ある覚悟を決めた女の話
奥様に連れられて、領主様に改めて顔合わせをします。
「わたくしがいない間はこの娘をわたくしだと思って可愛がってください」
私も奥様の言葉に合わせ、頭を下げます。
「それじゃ、頼みましたわよ。式はいずれ計画しますからね」
奥様の時のような大々的な結婚式という規模にはいきませんが、後日私たちの結婚式を執り行ってくれるそうです。
本日は奥様は私と領主様を二人っきりにするために外出して、そのままお泊りの予定です。
ーー緊張します。
この恋心を自覚してから、領主様と二人っきりになったことはありませんでした。やっぱり恥ずかしさもありましたし、何より領主様には奥様が居ましたから・・・
何をしゃべったら良いのでしょう?
「・・・」
「・・・」
領主様も緊張されているのか、私の方をうかがいつつも、言葉を口にしません。
「気になるのでしたら、部屋の隅で静かに控えています。私の事はお気になさらずに」
リラックスしていつものようにお仕事をなさってください。
私の言葉に領主様は本を手に取り読みふけります。
後ろからちらりとのぞき見ましたが、難しそうな専門書っぽい内容です。
さすが領主様。こんな本を日頃から読んでいるなんて流石です。
奥様の傍に控えていた時、レイさまもたくさんの本を読まれていました。
やっぱり、奥様や領主様のような真面目な貴族様は日々の勉学をかかさないものなんですね。
「お前も座れよ」
尊敬のまなざして見ていると、領主様が声を掛けてきました。
「いえ、私は大丈夫です」
遠慮していると、重ねて言います。
「いいから座れ」
促されてしまったので、少し離れた位置に座ります。
横に座って欲しかったのか、領主様は何か言いたそうにしています。でも、昼間からはちょっと速いのではないでしょうか。
領主様は興が削がれたようで、再び本に目を落とします。
「まだ寝ないのか?」
夕食をとり、部屋に戻ってしばらくすると領主様がそれとなく振ってきます。
とうとう、その時がやってきてしまいました。
「・・・え~と、その・・・ それでは、失礼します」
恥ずかしさで逃げ出したくなりますが、女は度胸です。
でもやっぱり、領主様の顔を見られません。
布団を頭からかぶって、その時を待ちます。
「そんな所に寝てると、エッチなことするぞ」
領主様の囁きに息をのみますが、元よりその腹づもりです。
後輩の子も「頑張ってくださいね」と送り出してくれています。
「覚悟は出来ています」
必死に勇気を振り絞って答えました。
どうぞ、その、優しくお願いします。




