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千剣のヴァルファロス  作者: 壱藤弐鳳
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シリアの挑戦と不穏な影

 ファルドは天者である。天者とは知、魔、武の三つ全てを兼ね備えた者のみに与えれる称号で、その中でもファルドは世界で五人にしか与えられない称号「五聖大天者」である。

 五聖大天者に選ばれた者は、世界一の大国フェンデルセンで王に次ぐ役職を与えられる。

 強制ではないが、五聖大天者となった者は未来永劫その名を歴史に残すことが出来るうえ、世界一の大国で二番目の権力者となれるので、断った者は過去一人としていない。

 しかしファルドは権力には毛ほどの興味もない。小さい頃村が戦場となってしまい、敵や味方の兵、村人やファルドの両親も死んでしまい、彼だけが生き残った。その時遅れて駆けつけてきたフェンデルセンの四聖獣騎士団に拾われ、孤児として育てられた。


  ファルドの成長は著しかった。学問や魔術の習得、武芸に至るまで教われば教わった以上の事を自分で考え身に付けていく。

 十歳の時に知と魔を兼ね備えた者の称号「賢者」を与えられた。その二年後に、四聖獣騎士団の各部隊隊長と、騎士団長を相手に神王の御前試合で勝利したことにより、その強さを認められ「天者」となった。わずか十二歳の少年が天者を名乗るのは歴史上初の事だ。

 ここまでは自分を拾ってくれた騎士団の皆や、才を見出だし教育を施してくれた神王や后であるメイルーズ様への恩返しのつもりだった。

 しかしファルドが十四の時、当時の「法」の五聖大天者だったメイルーズ様が難病を患い亡くなってしまったのをきっかけに、ファルドは五聖大天者を志すようになった。

 そして神王相手に力を示す事で、ファルドは「法の五聖大天者」となった。



 「娘が学校に行きたいって言うから護衛として君も入学して」

 ちょっとおつかい頼まれて、ぐらいの軽い

のりだった。

 神王に呼び出され、謁見の間に入るなりいきなり言われたので、ファルドは聞き間違い

かと思った。

 「聞き間違いだったらすみません。今入学って」

 「うん言ったよ」

 言い終わらないうちに早口で答えられた。

 「ファルドは頭いいんだからもう理解出来てるでしょ。そういう事だから」

 「‥‥どうせまた、言うこときいてくれないならもうパパって呼んであげない、とか言われたんでしょ」

 「‥‥‥もう二度頭撫でさせてあげないって言われた」

 ぐすん、と神王は両手で顔を覆う。わりと本気で悲しんでいる様だ。

 親バカは今に始まった事ではないが、こういった一面を見ているとこの人が神王だということに疑問を感じてならない。

 娘のシリアとは幼なじみなので彼女の性格は知っているけれど、だんだん父親の扱いが上手くなっている気がする。

 それよりも学園に通うとなるとひとつ問題がある。五聖大天者の仕事だ。

 「そうそう、仕事の方はある程度僕が引き継ぐけど、ファルドの魔法印が必要な書類もあるしね」

 学園に書類を送ってもらうという手もあるが、国の機密事項に関わるものもある為得策とはいえない。

 そもそもファルドのような立場の人間が学園に通うということ自体あり得ない。

 ファルドの言わんとしている事が分かったのだろう。神王は、この話は終わりとばかりに手を叩いた。

 「とにかくそういうわけだから。あーそういえばシリアが君を呼んでたよ。部屋に来いってさ」



 謁見の間を出て、ファルドは自分の部屋へ転移した。

 王宮は三つに分かれていて、謁見の間がある建物とは別の建物にシリアの部屋はある。通常建物間の移動は、各階に転移魔方陣が敷かれていて、西側の建物に行きたい場合は西側の魔方陣、東側の建物は東側の魔方陣という具合だ。今向かっているシリアの部屋は西側にあり、ファルドの部屋もそこにある。

 ファルドは自分の部屋に転移術式を施しているので、魔方陣の所まで行く必要がない。 シリアとは子供の頃よく遊んでいたので、前に一度シリアの部屋に転移術式を施して移動を楽にしたのだが、その際ちょっとしたトラブルがあったので術式は解除してしまった。

