ある意気消沈した侍女の話
「おはようございます」
朝、日の出と共に私が奥様のお部屋を起こしに訪れると、きっちり身だしなみを整えて待っていらっしゃいます。
私を見た奥様は咎めるような鋭い目つきでこちらに目を向けてきます。
「自分で準備しますから、わたくしに付き合わず、ゆっくり寝ていても構いませんわよ」
そう奥様は言いますが、そういう訳にはいかないと思います。
数日前に屋敷の女の子皆で色々な試験を受けさせられました。その結果、何故かこうして私が奥様付きの侍女に選ばれました。
勉学も後から屋敷にやってきた子にも追い抜かれてしまいましたし、誇れるような特技もありません。他に優秀な子がいたのに、何故私に決まったのでしょう。
お付きの侍女を選考し、私に決めたという女性は結婚式の後、奥様の実家へ帰ってしまいましたし、考えても分かりません。
平凡な私は自分にできる精一杯を愚直にやるしかありません。
こんな朝早くからでも奥様は目がパッチリ開き、眠そうな様子はありません。顔もハッキリした目鼻立ちですで、とても美人なのですが、目じりがつり上がった鋭い目つきで、一見冷たそうな印象を受けます。
それに奥様は背も高いので、人柄を知るまでは勝手に怖いイメージを抱いていました。
昔の経験から、貴族のお嬢さまは全て傲慢でワガママだと信じていた時期もありました。けれど、それは一部を見て全てを知ったつもりになっていただけでした。
奥様は小さい子とお話しする際は腰をかがめて目線を合わせてくださりますし、みんなに優しい言葉をかけてくださいます。こんな立派なご令嬢もいるのだと、目からウロコが落ちる思いです。
私のことは『スィ』と愛称で呼んで下さいます。
朝から剣術の訓練のために早起きし、朝食後は屋敷の子たちの勉強等を看てくださいます。領主様のお仕事も手伝うそうです。
ご家族から離れ、ひとりでお嫁さんに来られて大変なはずなのに、全くそれを感じさせず、精力的に行動されています。働き者の素晴らしい奥様です。
領主様は奥様と結婚してから少しだけ変わりました。ーーきっと、良い方向へ。
以前は夜遅くまで職務に励んでいるのせいか、朝は比較的ゆっくりとした起床でした。(ただし、作物の収穫時期だけは別で、畑の状況をを見回るため早起きしています)
奥様と朝食を共にするために起きる時間を早めました。
それに、領主様は奥様が来てから、屋敷の子たちともよく話すようになりました。その話題の内容は主に奥様のことです。新婚で奥様のご様子が気になるのか色々な子に話を聞いています。
私にも、この間はこっそりお菓子を差し入れしてくださいました。奥様に仕えるのは大変じゃないか、と気遣ってくださります。
いえ、全く大変なことなどありません。奥様はご自分で何でもできてしまうので、はっきり言って私など居ても居なくても関係ありません。役立たずで自己嫌悪に陥ってしまいます。
そして、奥様は時々夜も更けると、領主様の部屋へ向かっている様です。私も子供ではないので、その意味は知っています。
領主様と奥様が仲良くしているのは侍女として喜ばしいはずなのに・・・少しだけ胸の内がチクリと痛みます。
幸せな新婚生活を間近で眺めて、残念に思っていしまう自分がいます。




