ある屋敷で働く女の子の話
私に生まれてから最大のビックチャンスがやってきた。
この度、ここの領主様が他の領地から奥様を迎えるらしい。何でこんな田舎にお嫁に来るのかは知らないけれど、この機会を逃す手はない。
今まで手に入れることのできなかった領地外の伝手やコネを手に入れてやる。
今まで屋敷で勉強や礼儀作法、掃除や料理まで学んでいたが、もう十分だろう。場合によっては、ここから抜け出して新天地で一旗上げる案もあったけれど、その奥様を見定めてから決めても遅くない。
今でも昔よりはそこそこ良い生活しているけれど、もっと上を目指せるはずだ。私はこんな田舎でくすぶっている人材ではない。
人間、向上心がなくなったらお終いだ。
嫁入りの一行が到着したとの知らせに、外に飛び出してみれば立派な馬車と金ぴかの変な鎧を着た騎士さまが見える。
「ほへ~っ」
一緒にその光景を見ていた幼馴染みの男の子はポカンと馬鹿面をさらしている。
それを他所に、我知らず拳を握りしめた。ここからは自分の野望を叶えるための正念場だ。あの一行に取り入るに足る人物がいるのだろうか。第一候補はやっぱりお嫁に来た奥様だろうか。
「頑張るわよ!」
「・・・まあ、適当に頑張れば良いんじゃないかな」
私の宣言に下僕がやる気なさそうに答える。
「何言ってんの? アンタも手伝うに決まってるでしょ」
グチグチ文句を言う馬鹿を無視して、騎士さまたちからの情報収集を命じる。
「じゃあ、頼むわね」
万一の場合は誤魔化すように言い付けておいて、私は更なる情報を求めてこっそり抜け出す。幸い、みんなドタバタしていて今なら私ひとりが抜けても気づかれないはずだ。愚鈍な下僕は足手まといだから置いて行く。
目指すは屋敷に入ってきた立派な馬車ではなく、一番最後尾の下っ端がいるであろう場所だ。こういうのは下っ端の方が口が軽いと相場が決まっている。
けれども、思ったよりも馬車の数が多い。街の中央広場まで占拠している。しかもその場所に荷物を降ろしたりして、騒然としている。
「ねえねえ、これって何の騒ぎなの?」
顔見知りのおばさんが居たので聞いてみる。この人は時々広場で野菜の露天商をしているおばさんだ。
「ああ、領主様のお嫁さんの一行に付いてきた商人たちだよ」
ふ~ん。確かに、屋敷に来たのとは雰囲気が違うかも。
なら、相場を確認がてら話を聞いてみよう。どんな商品を持ってきたのかも気になるし。
可愛い女の子がお願いすればイチコロのはず。奥様に取り入るためにも周りにどんな態度を取っているのか知る必要がある。
実家は古くから王様に仕える武闘派の大領地らしい。しかし、残念ながら本人の情報は得られなかった。旅の道中は護衛たちに威嚇されて近づくことも出来なかったし、それでなくとも馬車の中から出てくる事もほとんど無かったらしい。
屋敷へ戻ると上へ下への大騒ぎだ。へっぽこな手下は何も情報を収集できなかったようだ。期待していなかったけれど、やっぱり役立たずだ。
同僚の女の子たちは浮き足立ってお嫁さんの控室へ入れ代わり立ち代わり覗きに行って、キャーキャー騒いでいる。
私も一応乙女なので、どんな花嫁衣裳なのかちょっと心惹かれてその部屋に向かってみる。
「アンタ、どこ行ってたんだい?」
メイド長に有無を言う暇もなく、首根っこを掴まれて強制労働に従事させられてしまう。監視付きで抜け出すことも、不可。
結婚式はずっと裏方に徹して、見ることが叶わなかった。
ほんのわずかだけ、本当にちょびっとだけなんだけれど、こころもち残念かも。




