Episode06 私と国宝と写真家と
えっ?
驚いた私が振り向くとそこには、
「……さっきの、カメラマンさん…………」
でっかいカメラを担いだ二人の男の人が、私とおじいさんを向いて立っていた。
「何だね、君たち。今日はどうした」
おじいさんが振り返ると、二人は和やかに話しかけた。「お久しぶりです、川崎先生」
──先生……?
「ずいぶん久しく会っていなかったね。てっきりもう、他所の街に行ったものと……」
「覚えてらっしゃいましたか! いやー僕たちも驚いてるんですよー、先生にジョギングの趣味がおありだとは伺ってたんですが……」
もう何が何だか分からない。
「あの、すみません」
私はおずおずと手を上げた。
「おじいさん、先生なんですか?」
大爆笑する二人!
「せっ……先生なんですかってっ……あっはっはははははっ!!」
おじいさん──否、川崎さんまで笑っている。ああ……飛び込みたい!! 今すぐ多摩川に飛び込んで溺れ死にたい!! 恥ずかしい! 何かもうよくわかんないけど恥ずかしいっ!!
やっと笑いやんだ二人は、両手に顔を埋める私に言った。
「ここにいらっしゃる川崎武則先生は、人間国宝なんだよ」
──え。
──えええ。
「えええええええ!!」
我ながら、すごいオーバーリアクションだった。
「ちょっ……すみませんっ私知りませんでしたっ!!」
叫びながら土下座しそうになる私を、川崎さんが押し止める。「まあまあ、別にそこまでしなくていい。むしろ、僕の知名度を理解するいい機会だと捉えるさ」
後ろで苦笑いする、二人のカメラマンさん。
「それであの、川崎さんはどういった分野の……?」
「陶芸だよ」
カメラマンさんの一人──多分、こっちが六郷さん──が代わりに答えてくれた。「先生は、日本の陶芸技術の第一人者だ。作品を作られる度にとんでもない値段がつくほどの方なんだよ」
「こらこら、言いすぎだ言いすぎ」
今度は川崎さんが苦笑だ。ただただ圧倒されて何も言えないままの私の頭に、ポンと手をのせる。
「ま、人間国宝と言えど近くで見ればただの人間なのさ。僕は未だに自分が国の宝だなんて思えないし、これからも思わないだろうけどね」
国宝の腕が、私の頭の上に乗っている。
これ、一体なんの因果? なんで私こんなすごい展開に巻き込まれてるの今日に限って!?
……考えない事にした。
なんか、今日は運の善し悪しの高低差がいつもより大きいみたいだ。それならそれで、納得しよう。私は私で、勝手にやってくる展開を楽しめばいいだけだもん。
そう決めた私の目と鼻の先で、さっそく展開が動き始めた。