新妻の黄昏
鍛錬が終わり、女の子たちの様子を見に行くと、旦那様が料理を教えていました。
彼は料理が趣味だそうですが、その腕前は料理人も裸足で逃げ出すほどです。結婚式で提供された料理も旦那様お手製だったそうです。
今は真剣な顔つきで料理に打ち込んでいます。
侍女長は旦那様のことを怠け者と言っていましたが、毎日領主自ら街の見回りに出て精力的に働いているようです。謙遜して厳しめの評価を下されてしまうのでしょう。
今日は料理ですが、日替わりで侍女長がお裁縫や家事を教えていることもあるようです。
また男の子たちと一緒に勉学や礼儀作法も学んでいるようで、将来の領地経営の中核をなす人材育成に余念がありません。わたくしの実家と違って歴史の浅い旦那様は古来からの家臣団が少ないから大変です。
先のわたくしの連れてきた若者を登用しすれば即戦力として苦労はなかったはずです。ですが、まあ、長期的に見て地元出身者の子飼いで固めるのも悪くはないはずです。
さて、わたくしも旦那様に負けないように頑張りますわよ。
順調な生活ですが、ひとつ懸念があります。
いつまでたっても、旦那様からのお召しはありません。
きっと、旦那様も恥ずかしがっているのでしょう。正直申しまして、・・・モテそうになさそうだから経験も無いことでしょう。
わたくしも無いですけれど、それはこの際置いておきましょう。
躊躇いはありますが、女は度胸ですわ。
わたくしの方が一応年上ですし。気合を入れてわたくしの方から旦那様の部屋に伺います。結婚前に侍女が選んだ勝負服とやらを着たのでバッチリなはずです。
「旦那様、よろしいかしら?」
本来なら、スィを通して先触れをやるのが正式なのでしょうがあえて無視します。
これから、その・・・「致しに参りますわよ」って知らせるのも如何なんですの? あの娘に言わせるの? どんなセクハラですの?
わたくしもスィも旦那様も絶対気まずい思いしますわよ。
旦那様は布団の上に寝転がり何かの本を読んでいたようですが、それを脇りにやってわたくしを迎え入れてくれます。
日が落ちてからも勉強しているなんて、努力家ですのね。
布団から離れ、卓子の前を勧めてきました。旦那様はその向かいに座ります。
「・・・別に、布団の上でも宜しくってよ」
「いや、親しき仲にも礼儀ありと言うし、妻とは云え、そんな失礼なことはしないよ? で、用件は何かな~?」
用件なんて・・・決まっているに決まってますわ。簡単に推し量れるでしょう。
勢い込んでやってきましたが、わたくしから誘うなんてはしたないことは出来ません。
緊張しながら卓子をはさんで向かい合います。
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何でわたくしの用件に気づかないんですの? 殿方であるそっちが察しなさい。
けれども、そういう雰囲気を切り出す様子はありません。全く、察しの悪い旦那様ですわね。
でも、ずっと無言でいる訳にも行きません。致し方ないですわね。
「・・・寝物語でも一緒にどうかしら」
一応、誰かに見つかった時の言い訳用に持ってきた読み物を見せます。
旦那様も緊張しているようですし、これを一緒に読んで緊張をほぐして、それで・・・、いい雰囲気となったところで旦那様にリードしてもらいましょう。
持ってきたのは地元の男の子たちに人気だった戦術指南にも使われる由緒正しい軍記物です。旦那様もきっと気に入るでしょう。
「旦那様はこちらを読んだことあるかしら?」
わたくしの言葉に首を振りますが、この読み物を食い入るように見てきます。
旦那様も男の子ですわね。いい喰い付きっぷりです。
適当に持ってきたこのチョイスですが、彼との仲を進展させるためにも二人で一つの本を読むのは良いアイデアかもしれません。
わたくしが解説を交えて読んでいると、旦那様は興味津々でわたくしの話を聞いてくれます。
ついつい話が弾んでしまい、そういう雰囲気になる期を逸してしまいました。
でも、まあ、明日もありますし、問題ありませんわよね。仲はぐんと深まったはずですし、眠くなってしまったので部屋に帰ります。
「それではまた明日」
手ごたえを感じて、笑みが浮かびます。
ちなみに、レイさまは早寝早起きです。




