Episode08 かわいい系戦場カメラマン
「撮影終わりましたー!」
六郷さんの声がかかった。
「すいません、お二人ともご協力ありがとうございました。いいのが撮れましたよ!」
よいしょ、と身を起こしながら川崎さんは笑う。「そうか、そりゃよかったってもんだ」
「こちらこそ、ありがとうございました」
私がお礼を言うと、六郷さんはヒラヒラ手を振って応えた。
「いやいや、時間使っちゃって悪かったね。今日撮った写真、よかったら冊子ごと送りたいんだけど、名前と住所聞けないかな」
私はチラッと川崎さんを見る。
うんうん、と頷く川崎さん。信頼していい、って意味かな。
「えっと、名前は藤井芙美です。住所は東京都世田谷区等々力……」
六郷さんはサラサラとそれをメモ帳に書き取った。「よし、大丈夫だ。必ず送らせてもらうからね」
「それでは、私たちはこれで」
機材を片付け終わったもう一人のカメラマンさんにもお礼を言われ、私は会釈を返す。途端、彼は六郷さんを睨み付けた。
「ほらやっぱり六郷さんの時と格差あるじゃないですかっ!! 俺は何も言ってもらえなかったですよ!!」
「だからさっきから言ってるだろ大森、別に俺だってそんなトコで先輩面しようなんて思ってないって……」
むーっと頬を膨らます、もう一人の──じゃなかった大森さん。この人、ちょっと可愛い。
私はもう一度、会釈した。そのまま、口を開いた。
「大森さん、綺麗に撮ってくれてありがとうございました!」
……こっちを向いた大森さんの笑顔は、西陽よりも眩しかった。
「……あの二人は、もと戦場カメラマンなんだよ」
「────えっ!?」
私の返事は限りなく、叫びに近かった。
二人のカメラマンが立ち去った後。まだ土手に座っていた私に川崎さんの言った一言目が、それ。そりゃ驚くよ。
「ぜんぜんそんな雰囲気感じなかったです……」
「楽しそうだからかな。僕もそう思うよ」
川崎さんも同じ見解らしい。「今はフリーのカメラマン兼記者兼ルポライターをやってるそうだ。何度か、僕の工場に見学と取材に来たことがあってね」
兼任しすぎでしょ……。
「ま、人は見かけによらないということさ」
川崎さんはそう言うとまた、長いため息を漏らした。
話題がなくなって、私も黙りこむ。だけど黙っていても、居心地が悪くならないのはなぜだろう。
人間国宝の力なのかな、なんて思っていると、川崎さんはふとしたように立ち上がった。