あるタダ酒に釣られた男の話
領主さまの花嫁さまを乗せた一行が到着した。屋敷の庭に出て出迎える。
「すげ~ぞ、おい」
一緒に来ていた男とビビりながら遠巻きに様子をうかがう。今まで見た事も無い凄い光景だ。
馬車が屋敷の庭に入りきらずに、屋敷の周りを取り囲みつつある。
街の中央の広場となっている場所でも外からの商人も総出で馬車を繰り出し、生まれてから見たことのない賑わいだそうだ。
馬車だけでなく、馬に乗ってい厳つい男も多数いる。そいつらはすごい派手派手な鎧も着ている。
剣を持っているってことは兵士なんだろうが、おれの知っているっそこいらの兵士のおっさんたちとは全く違う。
「あんな腕を振り回されたら、一瞬で吹っ飛ばされるぜ」
馬車を追っかけて野次馬が集まってきているが、眺めるだけだ。誰もビビッて近づいてこない。
「やべ~じゃねぇのか? どうすんだよ」
おれも隣の男もただの農家の親父だ。地元では古参ではあるけれど、村長でもなければ大地主でも金持ちでもない。
加えていえば、領主様とは一滴たりも血縁関係はない。
「タダ酒に美味い飯が食えるから、ちょいと来れないか」
と言われ、ホイホイ来てしまった自分が恨めしい。
騙された。こんな大規模な一団だとは聞いていない。
これから、どうなってしまうのか。
しばらくして全ての馬車が到着すると、ゴツイ男たちに囲まれて豪華な飾りがあしらわれた馬車が一団の中から進み出る。そして、屋敷の玄関に乗りつける。
出てきたのは凄い美人の女性だ。顔は薄布で隠されているが、その布越しでも化粧をした顔がうかがえる。自分の女房とは気品が違う。
やっぱ、貴族のお嬢さまってのはそこいらの母ちゃんとは何もかもが全く違う。
そのお嬢さまが優しく微笑んで手を振っている。
「どこが、剣を振り回す大女なんだ? 誰だよ、凄い鬼嫁が来るって言ってたのは?」
「領主様だろ」
「その肝心の領主さまはどうしたんだ?」
「花嫁に自分の手料理を食わせるために朝から厨房に籠ってるってよ」
なるほど、領主さまが憎まれ口をたたいていたのは単なる照れ隠しか。確かに自分の嫁を手放しでほめるのは恥ずかしい。
「どちらに行けばよろしいでしょうか?」
降り立った花嫁に皆が見惚れていると、お付きの女性が声を掛けてきた。こちらも花嫁に負けず劣らず美人だ。
「こちらです」
屋敷で働いている女の子が花嫁さまとそのお付きを案内する。
付いてきた兵士らも鎧を脱いで結婚式の出席者となる。結婚式の会場ではパリッとした服に着替えてきている。
それに比べて、おれたちの服は貧相だ。おれは村長に借りた一張羅を着てきたが、生地が違う。
領主さまが何故おれたちを引っ張り出してきたのかと云えば、はっきり言って数合わせだ。
確かに、領主さまの直接の関係者だけだと、向こうの出席者に対して少なすぎる。ご両親は他界しているし、ご親戚の話も聞かない。
でも、農家の親父たちを引っ張り出すのは如何なものか?
緊張してる輩もいるが、もうおれは自棄になってタダ酒をかっ喰らう。
式も進み酒も入れば無礼講で、向こうから酒瓶を片手に話しかけてくる。
怖そうな面構えのおじさんも見た目に反して気さくだ。
「おれってば、日頃は畑を耕しているんだけど」
「ふんっ。そんな度量の狭い漢はおらんわ」
おれの肩をバシバシ叩いてケタケタ笑う。肩を組んで、酒を勧めて注いでくる。こっちも返盃する。
主役の新郎新婦を放っておいて酔っぱらいが増産されている。もう何杯飲んだのか覚えていない。
ーー目が覚めると翌朝で、強面のおっさんを膝枕していた。・・・何でだ?




