領主を継いだので月を眺めてみた
『壮途』の後位のお話です。
何故か、オレは自分の意思に反してヘイコラヘイコラ山登り中。川をさかのぼり、水源を求めてさまよう。
何か、開発計画のために水源の確認が必要とかでレイさまに問答無用で連れて来られた。
この女の横暴に終いにゃ・・・ うん。どうにも出来なさそう。
文句言ったら腰にさげている刃でしばかれそうだ。
不幸中の幸いなのはこの女だけでなく、案内役のおっさんと農業担当となる予定の手駒も一緒なことだ。
方向と距離を測りながらしながらなの移動なので時間がかかる。一日では探索は終わらず、日帰りが不可なので野宿だ。
これって、オレ来る意味あるのか? もしかして雑用係なのか?
こういう時こそ、屋敷で無駄飯食ってるガキ共の出番だろ。
くそ~、ナメやがって。
睨みつけたら、睨み返された。怖っ。
「いやぁ~、こんな美人な妻とご一緒できて嬉しいな」
仕方がないので夕食の用意をしてやる。
今に見てやがれ。その内、いつかきっとギャフンと言わせてやる。
メニューは途中で狩ってきた小動物を捌いて焼肉だ。途中で採取した野草も摘んで汁物に入れて配る。
一応保存食なんか用意してたみたいだけど、こっちの方が美味い。
食う物食ったら、やることもない。娯楽なんてある訳ないので後は寝るだけだ。
しかし、全員寝る訳にもいかない。
熊なんかの野生動物がでるかもしれない。だから火をたいて見張りを立てる。それは分かるんだよ。
だが、何でこの女と一緒なんだよ? おい!おっさん。何で気を利かせたみたいな笑み浮かべてるんだよ。そう言うのを余計なお世話って言うんだよ。
いきなり二人っきりにさせられて、何喋ればいいんだ?
「おふたりでごゆっくり」
さっきまでは他の奴らがいたから何とかなったが、二人きりだとまだ気まずいんだよ。
屋敷でも二人きっりになったけど、その時は仕事押し付けられたり勉強を強制されてた。ああいう風にやることあればいいんだよ。
でも、今みたいに手持ち無沙汰な状態で何話せば良いんだよ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
上を見上げると、月と星が良く見える。
「あ~、その、なんだ。・・・月が綺麗ですね」
会話のとっかかりとして、夜空の様子を口にしてみる。
「なっ! なんてこといいますの!?」
え? 驚くような変な質問か?
「・・・死んでもいいわ」
レイさまはそっぽを向いて、いかにも嫌そうにぶっきらぼうに言い放つ。
オレが死んでもいい・・・だと? どこら辺で怒りのスイッチ踏んだんだ?
「殿方が軽々しくそのような言葉を口にするモノではありませんわ。言われたわたくしの方も・・・恥ずかしいですわよ」
恥ずかしい? ・・・月がNGワードなのか? あっ!?さてはこの女生理中か。
さすがに生理を連想させるテーマをしゃべるのはデリカシーないことだってことは、いくらオレでも分かる。
「分かった。もう口にしない」
「変な匂いしなかしら?」
ボソッと小声でつぶやいているが、他に誰もいないこの状況でも良く聞こえてしまう。
あ~、夕食が焼肉だったから臭い移りが気になるのか。
「全然気にならない。むしろオレ好みの良い匂いだぞ」
オレ特製の肉ダレの臭いがまだかすかに残っている。自分で調合したんだからオレ好みに決まっている。




