第9話 女神の首飾り
シンが目を覚ますとそこはベッドの中であった。部屋の内装からしてアルマの家のようだ。
「よかった!」
アウラが顔の横にいた。シンが目を覚まして安心したのかペタンと座り込んでしまった。
「負けたんだな、俺。」
「うん…。」
自分のブローチが空を舞ったのはよく憶えていた。身体を起こそうと腕に力を入れたが微動だにしない。腕の動かし方が分からない。
(そうだった。腕が白い炎に包まれたんだった…。)
熱さが支配する中で、およそ自分の本来の腕の力を超えたあの力。剣をも溶かす力。あれはなんだったのだろうか。
「三日ぶりのお目覚めか。どうだ、身体の調子は?」
「絶好調だ。」
「それはなにより。」
アルマの手には包帯が握られていた。それを一旦置きシンを起き上がらせる。
「目が覚めたら宮殿に連れて行くことになっている。」
「分かった。」
シンの包帯を取り外す。徐々に露になる腕がどうなっているのか不安になる。燃えていたし黒炭になっているかもしれない。しかし腕は黒くなくちゃんと肌色だった。しかし変化もあって手首に刺青のようなものが入っていた。
「なんだこれ?」
「それも女王様が説明するそうだ。見た目にさほど変化はないが完治するまでは包帯を巻いておくように言われている。」
そういいながら新しい包帯を巻いていく。アウラも一生懸命巻こうとしていた。
「どうなんのかな、俺…。」
「問題ないだろう。最善ではなくとも最悪ではないのは確かだ。」
「なんだそれ。」
「まあ、行ってみれば分かるだろう。」
アルマは不安を口にするシンに含みのある言葉をかける。その際アウラは上手く巻けなかったようで、シンの手首に包帯が落ちていた。結局両腕共にアルマが処置したのだった。
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「勝負はサガの勝ちよ。シンにはアルビオの永久奴隷になってもらうことになるわ。」
初めてフレイヤと会った部屋にフレイヤ、サガ、アウラそしてシンはいた。アルマは部屋の外で待っている。淡々とフレイヤは事実を話す。
「だけどサガはこれを取り下げてるって。」
「「へ?」」
シンとアウラは気の抜けた声を出した。覚悟して来たのだがまさかの展開である。腕が動けば万歳をしていただろう。
「デアフロスで自分の勝ちとするには納得できないと。そうね?」
「異存はありません。」
「ただ結果としてはサガの勝ちだから。ここはお互い納得できる形として、シンは無罪放免その代わりこちらは情報譲渡の無効にしたいのだけど。」
フレイヤもサガも一切表情を変えず話す。とりあえず奴隷にならずに済んで安心する。
「やったね!」
アウラは満面の笑みでシンを見た。なにやら考えているようだ。
「いや、無罪放免にしなくていい。」
「え!?」
「その代わりなんだけど…。」
衝撃の言葉を発するシンにアウラは目をぱちくりさせる。フレイヤも少し驚いた顔をする。
「何が望み?」
「これから自力で元の世界に帰らなきゃいけねえだろ?だからサガに理由はなんでもいいから一緒にきて欲しい。」
部屋の外からぶっとアルマの笑い声が聞こえた。かなり離れているのだが地獄耳なのだろうか。緊張のシーンが台無しである。
「それはサガ次第ね。」
フレイヤはシンからサガへ視線を移した。二人は目線を合わせる。
「分かりました。」
「そうね…ではこうしましょう。シンを永久奴隷から減刑、要監視対象として対戦相手だったサガが監視同行とする。これでどう?」
「よく分かんねーけど、それでいいぜ!」
「じゃあ、サガは準備してきて。」
一礼してサガは去っていく。トントン拍子に事が運ぶのに多少の違和感があったがサガを仲間にできた。シンは内心でよっしゃとガッツポーズを決める。
「随分あっさりと受け入れたな。」
「いけませんか?」
扉から出てきたサガにアルマは話しかけた。いつものように壁に寄りかかりながら。
「初めからこれが目的だったのではないのか?シンが申し出なくても監視を理由に同行するつもりだったのだろう。」
「準備がありますので。」
立ち去ろうと歩き出すサガ。アルマは壁から身体を離しサガの居る方向に身体を向ける。
「これでお前は大義名分をもってアルビオの外へ出られる訳だな。よかったな。」
この言葉にサガは反応せず、そのまま姿を消した。
(そもそもあの首飾りはフレイヤの命を蝕んでいたではないか。壊れて良しとすればこそ、それでシンを罰するなど出来ないはずだ。問いただしたところで答えないだろうが…我は騙されないからな。)
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「この世界には神の時代から伝わる魔を宿す宝、魔宝があると言われているの。数は全部で9つあると聞いているわ。総称してナインと呼ばれているの。」
「へーそうなんだな。」
フレイヤとシンは椅子に、アウラはシンのフードの中にいた。どうやらフードを気に入ったようである。
「私の首飾りはその一つ”女神の首飾り”と呼ばれる魔宝で、業腕と呼ばれる能力を持っているの。もっともこの能力はエルフは使えないの。神か一部の人間しか使えないと聞いているわ。どうやらシンは使えるだけじゃなくそれを壊すことで自分の能力として吸収できるようね。」
フレイヤは飛んできた白い小鳥を手に乗せて撫でていた。それをシンはぼーと眺める。フレイヤを助けるために誤って首飾りを壊してしまった。あの時に能力を手に入れたようだ。
「…なんかすげーな。」
「どういった能力かというのは自分で体験したから分かると思うけど。使いこなせれば最強の力となるわ。」
「おお、わかったぜ。」
「シンって本当に何者なのよ?」
アウラがフードから顔を出し素朴な疑問をぶつけた。シンはうーんと考えるが、ブラブラ揺れる腕のせいでどこか間抜けに見えた。
「ただの人間だ!」
「言うと思った。」
はっきりと言い放つシンに呆れながらアウラは言った。二人のやり取りを見ていたフレイヤが小さく笑う。
「仲がいいのね。」
「ち、ちがっ!断じて違います!!」
必死にアウラは否定していた。不思議な奴だなーとシンは内心思っていた。




