Episode09 凛として咲くCosmosのように
ちょっと離れた所に群生している、背の高いピンク色の花を指差す。
「あれが何だか、わかるかい?」
私は少し目を凝らす。
「……秋桜、ですよね?」
そう、と言うと川崎さんはコスモスにゆっくり近づいてゆく。
ふいにびゅうっと吹き抜けた風の間に、川崎さんの声が震えた。
「じゃあ、コスモスの花言葉を聞いたことは?」
花言葉……? コスモスの?
「知りません。というか、花言葉自体ほとんど全く」
「まあ、普通は知らないだろうね。僕も最近知ったばかりだ」
優しい手つきでコスモスの花を一撫でし、川崎さんは私を振り返った。
「乙女心、純心、真心」
また、ざわりとコスモスが風に揺れた。
「それが、コスモスの花言葉だそうだよ。由来は知らないが、まあ大方こじつけだろうね」
「乙女心、ですか…………」
「ああ」
川崎さんは優しい眼差しで、私を見つめる。
「コスモスは人間ほどに草丈が高い。あの小振りな花には、イエローコスモスのようなものを含めれば多くの色がある。個性がある。どことなく、親近感を覚えさせてくれるとは思わないかい?」
私も立ち上がって、コスモスの脇へと近寄った。至近距離から見るコスモスは思ったよりずっと大きくて、小さかった。
オレンジに染まる世界に、凛として咲くピンク色の花。
「綺麗……」
無意識に、私はそう呟いていた。
──「なれるさ」
え?
私が顔を上げると、川崎さんは夕陽を眩しそうに眺めながらもう一度、言った。
「君なら、コスモスになれる」
「私が?」
「あの三つの花言葉のように、可憐に生きればいい。それだけで、この花には追いつけるさ」
川崎さんは横を向いたまま言いきった。声はちゃんと、正面から届いたみたいに聞こえたけど。
乙女心、純心、真心。
どれも私に足りない自覚があるものばかり……。
「ま、難しく考えない事だよ」
風の間で、川崎さんは優しく笑ってた。