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ある随員の話


 この度、この地の領主であった旦那様が亡くなられた。これにより、そのご子息である若様が後を継ぐことになる。公式には王都で就任式をしてからだが、それを伝える使者の一団が街に到着した。この地出身の私はこれに随行して、情報収集するのが目的だ。


 旦那様の死因は公になっていないが、毒である。直接の実行犯は翌日死体で発見されたが、単独犯のはずがない。殺害の目的は不明。思い当たらないのでは無く、多すぎるのだ。真相解決の目途は今のところ全く立っていない。



 国の任命書を持ってきた一行と検問所で分かれて、兵士をやっている伯父を訪ねる。一行の中にもこの土地出身だから案内は不要だ。


 検問所は役所と兵士の詰所も兼ねており、街の入り口に建っている。

 そこには手続きをしてくれた老人と云ってもいい年齢の伯父、そして若い兵士が駐在していた。


「伯父さん。お久しぶりです」

 あいさつすると、応接用の部屋へ招き入れてくれた。

「おお、久しぶりじゃ。大きくなって。前はこんなにちっちゃかったのにのぅ~」

 持ってきた飲み物の器で大きさを示してくるが、そんなに小さくない。旧交を温めていると、

「わたしは席を外した方が良いですか?」

 一緒にいた若者が伯父さんを見て言う。

「う~ん、そうじゃなぁ。建前上、離れてもらっていた方が良いかも知れんなぁ」

「じゃあ、あっち行っていますね」

 若者は部屋を出て行く。


「あの人、どうかしたんですか?」

「まあ、間者スパイじゃからなぁ」

「間者って・・・ そんな呑気にしてて良いんですか?」


「情報収集しかしてないから問題ないですよ」

 部屋の外から先ほどの若者の声が聞こえてくる。


 いや、バッチリ聞こえてるんじゃないか。彼が席を外した意味は一体?


「気にするこたぁ、ない。彼は気の良い若者じゃ。ぶっちゃけ、人手不足じゃからのう。割り振った仕事をちゃんとやってもらえりゃ、問題なしじゃ。それに、どうせ知られてマズイ秘密なんて、ココにゃありゃせん」

 それで良いのか?

「いや~、他の密偵さんたちと違って、わたしは仕事の合間に自分で作った報告書の内容や噂話をまとめて送っているだけだから無害ですよ」

 また外から声がするが、会話が成立している時点で間者の意味がない。彼と伯父は間者の意味を一度見直した方がいい。

「というか、他にもいるんですか?」

「大丈夫、十人くらいしかいないです」

 大丈夫じゃない人数では?

「過激な輩は退場してもらってるし、問題ないじゃろ」

「今後、増えるんじゃないですかね?」

「まあ、その時に考えりゃいいじゃろ」


「じゃ、引き続き外で耳をそばだててますので、気にせず」

 気にしないのは無理だ。

「・・・もう、部屋に一緒にいてください」

「そうですか? では、失礼して」

 ニコニコ笑って入ってくる。


 ・・・もう、いいや。本題に入ろう。


「まずは、若様の身辺に異変は?」

 ざっと旦那様の話をしてからこちらの様子を尋ねる。可能性は薄いが、今回の事は若様が目的の可能性もある。その場合、既に侵入して街のどこかで息をひそめているかもしれない。

 この検問所は他領を繋ぐ街道に建っているが、街は塀などで囲まれていないので街道をそれて森から入れば、ここを通らずに街入れる。

「余所者が街をうろついていれば、すぐ判るので心配無用ですよ」

「今のところ不審な者はいないのぅ。色んな所の連絡員が来たくらいか?」

「そうですね」と若者もうなずく。

「それって充分、不審な者じゃないのか?」

「彼らは依頼主も所属も割れているし、問題ないじゃろ」


 あっけらかんとしすぎじゃないのか。大らか過ぎるぞ。


 ーー結局、有益な情報は得ることはできなかった。


 堂々とと正体をばらしているスパイはこの若者だけです。後の人達はちゃんと身分を隠しています。一部の人にはバレていますけれど。


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