ある家出娘の話
この娘さんの家を出るまでのお話は「ある剣士を夢見る少女の話」「http://ncode.syosetu.com/n0159ck/49/」をご参照ください。旅に出るまでは同じです。
深夜のある夜、これまで貯めていたお小遣いと旅支度を詰め込んだ袋を背負って、こっそりと家を出る。父様にはばれているだろうけれど、母様に見つかったら面倒だ。
あたしは武者修行で各地を放浪する(予定)だ。
地元の土地から出るのって、小さい頃に両親に王都に連れてもらった時以来だから、見る者見る物何もかもが面白い。
う~ん。実家を抜け出したのは良いけど、どこへ行こうかな? 王都とそこへ行く途中の土地へは行ったことがあるから、違う方向にしようか?
そう云えば、そもそも、武者修行って何するの? 勢いで出てきちゃったけどどうしよう?
兄様が読んでいた剣豪物語の主人公って、道場破りとかしてたけれど、剣術道場ってどこにあるの? 見たことないんだけれど? しょせんフィクションか~。
う~ん。・・・後は、どうしようかな。最強の称号を得るために強者を探してさすらうイメージがあるけど、どうだろう? ぶっちゃけ、探すまでも無く父様が最強だと思う。あれより強い人間って絶対存在しないと思う。
だって、父様は木刀で岩を砕くんだよ? あの歳で百人組手とか普通にこなすんだよ?
あれより強い人間って、既に人間じゃないと思う。化け物か怪物と呼ばれる何かだ。
よしっ!! 父様より弱くてほどほど強い人間を探して勝負を挑むとしよう。
さて、そんな人間ってどこにいるんだろう? なんか、片田舎でストイックな隠遁生活を送っているイメージだ。
王都が左の方角だから、右の方へ行ってみよう。考えても分からないんだから、インスピレーションだ。
ある程度の方針を決めたので、気の向くまま、足の向くまま旅をする。
これから、あたしの輝かしいサクセスストリーが始まる!!ーーはず。
色々な珍しい物を買いたいけれど、荷物になるから断念と自分をだます。だって、実は・・・お金がない。
宿屋って、思ったより結構お金がかかるんだね。自分でお金を払って、初めて知る事実。家と同じようにちゃんとした布団で眠ろうとしたら、思ったより出費がかさむ。
野宿? 無理無理。だって、野宿なんてしたことないんだもの。そもそも用意なんかしていない。
持ってきた荷物は着替えと色んな武器だ。長剣、短剣、苦無に鉄針。いつでも戦闘準備OKだ。まだ1度も使ってないけど。
食事は全て外食だ。だって、自炊なんてしたことないんだもん。家にいればあたしが何もしなくてもご飯が出てきたんだもの。覚える必要なかったんだよ。持ってるのはそのまま食べられるおやつくらいだ。
世間の物価って思ったより高かったんだ。実家にいたときは買い物しても周りの人が代わりに払ってくれていた。自分ではモノの相場って分かっているつもりだったけれど、想定外だ。
この旅のために貯めたお小遣いは食べ歩きと宿の連泊でいつの間にかなくなってしまった。
ヤバい。あと数日すれば、強制的な野宿体験だ。
ーー今こそ、父様の言っていた最初にして最終手段を試してみる時だ!
綺麗な宝石の付いた首飾を見せびらかして歩く。
「さあ、下心満載のならず者。バッチ来い!」
襲ってきたところを返り討ちにしてやるんだから。




