領主を継いだので二人の夜を過ごしてみた
「旦那様、よろしいかしら?」
そう言って夜に訪ねてきたのはレイさまだった。
妻が夫の部屋に訪れるなんて、特別驚くべきことじゃないかも知れないが思いっきりビビる。
兵士に喋ったその日に来るなんて、タイミングが良すぎるぞ。
まさか、あの下女が恥ずかしい話を報告しやがったのか!? ならば、死ねるぞ。・・・精神的に。
寝転がって本を読んでいたが、即座に立ち上がって本を布団の下に仕舞い込む。
この本は兵士が置いてった女性の機嫌をとる方法、ナンパ指南書だ。本当は全く興味はないのだが、せっかく持ってきたのだし、申し訳程度に流し読みしていただけだ。でも、間違っても見せる訳にはいかない。
恐る恐る戸を開けると、もう夜なのに何処かに外出するつもりなのか、きっちりと服を着こんでいる。化粧もバッチリめかし込んで綺麗な格好をしている。少なくとも、これから寝ようという雰囲気は全くない。
布団の方を見てきたので視線をシャットダウンする。とりあえず、卓子へ誘導して自分も向かいに座る。
ーー卓子をはさんで向かい合い、無言で見つめ合う。
・・・何これ?
そっちから訪ねてきたくせに用件をちっとも言ってこない。何か後ろ手に持っている様だが、それも出してこない。
夜遊びにでも誘うつもりか? だが、こんな田舎では夜中に行くところも無いはず・・・だよな。
オレも男だし、一応、ちょっとだけ、期待しちゃったんだけど、それは絶対なさそう。
こっちを親の仇の様ににらみつけてくる。そこには新婚の甘い雰囲気は全くない。ガッカリなんてしてないけどなっ。
めっちゃ怒られそうなんだけど・・・ 何のことで怒られるんだろ? 思い当たる節は、無い事も無い。
「・・・寝物語でも一緒にどうかしら」
しばらくにらみ合いを続けると、根負けしたように分厚い本を差し出してくる。
その本は軍記物と呼ばれ、一応物語のジャンルに分類されているが、実際は古来から兵法を勉強する時に使う専門書だ。オレでも題名くらいは聞いたことがある有名書だ。
その本を用いて、何故か戦術勉強会が始まった? 何でこんな事やらされてんの?
「ほら、よそ見をしない。ちゃんと聞いていますの?」
いや、聞いてますよ? 疑問になんか思ってませんよ?
素直に聞いておく。だって、ヘタに反論したら怒られそうだもん。
しかし、何で昔の偉い人の本て回りくどい書きっぷりなのかね? もっと簡潔で分かりやすく書いてくれればいいのに。
大層な言い回しじゃないと、ありがたみが感じられないからか?
後の人のことを考えて書いてくれれば良いのに。
序章の部分を一通り説明すると、満足して帰って行った。
「それではまた明日」
念を押すように一言添えて。
また明日もやらされるのか!?
お前みたいな剣術のけの字も知らないボンクラは、せめて戦術くらいはしっかり勉強しやがれ!ってことか? 面倒なっ。
は~~、仕方ない。怒られない程度に勉強しとくか。
どうせやらなきゃならないなら、後で楽なように要点を纏めておくか。
夜の勉強会を経てラブコメ?展開になりますが、例によってスキップです。
次世代へ命を繋ぐ尊さ、そして貴族世継ぎが必要な理由について詳細なレポートに記した上で、レイさまによる二人っきりの夜通しプレゼン大会が開催される。
「さあ、その、・・・しますわよ」
「こんな雰囲気で出来るか!!」
痺れを切らしたレイさまに襲われる。ーーが、途中で恥ずかしくなったレイさまは腹パンチを食らわせ、逃走。
覚悟を決めたレイさま。仁王立ちでこっちを睨みつけてくる。
服装だけは扇情的だが、甘い雰囲気は全く感じられない。
「さあ、覚悟は決まりましたわ。その劣情をぶつけなさい!?」
ーーちょっとでも変な事したら、叩き潰されそうだ。
こんな紆余曲折を経て、夫婦の営みへ至ったはずです。




