顔合わせ前
「お嬢さまは婚約者がいましたよね?」
幼い頃会ったきりですが、居ますわよ。わたくしにも婚約者くらい。貴族の令嬢なら婚約者の一人や二人いるのが当たり前です。
「それで、その婚約者がどうしましたの?」
「お嬢さまの婚約者のお父さまが亡くなったそうですよ。それでその婚約者の方がご領地を継いいで新領主となるそうです」
侍女が呑気に続けますが、それって結構大変な事じゃないかしら?
貴族の付き合いは面倒且つ重要です。普段付き合いのない貴族間でさえ、時候のあいさつを欠かすことは出来ません。
ましてや、婚約者の父親の事となれば、言うに及ばない。
「その場合って、お悔やみとお祝いと、どっちにしたら良いのかしら?」
「お悔やみについては王都の当主様がご使者を遣わすなりしているはずです」
その方が亡くなったのは10日も前らしい。既に葬儀も済んでおり、わたくしが手を出す場面は逸しています。
けれども、婚約者殿が王都に就任式のために来る日を調整中のようだ。
「それに合わせて、お嬢さまがお祝いを述べるに来るよう、ご当主様から要請が来ています」
「それを早く言いなさい」
昔顔を合わせた頃は頼りなさそうな男の子でしたけれども、あれから年も経ちました。どんな風に成長したのでしょうか。
う~ん。身体も大きくなってがっちりとした立派な殿方になったでしょうか。でも、運動は得意そうでなかったから、すらっとした青年になっているでしょうか。
わたくしだって、女の子なのだからちょっとくらい夢みたいお年頃です。
さて、お祝いって、何をしたら良いかしら?
「私に万事お任せいただければ、男なんてメロメロにして差し上げますよ」
いえ、そこまでは求めていませんけれど・・・ 好印象を持たれるに越したことはないですわね。
「まずは出会い頭にガツンと一発かましましょう! ここでしくじると結婚後に苦労しますから重要です。亭主関白になるか、かかあ天下になるかの正念場です」
力強く、こぶしを握り、力説する侍女。彼女は既婚ですし、夫とはうまくやっているという話を聞いています。
ちょっと不安ですけれど、任せるしかない。男女間の駆け引きは管轄外なので。
「・・・本当にうまくいくの? いつものからかいは無しですわよ」 一応、釘をさすことだけは忘れない。
大丈夫ですわよね。本当に大丈夫ですわよね。・・・信用しますわよ?




