Episode12 オトナって何だろう
「……みんな、あの頃からちょっとずつ変わってったからね」
思い出しつつ、私は丁寧に言葉を紡ぐことを心掛けた。「あの頃と同じようには、行かないよ。誰だって、大人になるのを避けられないんだし。進歩したのかは……分からないけど。だけど、私も蒲田くんの気持ちはなんとなく分かるかもしれない」
置いていかれることの辛さ、寂しさ。つまりは、そういうことなんだと私は思ったんだ。ちょっと遠ざかっていただけで、以前とはまるで違う関係に変わってしまった。それはまるで、ちょっと離れていた街に帰ってみたら、懐かしい建物が壊されてしまっていたような……。
「だけどさ、さすがに脇腹はないでしょ」
同情しちゃいそうになって、慌てて私は話を戻す。
「なんで?」
「なんでって……私たち思春期だよ!? 身体に触るって行為が何を意味するか分かるでしょ!?」
首を捻る蒲田くん。私はまた、ため息をついた。そうだった、昔から蒲田くんって他の子よりスキンシップ多かったんだよね……。
説得を諦めた私も蒲田くんも、黙りこんでしまった。ただ黙って、沈みゆく橙の光を見つめた。
「……俺たちあの頃、よくここで遊んだよな」
ふいに、蒲田くんは立ち上がった。眼下の野原を指差す。
「男女も強い弱いもなかった。そこの河原で、何度もサッカーしたり鬼ごっこしたりしたの、覚えてる?」
こくっ、と私は頷く。
「懐かしいな……。でももう、無理なんだろうな……」
そう言って目を細める、蒲田くん。
そりゃそうでしょ、って突っ込むことも出来たけど、私はやっぱり黙っていた。
黙ってその顔を下から見上げながら、
私は自然と表情が弛むのを感じてた。
蒲田くんといると、何だか小学生だったあの頃に戻ったみたいな気分になる。それってやっぱり、蒲田くんがあの頃の幻想を抱いたままでいるからなのかな。あるいは単に、蒲田くんが子供っぽすぎるだけなのかな?
……でも実際、蒲田くんの言う通りなのかもしれない。私たちはあれからたったの二年で、すっかり「オトナ」になってしまった。もうあの無邪気な自分に戻ることは、出来ないのかな。
それはそれで、ちょっと寂しいな……。
ふと、蒲田くんの向こうにさっきのコスモスが見えた。
秋の冷たい風に舞う、たくさんのコスモスが。
「あれ、綺麗だな」
蒲田くんも同じものを見てたみたいだ。「そうだね……」と語尾を伸ばして私が応えると、蒲田くんは吸い寄せられるようにコスモスへ近づいていく。
「コスモス、だよな?これ」
物珍しそうな蒲田くんの呟き。「綺麗な色してるよな。人間に例えたら、どんなになるんだろう」
サワサワとコスモスの花を撫でながら、蒲田くんは微かに言った。
やさしく撫でてもらって、きっとコスモスも喜んでるんじゃないかな。
不思議と、そんな気がした。
 




