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ぶちのめしますわよ、旦那様【領主を継いだので好き勝手やてみたい別冊?】   作者: 堀江ヒロ
結婚とその顛末

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ある冗談好きな侍女の話


 お嬢さまは精力的に屋敷の内外を見て回っています。着替えもひとりでする全く手のかからないお嬢さまです。結婚式が終わっていしまえば私は手持ち無沙汰です。

 何をしようか悩んでいると、女の子が話しかけてきました。

「何でも頑張ります!」

 この子が言うには、お嬢さまの侍女に立候補してきたようです。

 賢そうな顔つき。根拠があるのかは兎も角、自信が見え隠れします。けれど、この娘。お嬢さまと似た匂いがします。

 簡単に云うと、お利口な(勉強だけの)お馬鹿(天然)です。


 いい暇つぶしを見つけました。ちょっとからかってあげましょう。いえ、楽しむのではなく社会勉強をさせてあげるのです。

 社会の荒波にもまれる前に、私が教訓を与えてあげるのです。優しいお姉さんとして。


「じゃあ、お嬢さまとクマ狩りでも行きますか?」

 ここら辺にクマが出没するのかは知りませんが、取り敢えず言ってみます。

 見たところ、この娘は腕っ節の強さは皆無でしょう。私自身も弱いですが、周囲は実力者揃いなのである程度の強さランク位は判ります。

 万一、彼女が承諾したとしてもお嬢さまなら問題なく撃退できるでしょう。

 案の定、私の提案に戸惑っています。先程までの自信満々な態度は何処へ行ったのでしょう。

 まあ、「はい。分かりました。任せてください」と自信満々に答えられたら、私の方が戸惑ってしまいますけれど。


「お嬢さま、気分転換にクマ狩りにでも行ってきませんか?」

 お嬢さまに冗談口調で誘ってみます。

「はぁ? 貴方はいきなり何を言っているんですの?」

 お嬢さまはマジ口調で聞き返してきます。詰まらないですね。空気を読んで乗ってくれないと。

「冗談ですよ。お嬢さま」

 仕方がないので、お嬢さまと遊ぶのは諦めます。やっぱりこの娘と冗談が分からない所なんかは似ているようです。


 これで終わりも面白くないので、もうひと押ししてみましょうか。

「仕方ないので、一人で狩ってきて来てください」

「買って・・・じゃないですよね?」

 腰が引けています。強がる元気も残っていないようです。

「あれ? 何でも頑張るんじゃなかったんですか?」

 自分でも白々しいとは思いますが、ギブアップするまで手は緩めませんよ。ナイフを握らせて背中を押しやります。

 もしかしたら、機転をきかせて屋敷の(くま)から小さな虫なんかを狩ってくる可能性も無きにしも非ずです。

 ちょっと頭が良いからといっては柔軟な思考を放棄してはいけません。

「すいません。無理です。勘弁してください」

 ですが、とんちは苦手なようです。彼女は頭を下げて謝ってきます。


 では、お姉さんから教訓を一つ授けましょう。

「さて、このように『何でも』と言ってはいけません。気がつくと、熊狩りに行ってしまう恐れがあります」

 言質を取られないように立ち回るとこは今後の人生でも重要な事ですよ。



「では、今度は真面目に審査しましょう」

 私は国許に夫がいるので、結婚式についてきた方々と共に数日後にはこの地を後にしなければなりません。お嬢さまは手が掛からないとはいっても、お世話をする娘の一人も決めておいた方が良いでしょう。

 彼女以外にもこの屋敷で働いている年頃の娘を集めます。みな元孤児だったり貧乏で身請けしてきた子供だそうです。

 まあ、有能なら出仕は問いません。

 審査方法は礼儀作法・算術・文章の書き取りの3つです。


 まずは立ち振る舞いを見せてもらいます。やはり、年の若い子ほど所作はぎこちなさが目立ちます。

 例の女の子は自信満々でしたが元気が良すぎて、優雅さとは程遠いです。繊細さが全く足りていません。軍隊じゃないんだから、きびきび動くんじゃなくて流れるような所作を心掛けないと麗しく見えません。


 続いて、簡単な四則演算を使った計算問題を出します。計算の遅い子もいましたが、皆及第点です。


 最後に文章の書き取りです。私が口頭でゆっくり喋る言葉を文章に起こしてもらいます。

 ひとりだけ拙いながらも崩し文字(草書体)で書いている娘がいます。確かに「目上の貴族の方へ送ると思って書いてください」と言ったけれど、他の娘は楷書で書き留めています。

「適当に書いたんじゃ何の? こんなの、余計読みにくいじゃない!」

 ひとりの女の子が文句を言いますが、ちゃんとした文字です。


 結局、お嬢さまの侍女に決めたのはその草書で文章を書いていた女の子です。彼女らの中では一番の古株だそうですので、学ぶ機会もあったのでしょう。見た目は平凡ですが、一応全て及第点をクリアしています。

 身のこなしは控えめというか、おっかなびっくりでしたがそれなりに洗練されていました。計算の速さはは真ん中くらい。不も無く可も無くといたところでしょうか。

 自信満々なあの娘とは対照的で自信がなさそうでしたが、お嬢さまには控えめな娘の方が合っているでしょう。

 自己主張の強い娘は侍女としては不適です。どちらかというと、あの娘は実務を取り扱わせた方が役に立つのではないでしょうか。


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