 転移が完了して自分の部屋に着いてすぐ、自分の部屋を出てシリアの部屋に向かう。部屋は最上階にあるので少し歩く。

 歩きながらファルドは右手に刀を出現させる。右手に青い光が集中し、それが刀へ変化していく。刃渡り百センチ程の刀で、よく使用するお気に入りである。

 途中掃除中の宮仕えの者達とすれ違い、皆一様に刀に目をやった。王女の部屋に行くんだと言うと皆納得し掃除に戻る。またか、とため息をする者もいたので、ご迷惑をお掛けしますと頭を下げた。

 五聖が宮仕えに頭を下げるなど本来あり得ない。だが今の人達はファルドが拾われた頃からここで働いていて、いたずらをしたら叱ってくれたりしたし、特訓で怪我をしたら心配もしてくれた。五聖の他の四人はともかく、ファルドに対しては家族のように接してくれる。それがとても居心地が良かった。


 シリアの部屋の前まで来たファルドは、ドアを開ける前に魔力の波長を飛ばし、部屋の内部を探る。これは魔響と呼ばれる技だ。魔響は魔法が使える者なら誰でも出来るが、ファルド程の使い手になると本棚にある本の数や、引き出しの中に何がしまってあるかまで特定出来る。それなりの使い手でも、探知術式を組まなければそこまでは不可能だ。

 探知を終え、ファルドはドアを開けた。

 部屋は不自然に暗い。魔響では部屋の明るさまでは分からない。おそらくシリアが魔法を使っているのだろう。シリアは隠れているようだが、魔響で居場所は特定している。部屋の中程まで進んだところで、部屋のドアが閉まった。

 来るか。そう思った瞬間、ファルドの視界は白に覆われた。



 やはり探知された。しかしそれでもやることは変わらない。

 杖を握るシリアの手に力が入る。魔法で外部からの光を遮断しているのでかなり暗い。魔法発動の準備はすでに完了していて、後はファルドが部屋に入ってくるのを待つだけだ。

 ドアが開き、ファルドが部屋に入る。シリアの視線はまず彼の持つ武器にいく。

 その手に握られているのは黒い柄に鍔、うっすらと紅く輝く刀身の断魔刀《紅涙》

 肉体的損傷を一切与えることは出来ないが、魔法や魔力そのものを断絶する魔刀。

 やはりというか、当然舐められている。どうせまた防御に徹するのだろうがそうはさせない。

 今に見ていろと、シリアはより一層強く杖を握った。

 ファルドが部屋の中程まで進んだのを見計らって、細工をしておいたドアを閉める。

 作戦開始だ。シリアは杖に溜め込んでいた魔力の一部を光に変え、部屋を覆い尽くした。目を開けていられない程の光を浴びさせ、ファルドの視界を封じる。その隙にシリアは光球を造って光源を確保し、杖の先端を床に当て、用意していた術式を発動させようとする。

 その時体を何かがすり抜けていくような感覚がした。ファルドが魔響円を使ったのだ。

 術者を中心に魔響で空間を造ることによって、視界を封じられたり背後からの攻撃でも相手の動きが手に取るように分かるのだ。

 構わない、とシリアは術を発動させる。


 光影混術《蛇影縛絲》


 暗い部屋に光球を造り影を濃くすることによって影術の威力を上げた。自然界に存在するものをそのまま使うか、協力関係にある属性同士を組み合わせることによって術の効果は上がる。

 例えば、水術を使うときは一から水を精製するより水場で使用した方が消費魔力は少ないし威力も高い。火術の場合は風術と組み合わせる、といった具合だ。だが二つ以上の属性を組み合わせる混術はそれなりに修練と才能が必要で賢者クラスでなければ使えない。ここからシリアの非凡さが伺えるだろう。

