第19話 エイト
「いきなり腹を蹴ってすまなかった!」
シンはスレイプの前で土下座をしていた。掲げた両手には供え物の人参があった。それをスレイプは鼻息でフンッと嘲笑う。影からマーテルとアウラが見守っていた。
「乙女の言葉は分かったのに、なんでお前の言葉は分からねぇのかな…。」
顔を上げながらシンはぼやいた。あの暴走以降スレイプに完全に見下され全く相手にされない。ルイマスに向かうためにはスレイプに乗るしかない。サガがシンの元にやってくる。
「私の方に乗りますか?」
「乗らない。俺はこいつがいい。」
「そうですか。出来るだけ早くお願いします。」
そういうとサガは去って言った。その時アウラとマーテルを連れて行く。シンは小さく溜息をついた。
「お前だって嫌だったよな。弱っちい奴に無理やり動かされて。俺でも苛々するぜ。サガが言うように交換すればいいんだろうけど、俺は逃げだと思うんだ。」
グレイプの横に立ち目を確りと見据える。スレイプは微動だにしない。シンは通じているのか不明だが言葉を続けた。
「それに俺、お前が暴走した時今まで感じたことの無い速さで進んで行ってビビッたけど楽しかったんだ。サガも良い脚のスレイプだって言ってたし俺もそう思うぜ。凄いスレイプだよ、お前。だからお前に連れて行って欲しいんだ。」
そう言うとシンは頭を下げ再度手を前に出し人参をさし出した。
「頼む、俺を乗せてくれ!!」
渾身の力を込めて声を発する。暫く静止していた後チラリとスレイプを見るとやはり微動だにしていなかった。ダメだったかとシンは後で再挑戦しようと立ち去ろうとする。その時手に握っていた人参が姿を消した。シンは空っぽになった手を見てスレイプの方へ振り向いた。すると何食わぬ顔でありながらしっかりとスレイプは咀嚼していた。恐る恐る首を撫でてみると嫌そうではあるが払いのけることはしない。勘でしかないが受け入れてくれたようだ。
「おっしゃ!よろしくな!」
シンは喜びでガッツポーズをとる。それを冷めた目でスレイプが見ているのをシンは気づいていなかったのだった。
「ありがとな!」
「こちらこそ久しぶりの来客で嬉しかったわ。また来てくれるかしら?」
「おうよ!またな!」
マーテルは姿が見えなくなるまで手を振っていた。同じようにシンとアウラも手を振った。マーテルに道を聞いていたので公道に出ると、スレイプに乗った。
「本当にスレイプに乗れるようになったんだ?」
「そうだぜ!ちなみにこいつはエイトって名前に決定したからよろしく!」
アウラはいつものようにシンのフードの中から顔を出していた。シンは自信満々に答える。
「だいぶ先にはなりますがグリオという農村に立ち寄りたいのですがいいですか?」
「わかった。村に着いたら組み手頼んだぜ!」
「分かりました。」
そうして三人はグリオに向かって出発したのであった。




