女の子の父親の話
今日は面倒な客を迎えた。身分的には低いが王と軍部参謀殿の信頼が厚い男だ。それだけなら何と云う事も無いが、問題はこいつの妻と息子だ。
後何年か待てば時間が解決する問題だろうが、現状では仕方ない。
娘にその息子の相手を任せ、世間話から始める。
「奥方のお加減はどうかな」
「ええ、まあ。お聞きになっていると思いますが、子供を産んでからは遠出するのが難しくなってますね」
王都の情勢や当たり障りのない情報交換を行う。こいつは1年のほとんどを王都に勤めているため、半分を領地で過ごす自分とより詳細な情報を握っていた。
「さて、本日は其方のご息女とウチの愚息の縁組の件ですが・・・」
わざわざ子供連れで我が屋敷を訪ねたのは、それが今日の本題なためだ。今回はその息子をひと目見ることも要件の一つだ。
見たい印象はこやつに似ず、ひ弱そうな息子だということだ。あまり利発そうにも見えなかった。
娘の相手としては良縁とは思えない。
しかしながら、年齢の見合う丁度良い相手が我が娘しかいない。派閥や年の差を考えなければいない事も無いが、パワーバランスを考えると、難しい。下手なところにつながりを持つと騒乱の火種になりかねない。
「ご子息は何か武芸は嗜んでいるのか?」
「いえ、そちらの方は才能がないらしく・・・、ただ勉学の方はあの年にしては優れている方だと」
まあ、そのうち戦も少なくなるだろうし、武力がモノを言う時代が時代遅れになっていくだろう。これからは武より智が必要になってくるだろう。領地も田舎ではあるが、逆に言えば他から攻められる心配がほぼないとも言える。
やっかいな血筋は、逆に考えれば政治的武器としても有効だ。政略結婚と割り切れば、娘の嫁ぎ先としては問題ない。
「場合によっては形だけの婚約となるが、それでも構わないか」
その言葉にうなずき、了解の意を示した。
顔合わせが終わった後
「あの子供は如何だった?」
あの息子の印象を聞こうとしたが、我が娘は「そんなことより」と変なやる気を出している。
「お父様、わたくしに兄様のような家庭教師をつけて勉強させください。お願いします」
娘は週に何日か母親や侍女から簡単な習い事をしている。今はまだ幼いので本格的な勉強はしていない。
もっとも女子では礼儀作法に一般教養だけで充分だ。過度な教育は必要ない。兄たちを見て剣の練習の真似事をしていたが、手習いの範囲で必要なものではない。
今までは空いた時間は好きしていたが、その時間を兄と同様な教育を受けさせてほしいと言ってきた。当然、令嬢としての教育も併せて。
どんな心境の変化だろうか。まあ、少し空回っている感はあるが悪い意気込みではない。
「お姉さんとして恥ずかしくない姿をみせないといけませんわ!」
もう何年か後かと考えていたが、前倒しで家庭教師を手配しておくか。次男である弟もまだ時期尚早な感が否めないが、娘はいいところを見せたいようだし一緒に学ばせよう。
しかし、何故今さら弟にお姉さんぶっているのだろうか。