 影が蛇の様にうねり、ファルドに絡み付こうと襲いかかる。体をひねりながら影蛇をかわす。その動きに一切の無駄はない。

 「まだまだぁ!」

 更に影蛇の数を増やす。ファルドもかわしきれない数になり、かわせない影は切り裂いていく。かわしながらファルドが何か言ったみたいだが、聞こえなかったのでスルーした。

 ファルドを捕らえられない事に苛立ち、シリアは勝負を仕掛ける。

 「これで」

 ファルドの足元の影を変化させ、動きを封じようとしたが、跳躍してかわされた。

 だがこれは狙い通りだ。

 「どうだぁーー!」

 部屋中の影を使いファルドの上下左右四方八方を囲んだ。

 これで捕らえた、とシリアは確信した。



 影の操作が上手くなった、とかわしながらファルドは思った。

 シリアが本当に得意なのは光術であって影術ではない。シリアの母メイルーズ様も光術が得意だったが、影術も凄まじかった。

 光術士は影術も極めて一人前、というのがメイルーズ様の持論だった。メイルーズ様が死ぬ間際、ファルドはシリアの成長を促すよう頼まれた。実の息子の様に接してくれたメイルーズ様への恩返しの為、ファルドはシリアの挑戦に付き合っている。これでシリアが強くなるならいくらでも付き合おう。

 「シリアはちゃんと成長してますよ、メイルーズ様」

 自分の影が足に絡み付こうとしたのを跳躍してかわし、四方八方を囲まれた。魔響でシリアの表情が緩んだのが分かった。

 「でもまだまだかな」


 我流魔刀術《斬界》


 紅涙を媒介にして新たに魔響円を展開。そして縦横無尽に刀を振るう。魔響円内部に斬撃が満ちていく。内部に侵入してきた影がまるですりおろされたかのように霧散していった。



 きっとこれも防がれるだろう。けどまだ終わりじゃない。ファルドはまだ空中にいる。杖に残留している魔力を全てさっきの光球に注ぎ込み、最後の手を発動させる。


 二重光術《光龍葬》《十天刃》


 二つの術をほんの少しだけタイミングをずらして発動させる。これも高等技術だ。

 龍を形作った光波をファルドめがけて飛ばす。わずかに遅らせて三日月型の刃をファルドの背に回り込ませる。

 斬界を終えた直後、タイミングはバッチリだ。たとえ光龍が刀で消されても十の刃がファルドに当たる。

 案の定光龍は切り裂かれ、消された。だが刃は当たる。そう思った瞬間、シリアは五聖大天者の力を過小評価していたことに気づかされる。



 タイミングはいい。技の選択も間違ってはいない。四聖獣騎士団隊長クラスだったら仕留めきれないまでも深手を負わせられただろう。だが、五聖には届かない。

 刀を出現させた時と同様、いや、それ以上の速度で盾を数枚出現させる。それを足場にして刃をかわす。

 ただかわしているわけではない。出現させた盾には全て倍速術式を施してある。かわしながら加速していき、全ての刃をかわし終え、肉眼では捉えきれない速度まで達した。

 そして刀の切っ先をシリアの喉元に当てたことにより、シリアの挑戦は失敗に終わった。



 「うぅ、ぐやじいーー!!」

 ベッドに寝転がりながら駄々をこねる子供のように手足をばたつかせているのはフェンデルセン時期王位継承者である。

 「でも強くなってるよ。俺が保証する」

 ファルドは近くに倒れていた椅子を起こして座る。

 実際はその気になれば斬界だけで十分だったのだが、そればかりではシリアの対応力が養われない。

 「ただ魔法術ばかりじゃなくて杖術も使った方がいいと思うよ。せっかくニールさんに教わってるんだし」

 シリアの杖術の師匠であるニールさんはメイルーズ様にも教えていた人で、魔法力は無いが杖術はフェンデルセン一の使い手だ。武芸に優れた者だけが選ばれる「八闘士」の一人でもある。

