ある不安を感じる母親の話
「ワタクシには大事な使命があるので、これをひと通り覚えていください」
姐様がが連れてきた先生は、あたしにそう宣言した。
つまり、この先生の教育方針は自習だ。言い方を変えれば、教材だけ渡して放置だ。
ーー数日様子を見てたけど、本当にほったらかしだった。
イイの? あたしが言うのも何なんだけど、ホントにイイの?
その肝心の先生はその間何やっていたかというと、二人の息子らを部屋に拉致軟禁していた。
さすがに母親として見過ごせないので様子をうかがってみた。けど、無体な事はしてなかった。息子を交互になで回してただけだ。
大事な使命ってコレ?
上の子は知らないおばさんになでられて、どう反応したら良いのかとまどっている。
下の子は素直に喜んでいるみたい。
知ってる。こういう人って、え~と、しょこたんって言うんだっけ?
何でこんなのが評判の偉い先生になるんだろ?
不安になったので情報を持ってそうな姐様に確認してみる。
「姐様が連れ込んだあの先生って、あれで大丈夫なの? どこかで捕まってたりしてるんじゃない?」
「私がわざわざ連れて来たっていうのに失礼ですね。勿論、まだ犯罪歴はありませんよ。彼女は餌さえ与えておけば優秀な人なんですよ」
エサって、息子らのこと? それってホントに大丈夫なの?
「そんな事より、私は久しぶりにお嬢さまで遊ぶために隣領地に行くので、彼女の言う事を聞いておくんですよ」
一応、教材となる冊子に目を通したけど、解読不能だ。いや、読めはするんだよ。理解できないだけで。
きっと高度なことが書いてあるんだろうなぁ~、ってことだけは分かる。
う~ん。まあ、イイか。
でも、姐様もいないのなら勉強する必要ないよね。大丈夫、大丈夫。必要になったらやるよ。
あたしはやればデキる子って昔父様に言われてたんだから。
これ幸いと近所のわんぱく共を引き連れて山へ遊びに行く。山は探検したり、色々な動物を探したりする遊び場だ。
実は、あたしはちまたでは知る人ぞ知る人気者なのだ。
息子たちを誘いたかったのだけど、先生と走り回って遊んでいるのを見かけたので遠慮した。
・・・あれって、鬼ごっこで遊んでいるんだよね? 嫌がる息子らを追いかけ回してるんじゃないよね?
そう云えば、何故か先生に若さの秘訣ってのを頻繁に聞かれるんだけど、そんなの知らないよ。
きっと逆なんだよ。周りが老けてるんだよ。
「誰が老けているですって?」
うげっ!? 姐様?




