だな」
特別、滅茶苦茶、美味い訳じゃないけれど、充分合格点だ。手お書の予定通り、これを不味いとこき下ろしたら、オレの味覚が疑われてしまう。
何故だ?
くそっ! 凶暴な女は料理が苦手ってのが定番じゃないのか?
もしかして花嫁修業とかで、実家で良く作ってたとか?
「野外で飯盒炊爨みたいな料理はよくやりましたが、家で料理したことは数えるほどしかないですわね」
軍事演習に同行する際の料理は自分でするらしい。軍事演習に同行する令嬢ってのもすごいが、自分で料理するのかよ!
「お父様も料理しますわよ。兵を預かる者にとって、兵糧の調達は欠かすことのできない必至条件ですわよ。現地調達の必要ない分、家での料理は楽なものですわよ?」
あのマッチョなお前の親父も料理すんのかよ!? マジで? 意外な事実だ。
「奥様、包丁捌きがすごいんですよ。大きなお芋をスパンスパンと小気味良く切っちゃうんです」
下女が嬉しそうに報告してくる。だがしかし、どうでも良い。
この女の弱点を、弱味を誰か教えてくれ!!!




