ある作業員の話
この冬は街道整備の作業員として働いていた。給金は出ないが、腹一杯食べられるので貴重な仕事だ。
元々の街道は草は伸び放題。地面も凸凹であり、小さな馬車が1台通ればいっぱいの道幅だ。
本工事は既存の街道の両脇の木を切り倒して道幅を広げる。そして草を抜き、地面を均す。言うのは簡単だが、作業内容は結構な力仕事なので大変だ。遅々として進んでいない。
隣街まで終わるのはいつになるか・・・
しかも、先日馬を走らせた集団が通ったためにせっかく均した街道がボコボコになってしまった。
人が通る分には問題なくても、馬や馬車が通るには土の締固めをやり直す必要があることが判明してしまった。
炊き出しを担当していた婦人もガッカリした顔をする。
彼女は領主様の屋敷に通いで勤めている近所のおばちゃんである。
領主様が不在であるため、我々の食事の面倒を見てくれている。そのついでに屋敷の家令殿に工事の進捗も報告してくれている。
例えば、先日の馬の件は、『数騎の馬に乗った輩が道をボコボコにしてしまったので注意するように。そして地面をもう少し踏み固めないと危険だ』等という様に。
◇◇◇◇◇
冬は過ぎても、私を含め少なくない人数が道路整備を続けている。相変わらず、給金は出ないがこんな田舎では金なんぞなくても問題ない。それより毎日ちゃんと飯が食べられるかが重要だ。
自分の畑なんて猫の額程度の広さしかないし、毎日手入れする必要もない。畑は作物が枯れたらそれまでだが、こっちは食っぱぐれがないので確実な仕事だ。
戻ってきた領主様はおばちゃんと代わりばんこに食事を作りに来て進捗を確認していく。
おばちゃんは何時も同じメニュだが、領主様が作って下さる時は気を使っていただいているのか、色々な料理が出てくる。
普通に生活居ていたら、口にできない高価な食材、味わったことのない物珍しい料理も出てくる。さすがに毎回ではないが、この仕事を続けている役得だ。
しかも、領主様は無理な指示はしてこない。むしろ近頃は体力的に余裕がある。だが気を抜いて適当な作業をすると、やり直しさせられる。
「よしよし、みんな丁寧にやるんだぞ。幾ら時間がかかっても良いからな」
「あっ、疲れたら適宜休憩するようにしろよ。絶対無理するんじゃないぞ」
領主様が何故いきなりこんな事を始めたのかというのを一緒に作業してる男から聞いた。なんでも、領主様の結婚相手が輿入れする際に馬車を通すために街道拡張工事をしているというのだ。
確かに、元の道幅では小型の馬車しか通れない。貴族のお嬢さまが輿入れしてくるんだ。きっと、どデカい馬車が来るんだろう。
「屋敷に居候している兵士の若造が美人のねぇちゃんをナンパしている時に言ってたから間違いない」
男はそう言った。なるほど、それなら念入りな作業も納得がいく。
「だから領主様が丁寧にやるように言ってたのか」
「じゃあ、張り切って作業に取り組まないとな」
「そうだな。領主様も結婚が待ち遠しいだろうからな」
詳細を聞けば幼い頃からの婚約していて、ついこの間も王都で逢瀬を重ねていたそうだ。
ならば、一日も早く結婚できるように急ピッチで進めることにしたい。
だが、領主様は私たちの身体を心配して無理はしない様にきちんと休憩を挟むよう言ってくださる。
一刻も早く結婚したいだろうに、私たちに気を使ってそれを覆い隠しているのに違いない。
領主様の結婚相手がこの街道を通ってやって来るのだ。目標があると作業にも力が入る。
領主様が結婚を迎える日が楽しみだ。




