ある出産祝いを考える女の話
レイさまの所に子供が生まれるらしい。
あの人にはお世話になっているし、何か送った方がイイかな?
今やっているのはハンコを押すだけの簡単なお仕事だ。
内政実務はレイさまとか他のヒトらにほとんど一任しているけど、最終確認はあたしがしなくちゃならないらしい。
難しそうな言い回しの書類の末尾に領主の認印をペタンと押す。
「ねえねえ。子供の出産祝いって何送ったらイイかな?」
あたしの仕事を見守っているおじさんに聞いてみる。
「ちゃんと確認していますか?」
そのおじさんはあたしの手元を覗き込んで注意してくる。
「えぇっと、もちろんだよ?」
ちゃんと読むフリは心掛けているんだからね。
あたしが来るまではこのおじさんが領主代行としてハンコを押していたらしい。
彼はあたしがレイさまにお仕事を委任するのを最後まで渋っていた。
最初はあたしに対してスッゴイ丁寧に接してくれていたけど、最近おざなり感を感じる。言葉遣いは以前と全く変わってないんだけど、やっぱり感じるモノがあるじゃない。
鋭い感性を持つあたしは隠されても薄々感じ取っちゃうんだよね。
でも、文句言われてるけどハンコ押しちゃ駄目なやつ持って来たとしたら、事前に確認したそっちが悪いんじゃないの?
それに、これって本来は領主である細マッチョの仕事だよね。失敗があったら、あたしに任せた細マッチョに文句言ってよね。細マッチョだって面倒だからあたしに任せてるんだよ。
「もちろん、わたしも事前に文書の確認はしています。しかし、貴女も最終的な確認を取らなくてどうします! 祝いだ何だと言っていますが、その隣領の方にここの実権を乗っ取られたら如何するのですか?」
そんな変な書類とかあるの? 全部スルーしてたけど、あたしには全く分からない。
「いえ、全く不審なものはありません。今まで曖昧だった事項も文書化して分かりやすくなりました」
じゃあ、イイじゃん。
「そういうことではありません。万一のリスクを考えておかなくてどうするのですか!?」
ここの領地を乗っ取られて困ること? ・・・あるの?
逆に、乗っ取ってくれたほうが仕事しなくて済むんじゃないかなぁ。
「出産祝いって、ここの統治権じゃダメかな?」
その方がみんなハッピーになるんじゃない。細マッチョに聞いてみよう。
ねっ、そうしよう!
「駄目に決まっているでしょう! 万一、姦計を弄されて追い出されたらどうするんですか!」
何で怒るかなぁ? 追い出されたら王都にある細マッチョの家に転がり込むか、それとも実家に帰るかなあぁ。
いや、前みたいに武者修行の旅に出るのが良いんじゃない。むしろそうしよう。
と言うことで、お仕事を頑張る必要性はないよね。
じゃ、兵士の訓練に混ざってくるから、後はヨロシク。
「宜しいはずないでしょう! もっと危機感を持ってください」
あれ? 何で説教する体制に入ってるの?
おじさんの理不尽な八つ当たりを小一時間ほど聞き流して、兵士の訓練に混ざる。
「ねぇねぇ、子供が生まれる時って何贈ればイイと思う?」
実家から兵士の訓練にやって来ている父様の弟子の人にも聞いてみる。あのおじさんは自分の言いたい事ばっかり言って、結局あたしの質問には答えてくれていなかった。
「お守り刀とか如何でしょうか?」
長生きとか、むびょうそくさい?っていうのを願う時に贈るらしい。
へ~、守り刀ねぇ。
じゃあ、この間盗賊を討伐した時に入手した刀なんかイイんじゃない?
黒っぽい刃で柄に謎の装飾があしらわれたカッコイイお気に入りの一品だ。
他の人は禍々しいなんて言うけど、何でこのカッコよさが理解できないのかな?
「奥方様。それを身につけた頃から、体調悪いって言ってたヤツですよね。呪われているんじゃないですか? 縁起悪いですよ」
えぇ~、たまたま偶然が重なっただけだよ。季節の変わり目で体調が悪くなっただけ。へいき、へいき。
それに優れた剣士たる者、呪われた曰くつきの装備品の一つや二つも持っていた方が箔がつくよね。魔剣とか妖刀みたいのが欲しい。
盗賊を討伐してれば、いつかドロップするかな?
それに父様が言ってたよ。気合があれば獲物が呪われていようが問題ない、って。
呪われてるって言うけど、そういう物の方が逆に魔除けになるって聞いたことある。
う~ん。もったいないけど、これにしようかな?
女の子が生まれたって言うので、ラッピングして持って行ってみた。
見せてもらったけど、生まれたてでサルみたいじゃん。生まれたての赤ちゃんって初めて見たけどみんなこうなの?
それでも、レイさまはスッゴイ喜んでる。一番盛り上がってたけど、本人が生んだんじゃないよね。
レイさま、自分の旦那も引いてるからね。
面倒そうな気配を感じたので、ご飯だけご相伴にあずかって帰ることにした。




