第16話 千の涙
「おい!どうしたんだ!?」
《…急に現れたの》
シンは急いで黄金乙女に駆け寄る。アウラも近くにいた。穴が開いたところからヒビが広がっていく。サガは周囲を調べていた。
「サガ、アウラ!直せないのか!?」
「できません。」
「生き物でないと治癒は…ごめん。」
二人の言葉に今まで感じたことのない焦りがシンの中で募っていく。
「くそっ…どうすりゃいいんだ!」」
《お願い…私の力を》
「無理だ、出来ない!」
《このままでは無駄になってしまうわ。そうなる前に私の心臓を…》
シンは地面の草を握り締める。険しい表情をしていた。
《私の能力は願う気持ちが力になる"心願"よ。目に見えないけれどシンの力を強くしてくれるわ。》
「知らなかったはずだろ…?」
《ごめんなさい、嘘を吐いたわ。本当の事を言ったら奪ってくれないと思って》
「なんで…。」
この間にもヒビは広がり足の部分が今にも取れそうになる。シンは押さえつけて取れないようにする。
《もう私の人生は終わっているの。だから終わらせて欲しい。》
そう言うと黄金乙女の目から月麗石が出てきた。それは見覚えのあるものだった。
「もしかして一帯の石って…涙?」
《初めはただ気づいて欲しかった、それだけだったの》
そういうと黄金乙女は語り出す。アウラも崩れそうなところを押さえる。アウラは二人のやり取りを見ているがよく分からなかった。ただ黄金乙女の最期が近いことだけは理解できた。
《私は魔宝の中で唯一意思持っている像。神のいた時から私は生きとし生けるモノに自らの美しさを褒め称えられてきたわ。それを日々誇らしく思っていたの。そんなある日盗賊により私はその日々を奪われてしまったわ。》
押さえていたのも空しく完全に足の部分が取れてしまっていた。それでもシンは押さえ続ける。
《盗品として流離っている最中に崖崩れがあって私は崖から落ちたの。それからどれだけの時が経ったのか覚えてないわ。そして絶望の中ある日突然彼女が現れたの。皺くちゃな彼女を最初は醜いと思ったのを覚えてる。彼女は私を起こし奇麗にしてくれたわ。シンがしてくれたようにね。そして私を女手一つであの池まで運んで、毎日私に会いに来た。色々な話を聞かせてくれた。次第に私は彼女が来ることを心待ちにしていることに気がついたわ。そして彼女の笑顔は何よりも奇麗だって思った。でも私は伝えることが出来なかった。ただ聞いているだけで。彼女には私の声は聞こえないから。》
ヒビが腕まで侵食してきた。それでも構わず黄金乙女は続ける。
《いつものように彼女は私に話しかけて立ち去ろうとしたの。だけど彼女はそのまま倒れて。どうしようって、助けなきゃって思ったわ。でも私は何も出来ない。葛藤して一日たった時、迷い人が通りかかったの。今しかないお願い気づいてと何度も何度も思ったわ。》
「無理するな!」
堪らずシンは声を張り上げる。黄金乙女の腕が崩れ落ちた。それをシンは持ち押さえつけた。
《お願い言わせて。貴方には聞いて欲しいの。》
アウラは泣きそうな顔をしていた。黄金乙女のことを何も知らない。聞こえない。けれどそれが崩れていくのは見るに耐えないことだった。
《そしたら迷い人が近づいてきたの。そして私に近づき『目から石が!』と言っていたわ。その時自分が泣いていることに気がついたわ。それから迷い人は彼女を見つけた。でも迷い人は驚いて逃げてしまったの。そして私は壊れたように泣き続けたわ。十の涙、百の涙、千の涙を流しそれはやがて積もり私と彼女を隠した。》
ヒビが胴体部分に進んでいく。もうどうしようもないとシンは悟った。
《彼女を失った時私の心は死んだの。だからお願い。私の能力を手に入れたら、月麗石の中に埋もれている彼女と私を一緒に埋めて欲しいの。》
「死んでねぇよ。乙女は生きてる、今だってずっと!」
《そうね、確かに生き続けることはできるわ。それでももう彼女の時の想い以上を持てるだけの若さが私にはもうないの。シンも大人になれば分かるわ。》
「そんなのっ…分かんねぇ…分からねぇよ!」
シンは苦悶の表情をしていた。そして少しの沈黙の後頭を左右に振り無理やり感情を落ち着かせた。
《私の声に気づいてくれたのがシンでよかった》
「…約束は守る。安心しろよ。」
シンはそっと黄金乙女の足と腕から手を離す。黄金乙女の能力を奪うと決心した。死を覚悟した黄金乙女の意思を無碍にする訳にはいかない。シンは皮肉にも納得したのである。そして右手を握り叫ぶ。
「ナイン!!」
右手の人差し指に業腕が灯る。それを出来るだけ他を壊さないようにゆっくりと突き刺す。ヒビは顔にまで達していた。
「痛いか?」
《全然痛くない、とっても暖かいわ。》
そして心臓へ指を刺した。見たくないとシンは思った。けれどシンは確りとその姿を見ていた。見なければならなかった。
《ありがとう》
黄金乙女の最後の言葉だった。最期に一粒の涙。シンは胸に力が宿ったのを確かに感じたのだった。