 魔力の使用一切禁止という武闘大会のルールで闘えば、ファルドでも勝つのは難しい。

 「もしくは玄武隊の隊長さんみたいに投てき武器に術を纏わせて攻撃したら?紅涙で防げるのは魔法だけだし」

 「で、でもそれだと‥‥ファルドがけ、怪我しちゃうかもだし」

 ゴニョゴニョと言うシリアが何を言ったかよく聞き取れなかったが、表情を見て何が言いたかったか大体想像はつく。

 「俺への配慮は要らないよシリア。大丈夫、シリアの攻撃じゃ俺は傷つかないから」

 任せなさい、と胸を張ったがどういうわけかシリアは途端に不機嫌そうな顔をしてベッドに潜ってしまった。

 プライドを傷つけてしまったかと思ったが、ベッドの中から人がせっかく心配してやってるのに、とか大体いつもファルドは(以下略)などと言う声が聞こえた。

 シリアはいつもよくわからない事で不機嫌になる。ファルドにはよくわからないが、きっと男と女の考え方の違いなのだろうと勝手に納得する。

 だから心配なんて要らないのにと思いつつ、とりあえずシリアに謝っておく。

 布団から顔だけ出して分かればいいのよ、とシリアはベットから出る。

 「そういえば神王から聞いたけど俺を呼んでたんだろ?入学についてのことじゃないのか?」

 「うん。その事だけどどこまで聞いてる?」

 「お前が父親を脅して学園に通うことを承諾させた事。俺もお前の護衛として入学するってとこまで」

 「そこまで聞いてれば十分よ」

 脅した事は否定しないようだ。あんな理由で承諾する親も親だが。

 「あ、でもひとつ訂正。ファルドは護衛としてじゃなくて私の友達として振る舞うこと。彼氏とかでもいいんだけど‥‥」

 最後のとこだけよく聞こえなかったが、多分大した事じゃないだろう。

 「と、とにかく私は普通に学園生活を楽しみたいの。分かった!?」

 「はいよ」

 納得してもしなくても結局答えは変わらない。小さい頃からの付き合いなので、それはファルドが一番よく知っている。

 顔には出さないが、学園に通うのを実はちょっと楽しみだったりする。同い年の知り合いなんてシリア意外いないので、友達も積極的に作ろうと考えている。

 シリアよりも自分の方が楽しみにしているんじゃないかと思いつつ、散らかした(ほとんどシリアが)部屋の片付けを手伝って貰おうとさっきの宮仕の人達を呼ぶ為、ファルドはシリアの部屋を後にした。



 「そういえば、王女様は学園に通うそうではないですか。神王はよくお許しになられたものです」

 真面目そうな男は言った。

 「あんなのが神王だからクソ小娘が意気がるんだ!しかも次はあれが神王になるってんだぞ!冗談じゃねぇ!!」

 口の悪い男は持っていたグラスをテーブルに叩きつけた。グラスに入っていた酒とテーブルの上の料理がこぼれたことで、真面目そうな男は顔をしかめたがとりあえず話を進める。

 「やはりエスファルディア君も入学するようです。これで手が出しにくくなりました。厄介ですね」

 「ふん、あれだってケツの青いガキだ。サシならともかく、俺とお前の二人がかりなら周りに気付かれる前に殺れるだろう?」

 グラスに残っていた酒を一気に飲み干し、口の悪い男はニヤリと笑う。

 酔っているのか短絡的な答えしか返ってこない。真面目そうな男は少し苛立った。目的が同じ事と、一人では達成困難ということでなければこんな男とは絶対に組みはしないのだが。

 「油断はいけません。彼の力は既に証明されています。あなただってご存知の筈です」

 ファルドは五聖大天者になってすぐに一度だけ戦争に参加した事がある。といっても味方はいない。ファルド一人で小国とはいえ一国を相手にした。

 敵は強い武器を開発し、何を血迷ったか大国フェンデルセンに喧嘩を売ってきた。それをファルドは一蹴して白旗を揚げさせた。

 エスファルディア・ネス・ヴァルファロスが五聖大天者として自国に、そして世界中に名を轟かせた。

 この戦争によってファルドが『千剣』の異名をとるのだが、それはまた別の機会に。


 「まぁとにかくあの学園の行事には"事故"でうっかり死んじまうのあるようだし。とりあえず今は飲もうじゃねぇか」

 乾杯だ、と口の悪い男はグラスを差し出す。真面目そうな男はそれに渋々応じ、二人は一気に飲み干した。

 本当は簡単にでも「計画」について話し合いたかったが、口の悪い男がそんな状態ではなくなってしまったので諦める。

 二人の男の会合は夜中まで続いたが、こぼしたはずの酒や料理のシミは跡形もなく消えていた。

 読み返した感想「セリフ少なっ!」


 戦闘シーンいかがでしたでしょうか?


 読んで頂けたら幸いです。

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