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ぶちのめしますわよ、旦那様【領主を継いだので好き勝手やてみたい別冊?】   作者: 堀江ヒロ
張り倒しますわよ、婚約者殿

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「アンタたち、どうしたんだい?」

 事態が把握できずに硬直していると、年配のご婦人が現れ、子供たちに声を掛けます。

 剣呑な目つきでわたくしを睨みます。視線を移すとその先は平身低頭している女の子。

「見ない顔だね。どこから来たんだい? お嬢さん」

 どう見ても、わたくしがいじめているっぽい。何が悪かったの?

 全くの誤解です。

「何もしていないですわよ!?」

 手をブンブン振って否定しますが、我ながら説得力がないですわ。

 せめて、剣は馬のところに置いて来れば不審度が下がったかしら? でもやっぱり、護身用なのですから見知らぬ土地で外すのは不安です。


 ご婦人は女の子を立たせて、自身の後ろに庇うように隠しました。

 っていうか、このご婦人って実は武芸の達人じゃないの!?

 重心の運びにブレが全くない。武術における体軸は身体の背骨に沿った中心線と同じだと一般に思われますが、内臓が非対称なため同一にはなりえません。

 わたくしはその基本にして極意に苦労し、未だに境地に至れていません。誤解とはいえ戦闘に至ったら、まず勝てない。


 出直した方が良いのかもしれない。けれど、後ろを見せたら追撃されそうです。

「……」

「……」



「怒らない?」

 一触即発の緊張感の中、女の子の腕から男の子が抜け出してわたくしの前に駆け寄ってきました。物怖じしないのか、この雰囲気に気づいていないのか。

「ええ、怒りませんわよ。そもそも、怒ることなんて何もしていないじゃないの?」

 先程も怒ったわけではないですが、子供たちを怖がらせたのに違いはありません。


 ご婦人をあえて無視し、謝罪のため子供たちに近づくとビクッとしてしまったので、しゃがんで目線を合わせます。そして安心させるようニコリと微笑みます。そして、手をその子の頭に乗せ、ゆっくりと撫でます。

「驚かせてごめんなさいね。大丈夫、大丈夫」

 さらに抱き上げて左右に揺らします。


 弟の幼い頃はこうすると安心してくれました。

案の定、初めは驚いていた男の子も「きゃっきゃ」笑って、最後には「もっと~」と喜んでくれました。

 他の子もねだってきたので順番に抱き上げてあげる。遠慮していた女の子も。




「誤解は解けたかしら? あの子らは近所の子なのかしら?」

 子供たちが遊んでいるのを尻目にご婦人に話を聞きます。

「坊ちゃんが拾って来たみなしごだよ」

 坊ちゃんとは婚約者殿のことらしい。話を聞いてみると、なんと、身寄りのない子供たちを育てているといいます。また、貧しくて身売りしなければならない家の子供も同様に引き取っているらしいです。

 身売りなんて、売られた先によっては奴隷のような生活が待っている場合もあります。

「それは感心な話ですわね」

 一面だけを見て、あの男を評価していたようです。

「良いとこのお嬢さんがこんな田舎に何の用だい? 坊ちゃんなら王都に行っていて留守だよ」

 先ほどの街道整備もあの男の指示だそうです。まだ、領主になって間もないのに精力的に領地経営をしているのかしら。


「で、お嬢さんは何の用だい?」

 ご婦人が重ねて聞いてきます。さて、何と言い訳しましょう。

「え~と・・・ ここの領主様がご結婚するというので、どのような方なのかお相手のご令嬢が気にされてまして、わたくしが様子を見に参りました」

 そのご令嬢本人なのですが、言わなければバレないでしょう。問題の先延ばしとも言いますが・・・

「剣を振り回す乱暴者って噂だけど、本当の所は如何なんだい? やっぱり高慢ちきで我が儘なお嬢さまなのかい? 誰彼構わず無体な事をしてるんじゃないのかい? ここだけの話にしとくからさ、正直に言ってみなよ」

「そんな訳ありません!」

 わたくしは訓練以外で剣を振り回したことなんてありません。謂れのない中傷です。

 誰でしょう、そんなこと言う人は!? 失礼な話です。

「剣を振るうのは剣術の訓練の時だけですわ。え~と、そのご令嬢はちょっと気の強いところはありますが、乱暴を働く人ではありません。きちんとした自慢のご令嬢です」

 自分で言うのも恥ずかしいですが。


 話題を変えようと、婚約者殿の情報を子供たちに聞いてみます。というか、それが当初の目的でしたわね。

「ここの領主様ってどんな人かな?」

「おっきい」「おいしいゴハンをくれる」「優しい方です」「だいすき」「おいしい」

 子供たちが口々に言う。第一印象は悪かったが、素は悪い人ではなさそう。子供に好かれる人に悪人は居ないはずです。

「武術の腕前は壊滅的だけど、戦がなきゃ関係ないさね。優しい子だよ。まあ、ちょっと怠け者だけどね」

 ご婦人も付け加えます。


「アンタみたいな優しいお嬢さんが坊ちゃんの嫁に来てくれればいいだんけどね」

 可愛い子供たちがいるのなら、それも悪くないかも知れません。



 子供たちは楽しそうに庭を駆け回っています。やっぱり子供って可愛らしいですわね。

 その中でも、あの女の子が最も目が行きます。

 あの娘は華やかさはありませんが、野原に咲く一輪の野菊のような可憐さがあります。可愛いのにしっかりしていて、最強です。近くに年下の女の子がいなかったので、こんな妹が欲しいですわね。


 ・・・あれ? あの婚約者殿と結婚すればこの子が手に入るんじゃないかしら。いや、この子だけ貰えないかしら?


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