題字
旦那様はわたくしの最後通告に少し悩むと、膝をつきました。
そして、わたくしが止める間もなく額を床にこすり付けました。いわゆる土下座という体勢です。
「ご免なさい。この通り、頭を下げるのでそいつを害するのは勘弁してください」
懐剣をこちらに差し戻してきて、まな板の鯉状態です。
「スィのために土下座までして・・・ 旦那様はプライドはありませんの?」
己の首まで差し出そうとするなんて、どれだけスィの事を愛しているのでしょう。
でも、殿方ならば愛する者のためにその懐剣で立ち向かってくるくらいの気概が欲しかったですけれど、覚悟は見せてもらいましたわ。
それはともかく、旦那様の真意を疑って申し訳なかったですわね。
ちょっぴり妬いてしまいます。
「そこまでの覚悟でスィの事を愛していますのね?」
わたくしが確認のために問いかけると、旦那様は顔を上げて慌てて弁解してきました。
支離滅裂ですが、纏めるとスィだけではなく皆を大事の思っている。それと遠回しにわたくしの方も愛していると言っいるようです。
全く、気を遣わなくても宜しいのに。
これならば生まれてくる子共々愛せますわよね。
「え? 何が? ちょっと待って。話が見えないんだけど?」
旦那様が更に言い募ろうとしますが、胸の内はもう充分聞かせてもらいました。
「今さら照れなくて良いですわよ。旦那様のお気持ちは分かりましたわ」
座り込んだままの旦那様に腰を上げるように促します。
立たせるついでに、懐剣を回収します。先程、旦那様は指を切ってしまったので、一度抜いて刃を確認します。そっと布で拭って仕舞います。
旦那様とスィ、2人を安心させるようににこりと微笑んで見せます。
旦那様は心が通じたようで、しっかりと頷きます。
「はい。貴女のおっしゃる、その通りでございます」
旦那様のその言葉に、スィも安心した事でしょう。
布団の上の彼女を見ると、涙目です。きっと感動しているのでしょう。
その後、スィの拘束を解くのを手伝わせてもらいながら、本心を探るためのお芝居だと旦那様に改めて説明しました。
「あぁ~、うん」
すると、思ったよりも淡白な反応です。でも歯切れが悪い態度です。
気にせずに、スィの柔肌を確認します。直接縄が当たっていた箇所は跡がついていましたが、一晩寝れば消えるでしょう。
言いたいことがあるのなら、口にすれば宜しいのに。
そう言うと、躊躇いがちに聞いてきます。
「え~と、そんな事するつもりはこれっぽちもなかったんだけど、一応仮に聞いとくけど。・・・あの時レイさまの言葉を真に受けて短剣を振り下ろしていた場合どうするつもりだった?」
何でそんな当り前の事聞くのかしら?
--その時は勿論
「ぶちのめしわすわよ、旦那様」




