第20話 農村グリオ
三箇所の休憩地点を経由しシン達はグリオに着いた。アルビオの国領でルイマスとの国境に近い農業が盛んな村だ。そのため村に近づくに連れて田園や果樹園が広がっていた。ごく普通の長閑な村だった。
「結局謎の組織の情報はなかったな。」
「そうですね。」
「疲れたー。」
此処に来るまで情報収集をしたが何一つ有力な情報は得ていない。そう簡単に見つけられないようである。何に疲れたのか知らないがアウラが伸びをしながら言う。
「どうして此処に来たんだ?」
「ここ最近の食物収穫量が著しく低下しているのです。視察といったところですね。」
「大変なんだなー。」
「首都から離れるとなかなか目が届かなくなりますのでいい機会です。」
「でも皆特に変わったところは無さそうだよ?」
アウラの言葉を聞きシンはあたりを見渡す。確かにパッ見た感じでは果樹園には美味しそうな実が沢山ぶら下がっているし、おそらく稲穂であろう植物が田園に広がっていた。村の中に入ると驚くほど静かであった。
「一先ず宿屋に行きましょう。」
「賛成ー!」
「荷物置いたら鍛錬な!」
サガの言葉にテンション急上昇のアウラはシンのフードから飛び出し前へ進む。シンは全く疲労していなかったのでサガを半ば強制的に体術に付き合わせる約束を結ぶ。サガは毎度のことなのでいつもと同じ無表情で頷いた。宿屋の前に着くとサガが口を開く。
「少しここで待っていて下さい。」
「おうよ!」
「はーい。」
そう言うとサガは宿屋の中に消えて行った。辺りを注視するシンとアウラ。窓からエルフが見えた。廃村でないことに安心する。それに村の一番奥には一つだけ立派な屋敷があった。その大きさは村の家に比べると不釣合いに見える。
「そういえば、ナイン使いこなせるようになったの?」
アウラが暇そうにしながらシンに話しかける。シンは自分の手を眺める。
「なんとも言えないんだよな。ただ鍛錬のおかげか扱いやすくはなってるぜ。」
「じゃあ全開で使えるんだ。」
「いや、今のところどんだけ頑張っても両手の手首までだ。使いすぎるとすげー疲れるしな。」
「なかなか上手くいかないんだね。」
「まあ、なんとかなるさ。」
シンは空に手を掲げる。旅のなかで何度もナインを発動させた。その結果今シンが使える最大限は手首の位置までだった。発動させる範囲の広さによって消費率は変わるようだった。ただ鍛錬と発動を繰り返している内に、消費率は抑えられてきていた。さらに発動時間も長くなってきている。シンは首にぶら下っていた小さな袋を握った。その中には黄金乙女の涙が入っていた。マーテルが簡易的に作ってくれたのである。
「お待たせしました。」
サガが宿から出てきた。アウラはシンのフードの中に入る。アウラが意外と人見知りするタイプであるとシンが知ったのは最近のことであった。シンが歩こうとしている時シンとサガの間に少年が走り抜けていった。シンは驚いて仰け反る。
「なんだよ、あいつ。」
シンは少年が去っていく姿を見つめた。凄い速さである。
「物取りですね。」
「なんで分かるんだよ?」
「月麗石の入った袋を奪って行ったからです。」
シンが慌てて胸元をみるとつけていた袋がなくなっていた。手で探って見てもない。
「ばっか、もっと早く言えよ!」
そして全力疾走の追いかけっこが始まりを告げたのだった。




