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Episode03 久々の彼は、セクハラ魔?



 バキン。

 歪んだ板は、ついに外れた。

「よっし、そしたら次はチェーンだな」

 手際よく、おじいさんは手に取ったチェーンをギアに嵌め込む。

 私が十分前からうんうん唸りながらそれでも終わらなかった仕事を、この人はたったの二分で熟してしまった。

「すごい……」

 そう溢すと、カバー板の歪みを直しながらおじいさんはまた笑った。

「なに、年寄りはこのくらいしか若いモンの力にゃならんからな」


 橙色の陽に照らされた横顔は、淋しそうにも、誇らしげにも見えた。


 カバーが、嵌まった。

「何とかなった」

 汗を拭いながら、おじいさんは言った。「でも、お家に帰ったら点検した方がいい。あくまで応急処置だ、もしかしたら他にも破損してる部分があるかもしれないからね。よくよく気をつけて、帰るんだよ」

「あの、ホントにありがとうございました。助かりました」

 何とも言えない安堵に包まれながら、私は丁重にお礼をする。

 実際、相当ホッとしてたんだ。この人が助けてくれなかったら、私はいつまでもここで座り込む羽目になってたのかもしれない。

 親切な人って、案外いるものなんだ。

「いいさいいさ、お礼なんか」

 身を起こしながら、おじいさんは手を叩くとニヤッとした。「それよりも、君が困ってる人を助けられる人になってくれる方が僕としては嬉しいね。何せもう、僕は年老いていくばかりだからな」

 じゃ、と片手を上げると、おじいさんは私の家の方に走っていった。


 また少し汚れてしまったボディを見、ぽつりと私は呟く。

「片付けなきゃ、だね」

 野原の斜面に転がったまま西陽を浴びる、カバン。取り付け式のLEDライトも傍らに落ちている。拾い上げて自転車に積むと、ふうっと私は息を吐いた。


 あれ?

 あそこに落ちてるのって、ボール……?


 立ち上がった私の四メートルくらい先に、茶色くなった一つの野球ボールが落ちていた。

 さっきは気づかなかった。もしかして、さっき私が転んだのってこのボールに乗り上げたから……?

 取りあえず、拾ってみる。

 眺めるうち、私の予想は確信に変わった。自転車の車輪の跡が、ちゃんと表面に残っていたんだ。

「……あそこの人たちのかな」

 ボールを持ったまま、私は眼下の河川敷を見下ろした。そこには、広い川原に設置された野球場で練習しているどこかのチームがいた。



「あのー……」

 野球場の入り口で、私は遠慮がちに声をかける。

 近くまで来てみたのはいいんだけど、なんだか大柄な人ばかりのチームだったんだ。もしかしたら、高校生かもしれない。ちょっと、怖かった。

 高校生って、よく分からないけど怖いようなイメージがある。そんな腰引け状態の私に気づいたのか、

「はい?」

 一人の選手が歩いてきた。

 やっぱり大きな身体に、私の心はどんどん萎縮する。

「え、えっとこのボールがあの土手の上に落ちてたんですけど、こちらのですか……?」

 怖くて顔も上げずに私が尋ねると、


「…………あれ? もしかして、藤井?」


「えっ?」

 思わず私は彼の顔を見た。

 そして、大いなる誤解に気がついた。

「藤井だよな! 久しぶりじゃん!」

「蒲田くん……?」

 そうだ、この声。思い出した。

 彼は、蒲田(かまた)秀昭(ひであき)。私の、元同級生だ。

 受験してどこかの学校に行ってしまって、私は行方を知らなかったのだけど。まだこの街に住んでいたんだ。ということは、ここに今いるのは中学生……。

「そ、俺だよ。藤井には言ってなかったかな、あの川向こうの溝ノ口中学に通ってるんだ」

「みんな背、大きいねー……」

「だろ? だけどここの連中みんな身長高くてさ、俺正直あんまり目立たないんだわ」

 一頻り笑うと、蒲田くんはボールを見遣る。「えっと、ボールだったよな。これはどこで?」

「あの土手の上に転がってたんだけど」

 言いながら、私は背後の橙に輝く崖を指し示した。

 ついでに、文句の一言も言ってやろう――


 ……蒲田くんの目はそっちを見てくれてない。

 むしろ、私を眺める。

「…………藤井、そのドロとか草どうしたの?」

「へ?」

「これ」

 言うなり、


 蒲田くんは私の脇腹を触ってきた。

「わひゃっ!?」




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