episode04 青春……なんだよね、これ
いや、触れようとしたんじゃない。払ってくれようとしたんだよね。そのくらい、私にも分かる。だけど、だけどさ、
「え、ちょ……っくすぐったいよ……」
制服の上から蒲田くんの手が脇を撫でるたび、身体が、頬が火照る。心拍音が骨を伝って全身に行き渡る。それに────とにかく、めちゃくちゃくすぐったかった。
「ほら、取れた」
そう言って彼は、手を離した。息を荒げる私に、その手を差し出す。
細かな草や砂が、白っぽい蒲田くんの指の間に乗っかっていた。
超真顔で蒲田くんは尋ねた。
「……なあ。まさか藤井、この球踏んで転んだの?」
ぐさっ。
まだ火照りと震えを隠せないまま、私は細い声を絞り出した。「…………たぶん」
ほんとだ、と球を見ながら蒲田くんは呟く。「ごめんな。これ多分、うちの野球部の奴だ。ノックで好き勝手ぶっ飛ばして球がよくどっかに行っちゃうんだけど、それかもしれない」
そんな言い方されちゃうとなんだかこっちが悪いことしたような気がして、私はあわを食ったように手を振る。
「ううん、いいよいいよ。私、別に怪我なんかしてないし、」
……心配してもらえたし。と言ってしまいかけて、慌てて口を閉じる。
「おーい蒲田ー! 次の打順お前だぞ!」
蒲田くんの背後から、そう呼ぶ声がかかった。
「いけね、俺行かなきゃ。まだ練習試合終わってなかったんだった」
私の渡した球をしっかりと握り、蒲田くんは踵を返す。なぜだろう、息が詰まって何も言えなくなる私。
振り返りざま、蒲田くんは笑った。
「ありがとな、藤井」
どきっ。
身体が跳ねたんじゃないかと思った。
「そんな……私はただ拾っただけだよ」
結局、私はそれしか言えなかった。言いたいことはもっと、別にあったのに。
何て言うかな、
胸が一杯だったんだ。
しかも、感謝でも懐かしい気持ちでもない何かで。
────「はぁ」
茜色に染まる空を見上げ、土手に上がった私はため息を吐き出した。
すぐ近くの鉄橋を、轟音をあげて新幹線が駆け抜けていくのが見えた。
なんだろう、突然放り出されたようなこの感覚。
「……ま、いっか」
無理矢理自分を納得させて、私はまた自転車に跨った。
ちっちゃい子たちが、河原を元気よく走り回っている。
土手の傾斜に座り込んで談笑しながら、子どもたちを見守っているお母さんたちがいる。
土手の舗装道路を自転車で疾走する人がいる。
風景を楽しみつつ、ジョギングしている人がいる。
スクリーンのような空の彼方を、Vの字型の隊列を組んで航っていく鳥たちがいる。
やっぱりこれが、いつもの風景だ。しっくりくるもの。
「なんか、ゆっくり帰りたいなぁ」
誰ともなしに、私は溢した。
一秒後にはそれが現実になるとも知らないで。
あれ?
さっきのおじいさん、ここで何やってるんだろ……。