領主を継いだので結婚してみた
何故か、街道整備をしていた領民どもが張り切り、結婚を迎えてしまった。何故なんだ!?
もっと先延ばししたかったのに・・・ 空気の読めない奴らだ。
あぁ~。何てことだろう。エビを運ぶために始めた事業なのに、不幸を運ぶことになってしまった。
はぁ~、全力で遠慮したい。
「なあ、今からでも破談にできないかな?」
たまたま屋敷に来ていた、兵士のオジサンに愚痴を吐き出す。おばちゃんは何故か乗り気なので、言わない。
なんか、「ワガママ言うな」って怒られそうだし。
「年の功で良い知恵ないか?」
「どんな理由ですか? そもそも領主様に断る気概があるんですか? なお、そのご結婚相手の一族は武闘派だって話だから、断ったとしたらボコボコにされることは必至ですよ」
なに、その追加情報? 益々気が重くなったんだけど。
さて、その憂鬱な結婚式だが、王都でお披露目、令嬢の領地で結婚式、それでオレの領地に戻ってきてまたやる。
面倒くさい。何で三カ所でやるんだよ! 一カ所だけで良いじゃん。出費も3倍だし。まあ、向こうはオレよりもっと金を出しているみたいだけど。
3回もやるのは一応、出席者を分ける意味があるらしい。王都は主に他の貴族のため、互いの領地ではお互いの親族や関係者へのお披露目がなされるためだ。
王都や令嬢の地元での結婚式は色んな人が来たが、オレは愛想笑いに終始した。だって、みんな知らない人ばっかりだもん。
何処何処の誰それだって、あいさつされてもさっぱり分からん。長い話をされてうんざりだ。隣にいた花嫁はそつなく対応していた。何この女、本当にこの人らを知ってるのかよ? 知ったかぶりしてるだけじゃないのか。
目の前に豪華な料理が出されても食う暇さえないし、酒は無理やり飲まされる。本当に散々だ。
今度は3回目の結婚式だ。出席者は令嬢の身内とオレの領地の領民たちだ。前の2カ所は所在無い心持だったけれど、やっと俺のフィールドに帰ってきたが、もう3回目だと新鮮味もない。
いや、言い換えれば安心ってことか? もう知らない奴らも来ないだろうし。
一足先に領地に戻って、花嫁を迎える準備をする。といっても、オレ自身が準備することってのはないはずだ。
やることって、関係者に振る舞う料理の材料や酒の準備。そして宿泊先の手配だよな。全部オレの手を離れて用意済みだ。
「何言ってるんですか、坊ちゃん。今のうちから出席した方々へのお礼状を書いといて下さい。これが出席者のリストですよ」
何でおばちゃんが持ってんの?
「まだいいじゃん。それにオレが書かなくても、誰か代筆すればいいだろ。どうせだれが書いても一緒だろ。むしろ、オレより字が上手い奴に頼んだ方が、向こうにも喜ばれるんじゃないのか」
「こういうのは本人がちゃんと書かなくちゃ駄目ですよ」
ふむ。結婚という困難を越えつつあるオレは危機回避能力も上がったはずだ。
「その件については結婚相手と相談して前向きに善処する所存です。ゆえに今書くのは早計だと思われ・・・」
おばちゃんが眼球の文字通り目前に筆を寸止めして突き出す。
「な・に・か・言いましたか?」
「ハイワカリマシタ。直ちに取りかかります」
「あっ、新しい部屋の調度品も確認して下さいね」
「何の部屋?」
「はぁ~。坊ちゃんたちの新婚夫婦の部屋に決まってるでしょ」
決まってるのか。・・・面倒な。
そういや、調度品とか嫁入り道具って、向こうも持ってくるんじゃないの?
「これこそ、後で良いんじゃないか。うん」
「な・に・か・言いましたか?」
「いいえ、何でもありません。全力で対処させていただきます」
ふぅ~、危機回避能力も上がってる・・・よな。うん。




